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日本海溝海側の大規模正断層に沿ったマントル流体上昇 ~マントル由来の水は巨大地震の引き金になるか~

2021年6月14日

東京大学
高知大学
東京海洋大学
富山大学
海洋研究開発機構

発表のポイント

◆東北沖の日本海溝に沈み込む前の海洋地殻を断ち切る大規模正断層の構造と物性を明らかにし、その断層に沿ったマントル流体(注1)の上昇を発見した。
◆海溝の海側に発達する正断層に沿ったマントル流体上昇と海水浸透の証拠が初めて得られ、マントルと海洋を結ぶ大規模な流体循環モデルを構築した。
◆マントル由来の水は断層面の強度低下をもたらし、巨大地震の引き金になり得るため、今後、マントル流体の変動の定期観測は地震・津波防災を推進する上で重要である。

発表者

朴     進午(東京大学 大気海洋研究所 准教授)
高畑    直人(東京大学 大気海洋研究所 助教)
ジャマリホンドリ エッサン(東京大学 大気海洋研究所 特任研究員)
山口  飛鳥(東京大学 大気海洋研究所 准教授)
鹿児島 渉悟(富山大学 学術研究部理学系 特命助教)
鶴   哲郎(東京海洋大学 学術研究院 教授)
藤江   剛(海洋研究開発機構 海域地震火山部門 主任研究員)
孫    岳(東京大学 大学院理学系研究科/大気海洋研究所 博士課程1年)
芦  寿一郎(東京大学 大気海洋研究所 准教授)
山野   誠(東京大学 地震研究所 教授)
佐野  有司(高知大学 海洋コア総合研究センター 特任教授・センター長)

発表概要

東北沖では、海溝型巨大地震発生(例:1896年明治三陸地震)の数十年後に、巨大津波を引き起こす「大規模アウターライズ地震」(例:1933年昭和三陸地震)が日本海溝に沈み込む前の海洋プレート内部で連動して発生することが知られている。一方、2011年東北地方太平洋沖地震後には大規模アウターライズ地震が未だに起こっておらず、その切迫度が増している状況にある。しかしながら、大規模アウターライズ地震断層の実態に関する知見は極めて不足している。

東京大学大気海洋研究所の朴進午准教授らの研究グループは、日本海溝海側(図1)の反射法探査(注2)データを調べ、海底面からモホ面を貫きマントルまで達する大規模な正断層(図2)を発見した。さらに、その正断層付近で採収した海底堆積物中の間隙流体を分析し、マントル流体の上昇を示唆するヘリウム同位体比異常(注3)を発見した(図3)。正断層に沿ったマントル流体上昇と海水浸透に着目し、日本海溝の海側においてマントルと海洋を結ぶ大規模な流体循環モデル(図4)を構築した。

マントル流体上昇の通路となる正断層は大規模アウターライズ地震を引き起こす可能性があり、次のアウターライズ巨大地震・津波災害に備える上で断層に沿うマントル流体変動のモニタリング(注4)は重要な課題となる。

発表内容

(1) 背景
海溝の海側には、アウターライズ(海溝外縁隆起帯)と呼ばれる、海洋プレートの屈曲によって生じる地形的高まりが一般的に認められる。アウターライズではプレートの沈み込みに伴う屈曲により海洋プレート浅部に伸張応力場が生じ、海洋性地殻を断ち切る正断層群が発達して、正断層型の地震(アウターライズ地震)が海洋プレート内部で発生する。巨大津波を引き起こす大規模なアウターライズ地震は海溝型巨大地震の後に連動して発生することが知られている。日本海溝では、1896年明治三陸地震(海溝型巨大地震、M8.5)の37年後に1933年昭和三陸地震(大規模アウターライズ地震、M8.1)が発生し、津波災害による約3000名の死者が報告されている(地震調査研究推進本部地震調査委員会, 1997)。一方、2011年東北地方太平洋沖地震(M9.0)後には大規模アウターライズ地震が未だに起こっておらず、その切迫度が増している状況にあると考えられる。しかしながら、大規模アウターライズ地震断層の実態に関する知見は極めて不足している。

本研究グループでは、日本海溝の海側(図1)に発達する大規模アウターライズ地震断層の実態(構造、物性、流体循環など)を解明するため、地球物理学データを地球化学データと組み合わせて、海溝海側の正断層を学際・総合的に調べた。

(2) 成果と考察
反射法探査データを解析し、宮城沖の海溝海側45km付近で海底面からモホ面を貫きマントルまで発達する大規模な正断層(断層A)のイメージングに成功した(図2a)。この断層Aは垂直変位約180m、傾斜角約74°を示し、過去から最近まで繰り返し活動した活断層の可能性が高い。また、断層Aのモホ面付近の反射強度は周囲のモホ面に比べて異常に弱く(図2b)、断層の繰り返し活動によって透水性の高い破砕帯(幅6km)が形成され、流体移動が容易になっていることを示唆する。宮城沖の断層Aの破砕帯は、北方160kmの岩手沖の断層Bや断層C(図2c)へほぼ連続する。

