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東北沖海底火山は硬い堆積物を身にまとう ~地震発生時のプレート境界すべり抑制に関する新たな知見~

2022年1月6日

東京大学
東北大学
千葉工業大学
海洋研究開発機構
株式会社京都フィッション・トラック

発表のポイント

♦有人潜水調査船「しんかい6500」とその支援母船「よこすか」を使用して採取された東北沖海底火山の岩石から、火山活動によって堆積物が激しく擾乱されていた証拠を発見しました。
♦地球深部から上昇してくる熱いマグマは、上昇中に周囲の柔らかい堆積物を焼きなまし、硬くなった堆積物をまるで“硬い鎧”として身にまといながら噴火し、海底火山となることを確認しました。
♦焼きなまされた硬い堆積物を身にまとった海底火山が沈みこむと、地震発生時のプレート境界すべりを抑制する可能性を示しました。

発表者

秋澤 紀克(東京大学 大気海洋研究所 助教)
松崎 賢史(東京大学 大気海洋研究所 助教)
田村 千織(東京大学 大気海洋研究所 技術専門職員)
平田 岳史(東京大学 大学院理学系研究科 教授)
平野 直人(東北大学 東北アジア研究センター 准教授)
町田 嗣樹(千葉工業大学 次世代海洋資源研究センター 上席研究員)
金子 純二(海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 技術副主幹)
檀原  徹(株式会社京都フィッション・トラック)
岩野 英樹(株式会社京都フィッション・トラック)

発表概要

東京大学大気海洋研究所の秋澤紀克助教を中心として、東京大学大学院理学研究科、東北大学東北アジア研究センター、千葉工業大学次世代海洋資源研究センター、海洋研究開発機構海洋機能利用部門、株式会社京都フィッション・トラックのメンバーで構成される共同研究チームは、東北沖の海底火山であるプチスポット(注1)で採取(図1)された岩石(図2)を用いて、地球深部から上昇してくる熱いマグマが約300m厚の海底堆積物を上下方向広範囲にわたり擾乱し、焼きなましてしまうことを物質的に明らかにしました(図3)。2011年の東北沖太平洋地震時には、プレート境界すべり(注2)の進行がプチスポットの存在エリアで妨げられた可能性が海底物理観測の観点から指摘されていましたが、その物的証拠を本研究で得ることができました。これは、津波を引き起こす巨大地震発生時に、プレート境界すべりを抑制するメカニズムをより詳しく解明するのに、物質の状態に関して制約を与える成果となりました。

発表内容

小さな海底火山であるプチスポットが、2011年の東北沖太平洋地震時にプレート境界すべりの進行を妨げたとする可能性が、海底物理観測の観点から近年指摘されていました(文献1)。これは、プチスポット近辺で“すべりやすい”海底堆積物の厚さが薄くなっているように見えるという観測事実から推察されたもので、そのような場所ではプレート境界すべりが抑制されると予想されます。しかし、この仮説は間接的な観測による証拠の上に成り立っており、物質的な検証が望まれていました。そこで本研究では、有人潜水調査船「しんかい6500」とその支援母船「よこすか」を使用したYK05-06次航海、YK21-07S次航海において東北沖にあるプチスポットサイト(図1a)に行き、海底観察と岩石採取を試みました。

本研究で扱ったプチスポットサイトには、白亜紀後期から降り積もる約300m厚の海底堆積物が存在しており、プチスポットの近辺ではその厚さが薄くなっていることが海底物理観測結果から示唆されています(文献2)。本研究で海底調査を実施したプチスポットは、直径約1km、高さ約100m程の大きさで、表面が角ばっており、岩石がよく露出していました(図1b, c)。採取された岩石は、黒色部と白色部がまだらになっており(図2)、黒色部は熱いマグマが固まった玄武岩(注3)、白色部はそのマグマによって焼きなまされた堆積物でした。このことから、プチスポット火山は海底下で、焼きなまされて硬くなった堆積物を鎧のように身にまとっていることが示唆されました。一方で、焼きなまされた堆積物中には年代推定が可能である放散虫(注4)の化石やジルコン(注5)が含まれており、放散虫化石は約1000~1500万年前、ジルコンは約100万~1億年前の広い年代幅を示しました。これは、プチスポット火山を形成したマグマが、白亜紀後期から少しずつ海底に堆積する堆積物を東北沖にて上下方向広範囲に激しく擾乱し、海底まで運んだことを意味します(図3)。冒頭で紹介した、プチスポットがプレート境界すべりの進行を妨げたとする仮説は、本研究で新たに明らかになった、(a)硬い焼きなまし堆積物をプチスポットが身にまとうこと、(b)堆積物を激しく擾乱すること、を考慮に入れることで、より強固なものとなりました。本研究で得られた物質的知見は、津波を引き起こす巨大地震発生時にプレート境界すべりを抑制するメカニズムを解明するのに重要な制約を与えるものになったと言えます。

