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学術研究船「白鳳丸」がインド洋での調査に出発 ―地球形成史から現代の海洋構造,生態系,気候影響まで総合的に調査―

2024年8月2日

東京大学大気海洋研究所
東京大学大学院理学系研究科
海洋研究開発機構

発表のポイント

♦学術研究船「白鳳丸」が、全国15の大学や研究機関から総勢65名の研究者が参加するインド洋での長期研究航海に向けて8月7日に東京港を出港します。
♦気候や海洋変動の理解に重要な東部インド洋の海洋構造やそれに伴う生物化学的応答を把握する本格的な総合調査であり、中央インド洋海嶺の巨大断層において1000万年前から現在までの海洋地殻生産プロセスの変動を解明する初めての調査となります。
♦本航海は、インド洋における海洋の変動過程の理解を深め、気候変動予測の高度化に貢献します。また、周辺の人口密度が高く経済成長の著しい地域で、気候変動対策や生物多様性保全などの基盤となる科学的知見を提供することで、国連海洋科学の10年やSDG14の達成への国際貢献を目指しています。

学術研究船「白鳳丸」

概要

東京大学の沖野郷子教授、升本順夫教授が率いる研究グループが、学術研究船「白鳳丸」(注1)を用いて約3ヶ月間にわたるインド洋での観測調査を行います(図1)。本航海には、全国15の大学や研究機関から総勢65名の研究者(大学院生含む)が乗船します。前半は、海洋物理学、生物地球化学、生態学などの分野横断的な研究チームによる東部インド洋海域の統合的な観測調査です。生物生産の元となる海洋中の栄養分が乏しい熱帯から亜熱帯の外洋域の中でも特に現場での観測データが少ない海域で観測を行うことにより、貧栄養海域における微量元素や各種物質の分布、また海洋構造と生物動態との関係などについて新知見が得られることが期待されます。後半は、中央インド洋海嶺(注2)の巨大断層に沿って、地球物理観測や岩石採取を主とした総合調査を行います。海底に存在する亀裂であるトランスフォーム断層では、過去から現在に至る海洋地殻の断面が露出しています。長大なトランスフォーム断層(注3)という特異な条件を利用して、現在から過去1100万年前までの海洋底の形成の履歴を明らかにし、地球システムの長期変動の実態と要因に迫ります。

図1:白鳳丸2024年インド洋航海の寄港予定と調査海域

発表内容

航海スケジュール(図1)
「白鳳丸」は、8月7日に東京港を出航する予定です。その後、8月23日にマレーシアのペナン港で升本教授の研究チームが乗船、9月22日のフリーマントル入港まで東部インド洋で観測調査を行います。次に、同船はモーリシャスのポートルイスに移動し、そこで沖野教授の研究チームが乗船して10月12日に出航、西部インド洋で観測調査を行い11月22日に東京に戻る予定となっています。

東部インド洋での観測調査(KH-24-3次航海)
出港8月23日(ペナン)〜入港9月22日(フリーマントル)

海洋物理学、生物地球化学、生態学といった広範囲な領域の専門家から構成される研究チームが、海水の動きや化学組成から微生物やプランクトンの生態まで含む分野横断的な視点から東部インド洋の変動を理解するため、統合的な調査を行います(図2)。

図2:「白鳳丸」による観測の様子

左:CTD採水器による測定と海水採取、右:ドレッジによる海底岩石採取

図3:「白鳳丸」による南東部インド洋の予定観測線と観測点

本航海の観測対象海域(図3 南東部熱帯・中緯度インド洋)は、複雑な海流系(注4)が季節的なモンスーンや経年的な気候変動の影響を強く受けながら変動するとともに、太平洋からインド洋への様々な物質の流入域ともなっています。したがって、本海域は、インド洋内でのエネルギーや物質の動き、生物や生態系の変動を制御している重要な海域ですが、物理・化学・生物を統合的に捉えたアプローチでの現場観測はほとんど無く、データの空白域となっています。

本航海で取得・解析されるデータにより、海洋の物理構造、天然および人為起源の微量元素や同位体を含む物質の分布と循環過程、物理的構造と生物生産性や生物多様性との関係などを明らかにします。東部インド洋の広域観測を行うことで、南北の広範囲にわたる多様な海域での物理・化学的諸量の分布や生物分布などに関する新たな知見が得られると期待されます。

東部インド洋は日本から遠く離れた場所ですが、大気と海洋の結びつきを通じた気候変動や水産・運輸などの活動を通じて、日本への影響も大きい海域です。この基礎データ空白域における総合的な現場観測データの取得は、東部インド洋の変動の解明を通じて科学の発展に寄与するとともに、日本の社会経済活動に対する科学的基礎情報を提供するものとなります。

西部インド洋での観測調査(KH-24-4次航海)
出港10月12日(ポートルイス)〜入港11月8日(ペナン)

インド洋中央海嶺(注5)を横切る総延長210kmの断層に沿って、地球物理・地球化学の総合調査を行います。本航海では地形・地磁気等の地球物理観測、断層面からの岩石採取を主として(図2)、断層に沿った深海域での海水化学と微生物・生物の調査もあわせて実施します。

地球表層の大半を占める海洋地殻は、海嶺で生産され、海溝に沈み込むことで、地球の物質循環を担っています。海嶺での火山活動は地球全体のマグマ生産量の8割を占め、その変動は地球環境にも大きな影響を与えます。また、生産される海洋地殻の多様性は、海溝で沈み込む際の地震発生などにも影響します。これまでの研究により、現在の海洋地殻生産の空間的な多様性の理解は進みましたが、一方で過去にさかのぼった時間変動についてはほとんどわかっていません。これは、古い海洋底の探査、特に岩石試料を採取することが難しいためです。

