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南海トラフ沿いのスロー地震活動を規定する深海堆積物 ―海溝で沈み込む砂層は強い断層を作るのか―

2023年7月10日

東京大学

要約版PDFPDFファイル

研究成果

発表のポイント

◆南海トラフに沿って沈み込む深海堆積物を調査した結果、砂層に富むタービダイトが、スロー地震活動の静穏域(=プレート間固着の強い領域)に集中して分布することを発見した。
◆透水性の優れたタービダイトがプレート境界断層の間隙水圧を低下させることで、断層面の剪断強度が大きくなり、スロー地震活動が静穏化した可能性が高い。
◆今後、南海トラフ沿いのプレート境界断層の間隙水圧を高精度・広域的に調査することで、巨大地震に影響するスロー地震に関する理解が進展し、巨大地震発生予測モデルの高度化への貢献が期待される。

南海トラフ沿いのスロー地震・プレート間固着・タービダイトの空間分布

発表内容

東京大学大気海洋研究所の朴進午准教授らの研究グループは、南海トラフ沿いの反射法探査(注1)データを深海掘削データと組み合わせ、海溝で沈み込む深海堆積物を詳しく分析し、砂層に富むタービダイト(注2)がスロー地震(注3)発生の静穏域(プレート間固着の強い領域と概ね一致)に集中して分布することを明らかにした。

〈研究の背景〉
西南日本の南海トラフでは、歴史的に巨大地震が繰り返し発生し、近未来の巨大地震発生による甚大な津波災害が懸念されている。近年、プレート境界で発生するスロー地震が巨大地震の準備過程や発生と密接に関連すると考えられ、その活動様式や発生原因の解明が進められている。南海トラフ沿いのスロー地震発生は、プレート間固着の強い領域の周辺に局在化する傾向がある(図1)。また、スロー地震発生には、プレート境界断層の間隙水圧(注4)の上昇が関与していると推測されてきた。しかしながら、これまでプレート境界断層の間隙水圧に関する知見は極めて限定的であり、スロー地震発生を規定する詳細要因は未だ解明されていない。

図1:南海トラフ沿いの反射法探査測線とタービダイトの分布

反射法探査測線(灰色)上で確認された3つのタービダイト(西側、中央、東側)をそれぞれ紫、緑、オレンジ色で示す。シアンの丸は浅部スロー地震(Kano et al., 2018)を示す。プレート間の固着を表す滑り欠損(Yokota et al., 2016)を赤のグラデーションで示す。黒点線は南海トラフの軸を表す。

〈研究の内容〉
本研究では、海洋研究開発機構が過去に南海トラフで取得した反射法探査データを深海掘削データと組み合わせ、海溝で沈み込む深海堆積物を分析した。その結果、中新世に堆積した3つのタービダイトがプレート境界に沿って深部へ沈み込んでいることを発見した。西側タービダイトは主に四国の足摺岬沖に(図1、図2A)、中央側タービダイトは紀伊半島の潮岬沖に(図1、図2B)、東側タービダイトは紀伊半島の熊野沖に分布する(図1)。一方、四国の室戸岬沖ではタービダイトが分布せず、泥質堆積物のみが沈み込んでいる(図1、図2C)。南海トラフ沿いの深海堆積物を分析し、沈み込むタービダイトの全貌を明らかにしたことは、今回が初めてである。

図2:南海トラフの反射法探査断面図の解釈例

足摺岬沖(A)や潮岬沖(B)では、青点線のデコルマ(=プレート境界断層)を境にタービダイトが付加体の下部へ沈み込んでいる。一方、室戸岬沖(C)では、沈み込むタービダイトが認められない。

