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強いエルニーニョが2年間続くラニーニャを引き起こすことを解明

2021年8月25日

東京大学 大気海洋研究所

発表のポイント

◆強いエルニーニョ現象と、その終息後に連鎖的に発生する多年性ラニーニャ現象(2年以上連続するラニーニャ現象)を関連付ける力学的なメカニズムを明らかにしました。
◆強いエルニーニョ現象を終息させる熱帯大気循環のパターンが海洋と相互作用し、赤道太平洋から過剰に熱を逃がすことでラニーニャ現象が2年間以上持続します。
◆赤道太平洋のすぐ北側で吹く顕著な東風偏差を監視し、季節予報モデルで適切に再現することで、多年性ラニーニャ現象の発生を事前に予測できる可能性を示唆しています。

発表者

岩切 友希(東京大学大学院理学系研究科/大気海洋研究所 博士課程3年、日本学術振興会特別研究員)
渡部 雅浩(東京大学大気海洋研究所 教授)

発表概要

熱帯東部太平洋の海面水温異常で特徴づけられるエルニーニョ・南方振動(ENSO)は、世界各地に異常天候をもたらします。観測記録から強いエルニーニョ現象が終息した年から、ラニーニャ現象が2年間以上連続しやすいこと(通称、多年性ラニーニャ現象)が知られていますが、両者の力学的な結合メカニズムは未解明でした。一連のイベントは3年間以上連続した長期的な気候リスクとなり得るため発生メカニズムの理解と予測は重要な課題になります。

東京大学大気海洋研究所の渡部教授と博士課程の岩切学振特別研究員は、大気海洋の観測・再解析データ(注1)と23のCMIP6気候モデル群(注2)によるシミュレーションデータを解析することで、強いエルニーニョ現象が引き起こす赤道北側の顕著な東風偏差が、赤道太平洋から過剰に熱を逃がすことで多年性ラニーニャ現象の引き金となっていたことを明らかにしました。このプロセスにより、赤道太平洋における海洋上層の総熱量が大幅に低下することで、熱の再集積に時間がかかるため2年間連続してラニーニャ現象が発生しやすくなります。気候モデル群のデータ解析から、多年性ラニーニャ現象と強いエルニーニョ現象の頻度の割合に高い関連性があることが分かり、このことは上記のメカニズムを支持しています。

本研究により得られた知見は、強いエルニーニョ現象の発生時にENSOの長期的な予測スキルが存在することを力学的に裏付けるものです。現業の季節予報モデルによるENSO予測スキルは現状1年未満であるものの、このような連鎖的に発生する多年性ラニーニャ現象に対して2年以上先の潜在的予測可能性が期待されます。

上記の成果は、8月25日付でScientific Reports誌に掲載されました。

発表内容

[背景]
熱帯東部太平洋の海面水温異常が周期的に発生するエルニーニョ・南方振動(ENSO)は、全球的に異常天候をもたらすため季節スケールの気候予測(季節予報)にとって最も重要な気候変動現象です。ほとんどのENSOイベントは春から夏にかけて発生し、冬に最盛期、翌春に終息する約1年程度のライフサイクルに従いますが,近年注目されている多年性イベントは2年間以上連続発生する現象を指します。過去の観測記録から強いエルニーニョ現象が発生した場合、その翌年から多年性ラニーニャ現象が続きやすいことが知られています(図1)。特に82/83年,97/98年に発生した振幅の非常に強いスーパーエルニーニョの終息後,熱帯東部太平洋の海面水温が平年より低い状態が約3年間続きました。強いエルニーニョ現象と多年性ラニーニャ現象の連鎖的な発生は,数年間にわたる長期的な天候異常を引き起こす可能性があり日本もその影響の例外ではありません。従って、これら両者の力学的な結合メカニズムを理解することは今後の季節予報において予測可能性や予測スキルを調査する上で重要な課題です。

しかしこれまでの解析では大気と海洋を包括的かつ定量的に調査した解析がなく、現象の引き金となっている明確な物理的プロセスの存在が明らかではありませんでした。本研究では3次元大気海洋再解析データ・気候モデル群を用いて海洋上層の熱とその輸送を詳細に解析することで、新たな成果を得ました。

[研究内容]
図2は、多年性ラニーニャ現象と1年以内に終息した単年性ラニーニャ現象の時間発展を比較したグラフです。多年性ラニーニャ現象の特徴として前年に強いエルニーニョ現象を伴いやすいということが確認できます(図2a)。さらに顕著な差として、多年性ラニーニャ現象の発生直前において赤道太平洋で積算した熱量偏差が大幅に小さくなっていることがわかります(図2b)。この差は単年事例と比較して約4倍にのぼります。ラニーニャ現象が終息する条件としてこの積算熱量偏差が平年値以上に振れることが重要ですが、極端な負偏差を1年間で解消することができず結果として翌年までラニーニャ現象が持続します。この巨大な負偏差を形成した過剰な熱放出の要因は、前年のエルニーニョ現象の終息と強く関係していました。海洋内部の熱の流れを解析することで、エルニーニョ現象の減衰期(2-6月)に海洋表層のエクマン輸送(注3)が赤道から過剰に熱を逃がしていたことが原因であると明らかになりました(図2c)。この季節における大気下層の状態は強いエルニーニョ現象を急激に減衰させる大気パターンで特徴づけられます(図3a, b)。赤道の北側で降水が減少し、南側で降水が増加しています(図3a)。この降水応答によって赤道の北側では強い東風偏差が吹きます。北半球の海洋表層水は風の向きに対して直角右向きに流れるため,この北向きエクマン輸送によって赤道から熱が放出されていました(図3b)。この結果として、多年性ラニーニャ現象の発生直前の季節では北西太平洋に熱が貯まっていることがわかります(図3c)。これらは単年性ラニーニャ現象では確認できない特徴です。CMIP6気候モデル群による長期シミュレーションデータを活用した解析からもこれらの特徴が支持されます。各モデル間には強いエルニーニョ現象の割合が多いモデルほど多年性ラニーニャ現象の発生頻度が多いという明瞭な関係がみられます(図4)。これは多年性ラニーニャ現象の将来変化を理解する上で、強いエルニーニョ現象がどう変化するかを知ることが重要であることを示唆しています。しかしほとんどのモデルで現実の多年性ラニーニャ現象の頻度を過小評価していることは今後の気候モデル研究の重要な課題です。