今回の研究は、トランスフォーム断層と呼ばれる長大な海底断層で連続的に過去から現在に至る海洋地殻の断面が露出していることに着目し、海洋地殻生産の時間変動とその要因を知るMOWALL計画(図4)の一環です。本航海では、マリーセレスト断層に沿って1100万年前から現在に至る海底の構造と組成が明らかになると期待されます(図5)。

図4:MOWALL(Moho Observation along transform fault WALLs)計画の概念

横ずれプレート境界であるトランスフォーム断層に沿って、過去から現在までの海洋地殻が海底面からモホ面まで露出している。

図5:「白鳳丸」航海のターゲットとなるマリーセレストトランスフォーム断層

1100万年の歴史が刻まれている。同海域では、これまで主に海底熱水系の総合調査を目的とした日本の研究船の航海が行われている。

陸上から遠く離れた海嶺での火山活動は、私たちの日々の暮らしに直接被害をもたらすものではありません。しかし、地球の長い歴史の中では、海嶺の活動が気候変動に支配されている可能性や、逆に海嶺の活動が海洋環境に影響してきた可能性が示されており、その変動を知ることは未来の地球を知る一助となります。また、海洋底は、海底に暮らす生物や海底鉱物資源を育む土台としての重要な役割を果たしています。

〇関連情報:
MOWALL計画 ウェブサイト
http://ofgs.aori.u-tokyo.ac.jp/tilde/okino/mowall/このリンクは別ウィンドウで開きます

発表者・研究者等情報

東京大学
 大気海洋研究所
  沖野 郷子 教授
  齊藤 宏明 教授
  小畑 元   教授 
  小川 浩史 教授
  濵﨑 恒二 教授
  平井 惇也 講師
  峰岸 有紀 准教授
  秋澤 紀克 助教
  矢萩 拓也 助教

 大学院理学系研究科
  升本 順夫 教授
  砂村 倫成 助教

北海道大学 大学院地球環境科学研究院
  山下 洋平 准教授

新潟大学 理学部
  則末 和宏 准教授

金沢大学 理工研究域物質科学系
  WONG, Kuo Hong 助教

京都大学 化学研究所
  遠藤 寿 准教授
  佐藤 拓哉 特定研究員
  JIANG, Siyu 博士研究員

広島大学 大学院統合生命科学研究科
  岩本 洋子 准教授

長崎大学 総合生産科学域
  佐藤 光秀 助教

水産研究・教育機構
  増田 貴子 主任研究員

海洋研究開発機構
  眞壁 明子 准研究副主任

千葉工業大学 次世代海洋資源研究センター
  町田 嗣樹 上席研究員

東北大学 東北アジア研究センター
  平野 直人 准教授

東京工業大学 理学院
  石川 晃 准教授

名古屋大学 大学院環境学研究科
  道林 克禎 教授

金沢大学 理工研究域
  森下 知晃 教授

国立極地研究所
  藤井 昌和 助教

研究助成

本航海は、学術研究船「白鳳丸」全国共同利用研究航海の一環として、公募によって採択された以下の2つの課題の研究計画に沿って実施されます。「東部インド洋における海洋物理・生物地球化学・生態系の統合的観測研究(課題代表:升本順夫)」、「MOWALL-CIR:トランスフォーム断層のカベから海洋地殻生産プロセスの時間変動を追う インド洋における大陸地殻片の分布の検証(課題代表:沖野郷子)」。

用語解説

注1:学術研究船「白鳳丸」
1989年に就航した全長100メートル、総トン数4,073トンの大型学術研究船。研究員35名、乗組員54名の定員で船内に10の研究室を備え、遠洋、近海を問わず、世界の海を舞台として、長期の研究航海に使われている。大気海洋科学の基礎的研究を行うことを目的として、東京大学大気海洋研究所と国立研究開発法人海洋研究開発機構が協力して運航し、全国の研究者のための共同利用・共同研究施設として利用されている。研究計画は3年ごとに公募により策定され、さらにその研究計画に基づいた単年度の公募がある。
注2:中央インド洋海嶺
インド洋の深海底に延びる中央海嶺のうち、アフリカの東部沖合でほぼ南北に延びる部分を指す。
注3:トランスフォーム断層
隣り合うプレートがお互いにすれ違う方向に運動している場所。
注4:インド洋の海流系
インド洋表層の海流はアジアモンスーンの影響を強く受け、北半球側では季節的に流れが反転する特徴的な海流が存在する。また、赤道域では、インドネシア多島海を通じて太平洋からインド洋へと流れるインドネシア通過流が存在するため、太平洋や大西洋とは異なる流れが見られる。さらに南の南半球中緯度では、太平洋や大西洋と同様に亜熱帯循環の流れが顕著になる。
注5:海嶺(中央海嶺)
海底に連なる火山の山脈。地球の表面はいくつかの固いプレートに分かれてそれぞれ運動しており(プレートテクトニクス)、中央海嶺は隣り合うプレートがお互いに離れていく場所にあたる。世界の海洋底は中央海嶺で生まれ、広がっていく。
 

問合せ先

東京大学大気海洋研究所
教授 沖野 郷子(おきの きょうこ)
E-mail:okinoaori.u-tokyo.ac.jp    ※「◎」は「@」に変換してください

東京大学大学院理学系研究科
教授 升本 順夫(ますもと ゆきお)
E-mail:masumotoeps.s.u-tokyo.ac.jp

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