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ペンギンが暗い海で魚を捕まえる世界初の映像

2025年5月28日

東京大学

研究成果

要約版PDFPDFファイル

発表のポイント

◆ペンギンは深度100mを超える暗い海の中で魚を捕まえますが、実際にその様子の撮影に成功した例はなく、どのように魚を捕まえているのかは不明でした。
◆今回、LED光源のついたビデオカメラをキングペンギンに装着し、暗い海で餌を採る瞬間の撮影に世界で初めて成功しました。キングペンギンは餌の魚にほとんど気づかれることなく近づき、とても高い成功率で次々と魚を捕まえていることが判明しました。
◆ペンギンが暗闇で餌を採る戦略を明らかにすることで、動物たちがどのようにして深い海の環境に適応したのかを理解することにつながると考えています。

(左)キングペンギン (中央)小型のビデオカメラを装着した様子のイメージ図 (右)撮影された映像の一部

概要

東京大学大気海洋研究所の上坂怜生特任研究員、坂本健太郎准教授、佐藤克文教授、フランス国立科学研究センターシゼ生物学研究所のチャールズ・アンドレ・ボスト研究部長らからなる研究グループは、キングペンギンの背部に小型のビデオカメラを装着し、彼らが深度100m以上の暗い海の中で餌である魚を捕まえている様子の映像を撮影することに世界で初めて成功しました。映像を詳しく解析した結果、キングペンギンは魚の数メートル手前から狙いを定め、魚にほとんど気づかれることなく素早く捕まえる能力があることが明らかになりました。また、キングペンギンはこの方法によって次から次へと非常に高い成功率で魚を捕まえていました。
これまでにいくつかの種類のペンギンで餌を採る瞬間の映像が撮影されていましたが、いずれの例も太陽の光が届く比較的浅い場所でのものでした。一方キングペンギンは他のペンギンとは異なり非常に深くまで潜る大型のペンギンです。このような大型のペンギンが太陽光のほとんど届かない深い海で餌を採る様子を記録できたことにより、鳥のなかまであるペンギンが海の中という過酷な環境に適応した仕組みを理解することにつながると考えています。

発表内容

キングペンギン(別名:オウサマペンギン)は地球上で2番目に大きいペンギンであり、南緯40~60度の亜南極域に生息しています。肺呼吸を行う鳥類でありながら、深度100mを超える暗い海中に潜り、餌を採ることができる驚くべき能力を持っています。これまでの研究で、キングペンギンが暗い深海で餌を採っていること自体はわかっていましたが、実際にどのように獲物を捕らえているか、つまり、逃げまわる魚を追いかけているのか 、もしくは止まっている魚に静かに近づいて捕まえているのかといった具体的な餌の採り方については不明でした。これは、肝心な映像による記録が入手できておらず、潜水の深さなどの記録だけでは魚の動きやペンギンと魚の間の駆け引きが把握できなかったためです。キングペンギン以外のペンギンが餌を採る瞬間の映像が撮影された例はこれまでにいくつかの種類で報告されていましたが、どの種類もさほど深くまでは潜らない種類であったため、太陽の光が届く明るい深度での記録に限られていました。

本研究グループは、インド洋南部のケルゲレン諸島(注1)で繁殖しているキングペンギンの背中にLED光源の付いた小型のビデオカメラを装着することで、太陽光のほとんど届かない深い海での餌採りの様子を世界で初めて撮影することに成功しました(図1)。

図1:ビデオカメラを装着したキングペンギンと餌の魚を捕まえる瞬間の様子

(a) 小型のビデオカメラを背部に装着したキングペンギンのイラストです。(b) 実際の映像の切り抜き(左列)とペンギンの首の位置を分かりやすくしたイラスト(右列)です。それぞれのコマの右下の数字は捕食の瞬間から何秒前かを表しています。この捕食イベントでは2コマ目(捕食の0.83秒前)にペンギンが首の向きを変えて魚に狙いを定め、3~4コマ目で魚を捕まえている様子が分かります。なお、LEDの色にはペンギンや深海の生物がほとんど知覚できないとされている赤色が採用されています。

キングペンギンは捕食の0.5~1.5秒前(泳ぐスピードで換算すると魚の1~3m手前に相当)に首を餌の方向に向けてターゲットを定め、その後首を伸ばすようにして一気に魚をついばみ捕まえていました。この時魚は、くちばしに捕まる瞬間までペンギンの接近に気づいていないか、または捕まる0.1秒前という、逃げるには遅すぎるタイミングで回避行動をとっていました。これらの事実は、魚に気づかれることなくそっと忍び寄ることができるキングペンギンの能力を示しています。本研究でビデオカメラを装着したペンギンは、約1時間半の映像の中で136回の捕食を試み、そのうち118回という高い割合(86.8%)で魚を捕まえることに成功していました。捕食の成功割合は映像によってのみ正確に調べることができる数値であるため、本研究によって初めてキングペンギンの優れた餌採り能力が明らかになったといえます。

