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潜水中のウミガメの心拍数は2回/分まで低下する ―アカウミガメが海を深く潜るときの驚くべき心拍数―

2024年3月6日

東京大学

要約版PDFPDFファイル

研究成果

発表のポイント

◆ウミガメでは世界で2例目となる、海を潜水している時のウミガメの心拍数測定を行いました。その結果、爬虫類で報告された心拍数の中では、これまでで最も深い場所まで潜水している時の記録を得ました。
◆アカウミガメが潜水をすると心拍数が急激に低下していたこと、特に140mより深く潜水したときの心拍数は1分間に2回まで低下していたことが明らかになり、活動中の肺呼吸動物の中ではアカウミガメが最も心拍数が低下する動物のひとつであることがわかりました。
◆爬虫類であるウミガメが深く潜るときの心拍数の詳細が明らかになったことで、肺呼吸動物が海で生きていくための仕組みの理解に役立つことが期待されます。

心拍数・行動記録計を装着したアカウミガメ

概要

東京大学の齋藤綾華大学院生(大学院農学生命科学研究科)、坂本健太郎准教授(大気海洋研究所)らからなる研究グループは、潜水能力の高い海生爬虫類であるアカウミガメ(Caretta caretta)において、海面で呼吸するときに1分間に約21回である心拍数が、潜水すると急激に低下し1分間に約13回となること、特に140 mより深く潜ったときは1分間に2回まで低下すること、そして深く潜るほど心拍数はより低くなることを明らかにしました。

本研究では、世界で2例目となる、ウミガメが海を潜るときの心拍数測定に成功しました。その結果、爬虫類で報告された潜水中の心拍数の記録としては、これまでで最も深い場所での記録を得ることが出来ました。本研究により、活動中の肺呼吸動物としては、アカウミガメは最も心拍数が低下する動物のひとつであることがわかりました。爬虫類であるウミガメが深く潜るときの心拍数が明らかになったことで、肺呼吸動物が海で生きていくための仕組みの理解につながると考えています。

発表内容

海には様々な肺呼吸動物が生息しており、クジラやペンギン、ウミガメといった動物は息を止めた状態で深く長く潜水することが出来ます。こういった、人間には真似できない潜水行動を可能にしている生理的な仕組みの解明は重要な研究課題です。海生哺乳類や鳥類を対象とした研究から、潜水中の心拍数は、深度や時間、その間の運動の程度によって変化していることがわかってきました。しかし、爬虫類(ワニ類、ウミヘビ類、ウミガメ類など)の場合には、自然環境下で潜水中の心拍数を測定した研究は4例しかありませんでした。特にウミガメ類は海を深く潜る唯一の爬虫類ですが、甲羅があるため心拍数を測定するには体内に電極を埋め込む手術をする必要がありました。その研究の困難さからウミガメ類では、自然環境下で潜水中の心拍数を測定した研究はオサガメの1例しかなく、海生爬虫類が深く潜るときの心拍数はほとんど研究がされていませんでした。本研究グループでは、ウミガメの甲羅に特殊な電極を貼り付けることで、手術をせず精密に心拍数を測定する独自のバイオロギング手法の確立に取り組んできました(関連情報1、2)。本研究では、この手法を用いて、夏の三陸の海で自由に潜水しているアカウミガメの心拍数と潜水行動を計測しました。

アカウミガメは海で数分から最大63分、深度1mから最大153mの範囲で潜水していました。いずれの潜水の場合も、潜水を開始して数分以内に心拍数は大幅に低下していました(図1)。心拍数の平均値を計算したところ、海面で呼吸するときは1分間に約21回 であったのに対し、潜水するときは1分間に約13回となっていました。特に、アカウミガメが140mより深く潜ったときには、ある程度ストローク(注1)して泳いでいたにも関わらず、心拍数が1分間に2回という非常に低い値まで急激に低下していました(図1下段)。また、潜水している間の心拍数は海面で呼吸するときに比べると、いつも低いことがわかりました。

図1:深度、心拍数、ストローク頻度の時系列グラフ

アカウミガメは様々な深度に潜水していましたが、いずれの場合も潜水するとすぐに心拍数が低下しました(上段)。特に140mより深く潜ったときには、ある程度ストロークして泳いでいましたが、心拍数は1分間に約2回まで急激に低下していました(下段;上段の鍵括弧で示した潜水の拡大図)。

