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日本周辺の魚類の小型化 ―温暖化により顕著になった餌をめぐる競合―

2024年2月28日

東京大学

研究成果

要約版PDFPDFファイル

発表のポイント

◆日本周辺海域において多くの魚類に共通した小型化傾向(体重減少)が1980年代と2010年代に検出された。
◆1980年代に顕著な体重減少は、マイワシの資源量が爆発的に増加し、餌料プランクトンをめぐる競合が激化したことが原因と推定された。
◆2010年代にはマイワシとマサバの資源量が中程度に増加しただけであったが、地球温暖化による餌料プランクトン減少が、餌をめぐる競合を顕在化していることが示された。

1980年代と2010年代における魚類の餌をめぐる競合と体重減少メカニズム

発表概要

東京大学大気海洋研究所の伊藤進一教授らによる研究グループは、日本周辺海域で多くの魚類に共通した体重の減少が1980年代と2010年代にあることを明らかにし、餌をめぐる競合が主要因であり、特に2010年代は地球温暖化の影響による餌料プランクトン生産の減少が餌をめぐる競合を顕著にし、魚類の体重変動を引き起こしていることを示しました。

本研究では、水産庁および水産研究・教育機構が発行している魚種別系群別資源評価票(https://abchan.fra.go.jp/このリンクは別ウィンドウで開きます)のうち、20年以上の年齢別体重データが記録されている13種17系群(注1)の魚類のデータから日本周辺海域における共通した体重減少が2010年代にも存在することを初めて明らかにしました(図1)。また、地球温暖化により、餌をめぐる競合が顕著になっていることを示しました。今後、さらに深刻化することが予想されている地球温暖化影響下における資源管理方策の基盤情報として利用されることが期待されます。

図1:幼魚(左)、未成魚(中央)、成魚(右)における日本周辺海域の魚類の体重の共通トレンド。実線は1970年代からデータが得られた4種6系群の共通トレンド、破線は13種17系群のトレンド。

発表内容

地球温暖化に伴う水温上昇によって、魚類の (1) 極方向もしくは深層への分布移動、 (2) 季節的シグナルの早期化(産卵時期や回遊開始時期が早まる)が多くの海域で確認されています。加えて第3の反応として、 (3) 温暖化に伴う小型化が予想されています。一般的に、同じ種の生物であれば高温で育ったものの方が小さい体サイズで成熟するという温度-サイズ則が存在し、地球温暖化が温度-サイズ則を通して魚類の小型化を生じさせるという仮説です。しかし、北海などの一部の海域を除き、温暖化に伴う魚類の小型化は検出されていません。一方で、魚類の小型化(体重減少)に関しては、餌料プランクトンをめぐる競合によって十分に摂餌できないことに起因する体重減少があることも知られています。そこで、本研究では、日本の長期蓄積された魚類体重データを利用し、共通した体重変動を調べ、その体重変動の原因を明らかにすることを目的としました。

本研究では、水産庁および水産研究・教育機構が発行している171の魚種別系群別資源評価票を調べ、20年以上の年齢別体重データが記録されている13種17系群のデータベースを整備しました。その結果、長期時系列として1978~2018年に4種6系群(注2)、中期時系列として1995~2018年に13種17系群の年齢別体重データを得ることができました。

各系群の年齢別成熟率によって、稚魚、未成魚、成魚の3つの成熟段階に分類し、各成熟段階の体重に動的因子分析(注3)を実施し、共通トレンドを検出しました。長期時系列からは、1980年代と2010年代に体重減少を示す共通トレンドが各成熟段階で検出されました(図2)。1980年代の体重減少は、水温との関係は不明瞭であり、温度-サイズ則による影響とは判断されませんでしたが、同時期のマイワシの資源量の爆発的増加と対応しており、過去の研究でも指摘されていたように、餌料プランクトンをめぐる競合がマイワシの種内およびマイワシと他の魚種の間で生じ、体重減少につながっていると判断されました(図2)。