プチスポットは、その名が示す通りプチ=小さいですが、海底下にはマグマを運ぶ通路があり(図3)、それは堆積物よりずっと深くマントル(注6)にまで達します。本研究では、海底下数100m程度までのごく表層でのマグマによる擾乱を扱いましたが、それよりも深くマントルではどのような擾乱が存在するのか今後明らかにしていきたいと考えています。プチスポットでは数cm程度の大きさのマントルのカケラ(注7)が含まれており、それを研究に使用すれば、一見静寂な東北沖の下のダイナミックな地球の鼓動を明らかにすることができると期待しています。

本研究は、科研費「海溝近傍での海洋プレート変形に伴う水・熱の流動過程とその沈み込み帯への影響の解明(課題番号:18H03733)」、「鉱物U-Pb年代系を用いた太古代・付加体記録の認定(課題番号:18J01101)」、「Evolution of the thermocline in the Indo Pacific Warm Pool during warmer climate phases of the late Neogene(課題番号:19KK0089)」、「環境医学領域におけるメタロミクス手法の開発と応用に関する研究(課題番号:19H01081)」、「付加体に取り込まれたプチスポット玄武岩の確立(課題番号20K04098)」、「定常的リソスフェアーアセノスフェア境界領域の支配要因(課題番号:20H02003)」、「アニール技術を応用したジルコンの高確度U-Pb年代測定法の確立(課題番号:20K14573)」の支援により実施されました。

文献1:Fujie, G., Kodaira, S., Nakamura, Y., Morgan, J.P., Dannowski, A., Thorwart, M., Grevemeyer, I., Miura, S. (2020) Spatial variations of incoming sediments at the northeastern Japan arc and their implications for megathrust earthquakes. Geology, 48, 614–619. https://doi.org/10.1130/G46757.1このリンクは別ウィンドウで開きます.

文献2:Fujiwara, T., Hirano, N., Abe, N., Takizawa, K. (2007) Subsurface structure of the ‘‘petit-spot’’ volcanoes on the northwestern Pacific Plate. Geophysical Research Letters, 34, L13305. https://doi.org/10.1029/2007GL030439このリンクは別ウィンドウで開きます.

発表雑誌

雑誌名:「Marine Geology」(2021年12月24日付)
論文タイトル:A direct evidence for disturbance of whole sediment layer in the subducting Pacific plate by petit-spot magma–water/sediment interaction
著者:Norikatsu Akizawa*, Naoto Hirano, Kenji M. Matsuzaki, Shiki Machida, Chiori Tamura, Junji Kaneko, Hideki Iwano, Tohru Danhara, and Takafumi Hirata
DOI番号:10.1016/j.margeo.2021.106712
アブストラクトURL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0025322721002942このリンクは別ウィンドウで開きます

問い合わせ先

東京大学 大気海洋研究所
助教 秋澤 紀克(あきざわ のりかつ)
E-mail:akizawaaori.u-tokyo.ac.jp    ※アドレスの「◎」は「@」に変換してください

東北大学 東北アジア研究センター
准教授 平野 直人(ひらの なおと)
E-mail:nhiranotohoku.ac.jp

千葉工業大学 次世代海洋資源研究センター
上席研究員 町田 嗣樹(まちだ しき)
E-mail:shiki.machidap.chibakoudai.jp

用語解説

注1:プチスポット
海洋プレートの屈曲に伴ってマグマが噴出する新種のタイプの海底火山。
注2:プレート境界すべり
異なるプレート同士がぶつかり合う場所では、プレート境界ですべりが生じます。ここでは特に、地震発生時にプレート境界で促進されるすべりを意味します。
注3:玄武岩
ドロドロのマグマが固まった、火山岩の一種。
注4:放散虫
とても小さな単細胞の生物。形態が多様で種の入れ替わり速度が速く、化石の種の同定ができれば、堆積物の年代を推定することができます。
注5:ジルコン
ジルコニウムのケイ酸塩鉱物。ウランやトリウムに富み、鉛に乏しいため放射年代測定をすることで年代推定ができます。
注6:マントル
地殻の下に存在する、地球の内部物質の一つ。マントルが溶けると、マグマが生成します。
注7:マントルのカケラ
マントルは普段地球の表面からは見ることができませんが、マグマが上昇する際にカケラとして取り込むことがあり、プチスポットでは玄武岩の中に数cmほどの大きさで見つかります。これは、カンラン岩と呼ばれます。その産出量は極端に少なく、とても希少な岩石です。

添付資料

図1:本研究で対象としたプチスポットサイトの位置とプチスポット近辺の詳細な海底地形図。(a)本研究で対象とした東北沖プチスポットの位置を星で示します。(b)本研究で対象としたプチスポットの3D海底地形図。(c)本研究で対象としたプチスポットを上から見た詳細な2D海底地形図。所々確認できる盛り上がりは、マグマの流れた痕跡や岩石の塊です。

図2:プチスポットで採取した岩石。黒や茶色の部分が玄武岩、白い部分が焼きなまされた堆積物。

図3:プチスポットを形成するマグマが海底に向かって上昇する際に海底堆積物を擾乱するモデル図。上昇する熱いマグマは、白亜紀後期から長い間堆積し続けてきた柔らかい堆積物を上下方向広範囲に擾乱し、焼きなまし硬くしてしまいます。文献1の図4を改訂。

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