次に潜水行動(最大潜水深度・潜水時間・ストローク頻度)や水温が、潜水中の最低心拍数にどれだけ影響しているか、統計的に分析しました(図2)。その結果、最大潜水深度が深いほど心拍数がより低くなることがわかりました。それに対して、他の要素は影響がほとんどないか非常に小さいことがわかりました。海生哺乳類・鳥類では、深く潜るほど心拍数がより低くなることが知られていましたが、爬虫類でも同様の傾向があることが初めてわかりました。したがって、潜水するときの心拍数の低下は、肺呼吸動物に共通した、深く潜るうえで重要な生理的な仕組みであると考えられました。

図2:潜水中の最低心拍数と潜水行動の関係

潜水中の最低心拍数は最大潜水深度(左)が深くなるほど低くなっていました。それに比べて、潜水時間(中央)、ストローク頻度(右)が増えたときの最低心拍数の変化は小さいものでした。マーカーの形は実験個体の違いを表しています。

心拍数は潜水する時に低くなることに加え、一般的に体が大きい動物や外温動物(注2)で低いことが知られています。地球上で最も体の大きい内温動物(注2)であるシロナガスクジラの場合、海面では1分間に25~37回だった心拍数が、潜水すると最低で1分間に2回まで低下します。体の大きな内温性爬虫類であるオサガメでは、100m程度の深さまで潜水したときの心拍数は1分間に10~15回であることが報告されていましたが、深度の影響ははっきりしていませんでした。本研究で外温性爬虫類であるアカウミガメの心拍数を計測したところ、アカウミガメの1000倍以上も体重の大きいシロナガスクジラに匹敵する非常に低い値でした。外温性爬虫類のウミガメが深く潜るときの心拍数が明らかになったことで、肺呼吸動物が海で生きていくための仕組みの理解につながることが期待されます。

〇関連情報:

  1. Sakamoto, K. Q., Miyayama, M., Kinoshita, C., Fukuoka, T., Ishihara, T. and Sato, K. (2021) A non-invasive system to measure heart rate in hard-shelled sea turtles: potential for field applications. Philos. Trans. R. Soc. B Biol. Sci. 376, 20200222. Doi: 10.1098/rstb.2020.0222
    https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rstb.2020.0222このリンクは別ウィンドウで開きます
  2. Kinoshita, C., Saito, A., Kawai, M., Sato, K. and Sakamoto, K. Q. (2022) A non-invasive heart rate measurement method is improved by placing the electrodes on the ventral side rather than the dorsal in loggerhead turtles. Front. Physiol. 13, 1–9. Doi: 10.3389/fphys.2022.811947
    https://www.frontiersin.org/journals/physiology/articles/10.3389/fphys.2022.811947/このリンクは別ウィンドウで開きます

発表者・研究者等情報

東京大学
 大学院農学生命科学研究科
  齋藤 綾華 博士課程
  阪井 紀乃 博士課程
 大気海洋研究所
  木下 千尋 研究当時:特任研究員
  佐藤 克文 教授
  坂本 健太郎 准教授

論文情報

雑誌名:Journal of Experimental Biology
題 名:Heart rate reduction during voluntary deep diving in free-ranging loggerhead sea turtles
著者名:Ayaka Saito*, Chihiro Kinoshita, Kino Sakai, Katsufumi Sato and Kentaro Q. Sakamoto
    *責任著者
DOI: 10.1242/jeb.246334
URL: https://doi.org/10.1242/jeb.246334このリンクは別ウィンドウで開きます

研究助成

本研究は、「JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(課題番号:JPMJSP2108)」、科研費「学術変革領域研究(A)(課題番号:22H05648)」、「国際先導研究(課題番号:22K21355)」、東京大学大気海洋研究所陸上共同研究の支援を受けて実施されました。

用語解説

(注1)ストローク、ストローク頻度
ウミガメが泳ぐときにひれをかく動きをストロークという。このストロークを1分間に何回していたかをストローク頻度という。活発に泳ぐときにはひれを多く動かすため、ストローク頻度が高くなる。
(注2)外温動物、内温動物
外温動物は、体温の熱源の多くを、太陽光のエネルギーなど外部環境の熱源に依存している。多くの爬虫類や魚類、両生類が外温動物に該当する。これに対し内温動物は、体内に熱源を得る仕組みをもっており、哺乳類や鳥類がこれに該当する。

問合せ先

東京大学大学院農学生命科学研究科
博士課程 齋藤 綾華(さいとう あやか)
E-mail:saito-ayaka97g.ecc.u-tokyo.ac.jp
 ※齋藤へご連絡の際はcc.に坂本の連絡先も入れてください。

東京大学大気海洋研究所海洋生命科学部門
准教授 坂本 健太郎(さかもと けんたろう)
E-mail:kqsakamotog.ecc.u-tokyo.ac.jp    ※アドレスの「◎」は「@」に変換してください

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