図2:日本周辺海域の1978~2018年における4種6系群の魚類体重データから求めた幼魚(左)、未成魚(中央)、成魚(右)における共通トレンド(黒)と主要3種の資源量変動(赤)。主要3種は、マイワシ、マサバ、カタクチイワシ。共通トレンドについては平均が0、標準偏差が1になるように各体重データを規格化してから求めた。資源量については平均が0、標準偏差が1になるように規格化した。1980年代の資源量の増大は主にマイワシの増加による。

2010年代の体重減少は、より多くの魚種を含む中期時系列の共通トレンドでも検出されました(図1)が、2010年代は魚類資源量が爆発的には増えていませんでした。1980年代と2010年代で変化している海洋環境に注目すると、表層と下層の水温差が多くの海域で強化されており(図3)、表層と下層の海水が混合し難い状況になっていました。海洋の植物プランクトンは下層から供給される栄養塩をもとに繁殖し、その植物プランクトンを食べて魚類の餌料である動物プランクトンが成長します。地球温暖化によって、下層からの栄養塩供給が減少し、多くの魚類の餌料である動物プランクトンの生産が抑制され、その結果、2010年代には爆発的な魚類資源の増大がなくとも、餌をめぐる競合が生じ、体重減少につながったと判断されました。

今後、地球温暖化に伴い、海洋の餌料プランクトン生産はさらに減少することが危惧されています。小型化する魚類を念頭に、将来の効果的な資源管理を実施していくことが期待されます。

図3:(A)1982~1989年と2007~2014年での表層と下層の水温差の変化。赤い(青い)領域は水温差が増加(減少)した領域。黒点は統計的に有意に変化が検出された領域を示す。(B)117°Eから160°W、15°Nから65°Nで平均した表層と下層の水温差の変動。黒点が各年の値、黒線は5年移動平均。

発表者・研究者等情報

東京大学
  大学院農学生命科学研究科
    林 珍 博士課程
  大気海洋研究所
    伊藤 進一 教授

論文情報

〈雑誌〉Fish and Fisheries
〈題名〉Fish weight reduction in response to intra- and interspecies competition under climate change
〈著者〉Zhen Lin, Shin-ichi Ito*
〈DOI〉10.1111/faf.12818
〈URL〉https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/faf.12818このリンクは別ウィンドウで開きます

研究助成

本研究は、科研費「学術変革領域研究(B)生物地球化学タグによる回遊履歴復元学の創成 計画研究:地球化学的生態指標とモデル解析を融合した高時間・高空間解像度回遊履歴復元(課題番号:JP22H05030)」、「基盤研究(A)サンマ初期生活史の回遊経路の非連続性と分布沖合化維持機構の解明(課題番号:JP21H04735)」の支援により実施されました。

用語解説

(注1)13種17系群
系群は特定の魚種において資源の変動が同期している集団を示し、産卵場や分布域を共有し、遺伝的に他の集団と区別できる集団を意味する。そのため資源管理の単位になっている。
本研究で用いた17系群は、マイワシ太平洋系群、マイワシ対馬暖流系群、マアジ対馬暖流系群、マサバ太平洋系群、マサバ対馬暖流系群、ゴマサバ太平洋系群、ゴマサバ東シナ海系群、ウルメイワシ対馬暖流系群、サワラ瀬戸内海系群、カタクチイワシ太平洋系群、カタクチイワシ対馬暖流系群、マダラ本州太平洋北部系群、ブリ、スケトウダラ太平洋系群、イカナゴ瀬戸内海東部系群、キチジ太平洋北部系群、ソウハチ日本海南西部系群。
(注2)4種6系群
本研究で長期時系列として用いた4種6系群は、マイワシ太平洋系群、マイワシ対馬暖流系群、マサバ太平洋系群、ウルメイワシ対馬暖流系群、カタクチイワシ太平洋系群、カタクチイワシ対馬暖流系群。
(注3)動的因子分析
観測データが複数の共通の原因によって変動していると仮定し、かつ各要素が時間的なラグを持って変動していること仮定することで、観測データの各要素が共通に示すトレンドを取り出す分析方法。

問合せ先

東京大学大気海洋研究所 海洋生命システム研究系 海洋生物資源部門
教授 伊藤 進一(いとう しんいち)
E-mail:goitoaori.u-tokyo.ac.jp   ※「◎」は「@」に変換してください

プレスリリース

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