強いエルニーニョ現象が特有の大気パターンを引き起こし、自身を終息させることは知られていました。本研究から、そのパターンが多年性ラニーニャ現象の引き金となることで、強いエルニーニョ現象と多年性ラニーニャ現象を結び付けていたことが明らかになりました。特に赤道北側で吹く強い東風偏差を監視することで、多年性ラニーニャ現象の発生を事前に予測できる可能性があります。ENSOの位相遷移にとって、海洋の全層を含む大規模場の流れが本質であると考えられてきましたが、海洋表層に限定されるエクマン輸送がENSOの複雑な遷移に無視できない効果を持つことが示されました。

[社会的意義・今後の展望] 
ENSOの予測を対象とした季節予報システムは気象庁により1999年に現業化されたものの、20年以上経過した現在でも半年先程度の予報が一般的です。本研究により示された成果は、強いエルニーニョ現象が発生した際に、2年間以上先のラニーニャ現象までを予測できることを力学的に裏付けるものであり、ENSOの延長予測の足掛かりになると期待しています。最近の研究により多年性ラニーニャ現象が日本へもたらす熱波の特徴なども明らかになってきました。これらの情報を有効に組み合わせることで季節予報データの新たな利用可能性と長期的な気候リスクの未然緩和に貢献できると考えています。

本研究は、文部科学省「統合的気候モデル高度化研究プログラム」(JPMXD0717935457)の補助を受けて行われました。

発表雑誌

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Mechanisms linking multi-year La Niña with preceding strong El Niño
著者:Tomoki IWAKIRI* and Masahiro WATANABE
DOI番号:10.1038/s41598-021-96056-6

問い合わせ先

東京大学大学院理学系研究科/大気海洋研究所 気候変動現象研究部門
博士課程3年 岩切 友希(いわきり ともき)
E-mail:iwakiriaori.u-tokyo.ac.jp

東京大学大気海洋研究所 気候変動現象研究部門
教授 渡部 雅浩(わたなべ まさひろ)
E-mail:hiroaori.u-tokyo.ac.jp

※アドレスの「◎」は「@」に変換してください

用語解説

注1:再解析データ
過去から現在の気候変動・変化を監視,調査する目的で使用される高品質なデータセット。数値天気予報モデルの再実行の結果を観測データによって適切に補正することで作成される。
注2:CMIP6(Coupled Model Intercomparison Project Phase 6)
第6期結合モデル相互比較プロジェクトの略。世界気候研究計画(World Climate Research Program、WCRP)のもとで行われている、共通の外部強制(温室効果ガスや太陽活動など)を与えて計算される全球気候モデルの比較プログラムで、IPCC AR6で引用された気候シミュレーションを統括したもの。
注3:表層エクマン流
海洋上の風が海を引きずることで生じる海洋表層の流れ。コリオリ力によって北半球では風の向きに対して直角右向きに海水が輸送される(エクマン輸送)。

添付資料

図1:5か月移動平均したENSO監視海域NINO3.4の海面水温偏差。各色付き窓はENSOの事例を指す。黄色の窓は強いエルニーニョ現象の翌年に多年性ラニーニャ現象が発生した事例。強いエルニーニョ現象は1.5標準偏差を超える振幅を持つ事例で定義。

図2:多年性ラニーニャ現象(実線)、単年性ラニーニャ現象(点線)の時間発展。(a)ENSO監視海域 NINO3.4領域の海面水温偏差。(b)赤道太平洋の海洋上層で積算した熱量偏差。(c)積算熱量偏差に対する南北熱輸送量;地衡流による寄与(紫色)、エクマン流による寄与(橙色)。

図3:多年性ラニーニャ現象が発生する年の2-6月まで平均した(a)海面水温偏差(陰影)、降水偏差(点)、(b)風応力偏差(ベクトル),東西風応力偏差(陰影)。強いエルニーニョ現象を終息させる大気パターンの特徴と共通する。(c)同年9-10-11月平均の海洋表層から500m深度までを鉛直積算した熱量分布。

図4:CMIP6気候モデルによる強いエルニーニョ現象の事例の割合と多年性ラニーニャ現象の事例の割合の関係。黒線と陰影は回帰直線と95%信頼幅。青色、緑色の点はそれぞれ観測に基づく。

プレスリリース