南海トラフ沿いの沈み込むタービダイトの分布とスロー地震活動を比較することで、西側および中央側タービダイトが沈み込んでいる足摺岬沖と潮岬沖の前弧域がスロー地震活動の静穏域と概ね一致していることが判明した(図1)。これら2つの地域では、プレート間の強い固着が観測されている。これまでの数値シミュレーション研究では、タービダイトの沈み込みはプレート境界断層の間隙水圧を低下させることで、断層の有効応力が大きくなることが報告されている。南海トラフ沿いのスロー地震発生にプレート境界断層の高間隙水圧が密接に関わる際に、透水性の優れた砂層に富むタービダイトの沈み込みは、断層の間隙水圧の低下と有効応力の上昇をもたらすことで、プレート間の固着が強くなり、スロー地震活動を抑制する可能性が高い。一方、透水性の劣る泥質堆積物のみが沈み込んでいる室戸岬沖では、プレート境界断層の間隙水圧の上昇と有効応力の低下により、プレート間の固着が弱くなり、スロー地震活動が活発化したと考えられる。

臨界尖形理論(Critical taper theory)に基づき、南海トラフ沿いのプレート境界断層の摩擦強度を反映する海底面傾斜角(a)を調査した(図3)。西側および中央側タービダイトが沈み込んでいる足摺岬沖と潮岬沖の海底面傾斜角(a = 3.3~3.8°)は、泥質堆積物のみが沈み込んでいる室戸岬沖(a = 1.6°)の2倍以上となり、足摺岬沖と潮岬沖のプレート境界断層の剪断強度がもっと大きいことを示唆する。この解析結果は、プレート境界断層の間隙水圧の低下および有効応力の上昇をもたらすタービダイトの沈み込みが、足摺岬沖や潮岬沖においてプレート間の強い固着やスロー地震活動の静穏化に重要な役割を果たすことを支持する。

図3:足摺岬沖、潮岬沖、室戸岬沖の代表的な測線での海底面傾斜角(a)

〈今後の展望〉
南海トラフのスロー地震活動について、沈み込む深海堆積物の影響を明らかにしたのは、本研究が初めてである。プレート境界断層の間隙水圧の変動に対する深海堆積物の影響を定量化することは、スロー地震の活動様式や発生原因を解明する上で重要である。今後、南海トラフ沿いのプレート境界断層の間隙水圧を高精度・広域的に調査することで、巨大地震に影響するスロー地震に関する理解が進展し、巨大地震発生予測モデルの高度化への貢献が期待される。

発表者

東京大学大気海洋研究所
  朴 進午(准教授)

株式会社ジオサイエンス
  ジャマリホンドリ エッサン(研究員)
  〈研究当時:東京大学大気海洋研究所(特任研究員)〉

論文情報

〈雑誌〉Scientific Reports(7月10日付)
〈題名〉Link between the Nankai underthrust turbidites and shallow slow earthquakes
〈著者〉Jin-Oh Park and Ehsan Jamali Hondori
〈DOI〉10.1038/s41598-023-37474-6
〈URL〉https://www.nature.com/articles/s41598-023-37474-6このリンクは別ウィンドウで開きます

研究助成

本研究は、文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」、科研費・基盤研究A「アウターライズで海洋とマントルを結ぶ大規模流体循環の時空間スケールの解明(課題番号:22H00167)」の支援により実施されました。

用語解説

(注1)反射法探査
海水面の近くで人工的に放出させた振動(弾性波)が下方に進行し、速度と密度が変化する海底下地層境界面で反射して、再び海水面へ戻ってきた反射波を受振器(ハイドロフォン)で捉え、 収録された記録を処理・解析することにより、海底下の地殻構造と物性を解明する手法である。
(注2)タービダイト
陸源性の砂や泥などが海水と混ざった混濁流によって深海底に運ばれた堆積物を指す。
(注3)スロー地震
低周波微動や超低周波地震などに代表される、通常の地震に比べて断層がゆっくりと滑る現象で、周期の長いわずかな地震波を放出する特徴がある。
(注4)間隙水圧
堆積物や岩石中の空隙を埋める水(間隙水)による圧力を指す。

問合せ先

東京大学大気海洋研究所 海洋地球システム研究系 海洋底科学部門
准教授 朴 進午(ぱく じんお)
E-mail:joparkaori.u-tokyo.ac.jp    ※「◎」は「@」に変換してください

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