ビデオカメラについたセンサーによって記録された潜水深度の変化を見ると、キングペンギンは深度100~150mまで一気に潜った後、潜水の中盤で上昇と下降を数回繰り返していました(図2)。そして、この深度記録と餌採りのタイミングを比較したところ、ほとんど(81.6%)の捕食イベントが上昇中に行われていることが分かりました。つまり、多くの場合キングペンギンは上昇中に魚を下方向から捕まえているということになります。上昇しながら魚を捕まえたあとは、また魚がたくさんいる一定の深さまで下降し、再度上昇することで効率よく魚を捕まえているため、上昇と下降を繰り返しているのだと考えられます。より深く暗い下方向から魚に近づくことは、魚に気付かれにくくなるというメリットがあるほか、明るい海面を背景にすることで魚が見つけやすくなるといった効果も利用している可能性があります。

図2:キングペンギンの潜水深度

(a) キングペンギンの潜水深度の変化を表しています。キングペンギンは5分間程度の潜水を行った後しばらく海面で休憩し、また潜水を行うということを繰り返しています。灰色の部分は映像が撮影されていた時間を表しており、この間に深度50mを超える潜水が12回ありました。黒い点と赤い点はそれぞれ捕食イベントの成功と失敗を表しています。(b) (c) 2つの潜水の中盤を拡大した図です。どちらの潜水でも上昇と下降を繰り返していますが、捕食イベントが上昇中に集中していることが分かります。

キングペンギンが生息している亜南極の海域には、ミナミゾウアザラシやナンキョクオットセイといった他の大型動物も生息しており、これらの動物たちもキングペンギンと同じ魚を餌としています。しかし、それぞれ体のサイズや泳ぐスピード、小回りのききやすさが異なるため、餌の採り方にも違いがあります。たとえば、ミナミゾウアザラシは長時間深く潜水してゆっくりと魚に忍び寄り、ナンキョクオットセイは逃げる魚を素早い動きで追いかけて捕まえます。一方で、キングペンギンは上昇と下降を繰り返しながら、魚に気づかれないように静かに近づいて捕まえるという、独自の方法を使っていました。この方法は、体が比較的小さく、小回りが利くキングペンギンにとって特に有利なやり方である可能性があります。今回の研究は、キングペンギンが多くのライバルたちと競い合いながら、過酷な海の中でどのようにして生き延びてきたのかを明らかにする手がかりとなります。さらに本研究の成果は、同じ海域で同じ餌を食べる複数種の動物たちが、どのように共存しているのかを理解するための重要なステップになると期待されます。

発表者・研究者等情報

東京大学 大気海洋研究所 海洋生命科学部門
 上坂 怜生 特任研究員
 佐藤 克文 教授
 坂本 健太郎 准教授

フランス国立科学研究センター シゼ生物学研究所
 チャールズ アンドレ ボスト 研究部長

論文情報

雑誌名:Ecology
題名:Deep-sea ascending predation by king penguin and its prey reaction observed by animal-borne video camera
著者名:Leo Uesaka*, Charles-André Bost, Katsufumi Sato, Kentaro Q. Sakamoto
DOI: 10.1002/ecy.70117
URL: https://esajournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ecy.70117このリンクは別ウィンドウで開きます

研究助成

本研究は、科研費「国際先導研究(課題番号:22K21355)」、「基盤研究(B)(課題番号:23K28274)」、及びフランス極地研究所の研究プログラム(課題番号: n394“Diving Birds”)の支援により実施されました。

用語解説

(注1)ケルゲレン諸島
インド洋の南緯50度付近にある、フランスが持つ南方領土の諸島。キングペンギンのほかにも、他種の海鳥や哺乳類が生息している。

問合せ先

東京大学 大気海洋研究所 海洋生命科学部門
特任研究員 上坂 怜生(うえさか れお)
E-mail:leo-ug.ecc.u-tokyo.ac.jp      ※「◎」は「@」に変換してください

東京大学 大気海洋研究所 海洋生命科学部門
准教授 坂本 健太郎(さかもと けんたろう)
E-mail:kqsakamotog.ecc.u-tokyo.ac.jp

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