宮城沖の断層A(サイトPC9)や、岩手沖の断層B(サイトPC6)・断層C(サイトPC7)近傍の海底堆積物中の間隙流体から、ヘリウム同位体比(3He/4He)の異常を発見した(図3a図3c)。これら3つのサイトではヘリウム同位体比(3He/4He)が深部へ増加する傾向を示し、マントル由来のヘリウムを含む深部流体が断層A、B、Cに沿って上昇して来たことを示唆する。一方、岩手沖の断層D(サイト PC2)や断層E(サイトPC1)では、底層水と同程度のヘリウム同位体比(3He/4He)(図3c)や4He/20Ne比(図3b)が深部へ一定の値を示し、断層D、Eに沿った海水の浸透が示唆された。

反射法探査断面図上の正断層付近で得られた流体関与の証拠(ヘリウム同位体比(3He/4He)異常と4He/20Ne比)に基づき、日本海溝アウターライズにおいてマントルと海洋を結ぶ大規模な流体循環モデル(図4)を構築した。流体循環は主に南北方向の同じ断層破砕帯に沿って起こるが、破砕帯がある程度厚い(例:断層A付近の幅6km)場合、破砕帯に直交する東西方向での流体循環も示唆される。

(3) 研究成果の意義と今後の展望
今回明らかになった正断層付近でのヘリウム同位体比異常などは、断層に沿った流体(マントル由来の水と海水)移動の証拠となり、大規模な流体循環の可能性を示唆した。海溝に沈み込む前の海洋地殻を断ち切る大規模正断層に沿った流体移動を明らかにしたのは、本研究が初めてである。

マントル由来の水は断層面の強度低下をもたらし、流体移動の通路となる南北全長160km以上の断層破砕帯は大規模アウターライズ地震を引き起こす可能性がある。今後、断層に沿ったマントル流体変動の定期的なモニタリングを実施し、流体循環が大規模正断層の挙動に与える影響を解明することは、次のアウターライズ巨大地震・津波防災対策を推進する上で重要な課題となる。

本研究は、科学研究費助成事業の基盤研究(A)(18H03732)と、文部科学省の推進する「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」の支援を受けて実施したものである。

発表雑誌

雑誌名:「Scientific Reports」(6月14日付)
論文タイトル:Mantle-derived helium released through the Japan Trench bend-faults
著者:Jin-Oh Park*, Naoto Takahata, Ehsan Jamali Hondori, Asuka Yamaguchi, Takanori Kagoshima, Tetsuro Tsuru, Gou Fujie, Yue Sun, Juichiro Ashi, Makoto Yamano, Yuji Sano
DOI番号:10.1038/s41598-021-91523-6
アブストラクトURL:https://www.nature.com/articles/s41598-021-91523-6このリンクは別ウィンドウで開きます

問い合わせ先

東京大学 大気海洋研究所
准教授 朴 進午(ぱく じんお)
E-mail:joparkaori.u-tokyo.ac.jp   ※「◎」は「@」に変換してください

用語解説

注1:マントル流体
本研究では「マントル由来の水」を指し、マントル起源物質の3Heを断層に沿って、海洋地殻深部から海底面付近まで運んできたキャリアとしての役割が考えられる。
注2:反射法探査
海水面の近くで人工的に放出させた振動(弾性波)が下方に進行し、速度と密度が変化する海底下地層境界面で反射して、再び海水面へ戻ってきた反射波を受振器(ハイドロフォン)で捉え、 収録された記録を処理・解析することにより、海底下地下構造を解明する手法である。
注3:ヘリウム同位体比異常
ヘリウムには安定な同位体が2個あり、その比(3He/4He比)をヘリウムの同位体比と呼んでいる。3Heはマントル起源の物質であり、火山活動を評価するのに用いられる。一方、4Heは地殻中のウランやトリウムが放射壊変することで生成され、地殻を構成する岩石中に多い。一般にマントル起源のヘリウムの同位体比(3He/4He比)は大気や地殻構成物質に比べて有意に高い。このことから、断層付近の海底堆積物で発見されたヘリウム同位体比の上昇は、マントル起源の深部流体の寄与と考えられる。
注4:マントル流体変動のモニタリング
本研究では、海底断層付近で定期的に堆積物を採収し、堆積物中の間隙流体を分析することで、ヘリウム同位体比の値や鉛直分布の時間変動を調べることを指す。

添付資料

図1.東北沖の反射法探査測線(緑線:宮城沖測線A4、岩手沖測線1)、海底堆積物の採泥サイト(赤丸:PC1~PC9)、底層水の採水サイト(黄色い四角:MC3、MC4)。

図2.(a) 宮城沖測線A4の反射法探査断面図、(b) 宮城沖測線A4のモホ面の反射強度、(c) 岩手沖測線1の反射法探査断面図。

図3.サイトPC1~PC9、MC3、 MC4における3He/4He比と4He/20Ne比の深度プロファイル。

図4.東北沖日本海溝のアウターライズにおける流体循環モデル。海洋プレートの屈曲による正断層(灰色点線)、マントルと海洋を結ぶ流体循環(赤点線と黒点線の長方楕円)。

プレスリリース