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18種のサンゴの全ゲノム解読に成功! -ミドリイシ属サンゴの環境適応戦略が明らかに-

2020年10月15日

東京大学 大気海洋研究所
沖縄科学技術大学院大学

発表のポイント

◆現在最も繁栄している造礁サンゴであるミドリイシ属15種と、同じミドリイシ科のコモンサンゴ属2種とアナサンゴ属1種、合計18種の全ゲノム(注1)を解読しました。
◆ミドリイシ属サンゴでのみ、空に浮かぶ雲を作るのに重要とされる遺伝子が大量に増えていることなど、過去の温暖な地球環境へのミドリイシのユニークな適応戦略が明らかになりました。
◆本研究で得られたゲノム情報は、サンゴ礁の生物多様性がどのように維持されているのか、今後の環境変動にサンゴ礁は適応できるのか、などを明らかにするのに重要なツールになると期待されます。

発表者

新里 宙也(東京大学大気海洋研究所 海洋生命科学部門 准教授)
鈴木  豪(国立研究開発法人 水産研究・教育機構 水産技術研究所 主任研究員)
佐藤 矩行(沖縄科学技術大学院大学 マリンゲノミックスユニット 教授)

発表概要

現在の造礁サンゴの中で最も繁栄し、多様な種として存在するものがミドリイシ属サンゴ(以下ミドリイシ)の仲間です。なぜミドリイシは地球上で繁栄できたのでしょうか。ゲノムに刻まれたこの謎を解く鍵を探るため、東京大学大気海洋研究所の新里宙也准教授、水産技術研究所の鈴木豪主任研究員、沖縄科学技術大学院大学の佐藤矩行教授らの研究グループは、ミドリイシ科のサンゴ18種(ミドリイシ属15種、コモンサンゴ属2種、アナサンゴ属1種)の全ゲノムを解読しました。

ゲノム情報と化石記録を解析した結果、ミドリイシの祖先は現在よりも温暖で恐竜が生息していた白亜紀に登場し、その後の古第三紀に気候が涼しくなるにつれて種を増やしたことが示唆されました。ミドリイシのゲノムだけに見られる最も顕著な特徴として、雲を作るのに重要な遺伝子が存在し、しかもその数を大量に増やしていることが確認されました。もしかすると、ミドリイシは雲を作ることで過去の温暖な環境を乗り切ったのかもしれません。今よりも温暖な過去の環境をどのように生き抜いてきたのかを知ることは、今後の環境変動にミドリイシが対応できるのかを予測する上で重要なデータになります。本研究で得られた膨大なゲノム情報は、サンゴ礁の生物多様性がどのように生まれ維持されているのか、今後の環境変動にサンゴ礁は適応できるのか、などを明らかにするのに重要なツールになると期待されます。

発表内容

地球上で最も生物多様性豊かな環境の一つであるサンゴ礁、その礎を築いているのは刺胞動物である造礁サンゴです。現生の造礁サンゴの中で最も繁栄し、多様な種として存在するのがミドリイシ属(図1)で、彼らは広大なサンゴ礁を形成することで無数の海洋生物へ住処を提供し、生物多様性を支える重要な役割を担っています。しかしサンゴ礁は、温暖化などの地球規模での環境変動や、環境汚染などの地域レベルでの影響に晒されています。ミドリイシは海水温上昇による白化現象(注2)に特に敏感で、今後予想される気候変動の影響を大きく受けると予測されています。その一方で、地球が現在よりも温暖だった地質時代からも、ミドリイシの化石は見つかります。ミドリイシはどのようにして過去の温暖な環境を生き抜き、そして今現在繁栄しているのでしょうか。その謎に迫るために、沖縄周辺に生息するミドリイシ属15種、ミドリイシ属と同じくミドリイシ科に属するコモンサンゴ属2種、アナサンゴ属1種の合計18種の全ゲノムを解読しました(図1)。

ミドリイシはいつ地球上に登場し、その多様な種は生まれたのでしょうか。化石記録とゲノム情報を組み合わせて解析(分岐年代測定)した結果、ミドリイシの祖先は白亜紀頃に誕生したことが分かりました(図2上)。白亜紀は北極や南極に氷床が無く、現在よりも海水準が高い、恐竜たちが闊歩していた温暖な時代です。その後の古第三紀に地球環境が寒冷化するにつれ、ミドリイシは種を増やしてきたことが示唆されました(図2上)。今回解読した18種のミドリイシ科サンゴの遺伝子は、他の種類のサンゴと非常によく似たレパートリーを持っていました。一方で、ミドリイシ15種のゲノムに共通して見られる特徴、つまりミドリイシの祖先が過去の温暖な環境に適応するために獲得したと考えられるゲノム基盤を探索したところ、サンゴにしか見られない特殊なカスパーゼ(細胞死、アポトーシスに関与する因子)などが、ミドリイシだけで遺伝子の数を増やしていることが分かりました。

ミドリイシの祖先で最も数が増えた遺伝子として、DMSPリアーゼが特定されました。いわゆる「磯の香り」の正体である硫化ジメチル(DMS)は、海洋から大気に放出され、大気中で硫酸エアロゾルとなり雲核(注3)として働きます。DMSPリアーゼは、海藻や植物プランクトンが生成するジメチルスルホニオプロピオネート(DMSP)を硫化ジメチルへと転換します。他のサンゴでは数個、もしくは全く見つからないのに対し、ミドリイシでは2段階で遺伝子の数を増加させ、最大20個程度のDMSPリアーゼ遺伝子を持っていることが分かりました(図2下)。このDMSPリアーゼはバクテリアや植物プランクトンに多く見られますが、動物からは現在のところ、サンゴとホネナシサンゴの仲間でのみ確認されています。分子系統解析の結果、サンゴのDMSPリアーゼは単細胞植物プランクトンである円石藻や、サンゴと共生することで知られる単細胞藻類・褐虫藻のDMSPリアーゼと似ていることが分かりました。サンゴのDMSPリアーゼは何をしているのかは解明されていませんが、もしかするとミドリイシの祖先は、共生する褐虫藻から獲得した遺伝子を大量に増やし、雲を作ることで過去の温暖な環境を乗り越えたのかもしれません(図2下)。

その他にも、バクテリアなど病原体と戦う遺伝子(抗菌ペプチド)や、サンゴと褐虫藻の共生に関わる候補遺伝子がミドリイシ属サンゴ内で大きく変異しており、ミドリイシのそれぞれの種において、多様な環境への適応に関わっている可能性が示唆されました。現在よりも温暖だった時代を生き抜いたミドリイシは、今回特定した遺伝的基盤を利用して過去の温暖な気候を乗り越え、現在の地球上で繁栄してきたのかもしれません。今後温暖化する地球環境でもミドリイシは生息できるかもしれませんが、過去の気候変動のスピードは現在よりも緩やかであり、人為的な影響が無かったことを留意する必要があります。また本研究で得られた膨大なサンゴゲノム情報は、サンゴ礁の豊かな多様性はどのように生まれ、そして維持されているのか、さらに今後の環境変動にサンゴ礁が適応できるのかを明らかにするのに、重要なツールになると期待されます。

DNA Data Bank of Japan等の国際塩基配列データベースに加え、今回の研究で使用した18種のサンゴの遺伝子情報データはORTHOSCOPE Acropora (https://www.orthoscope.jpこのリンクは別ウィンドウで開きます)、ゲノムデータはOISTマリンゲノミックスユニットのゲノムブラウザー(https://marinegenomics.oist.jp/galleryこのリンクは別ウィンドウで開きます)でも世界中に公開されています。これらのデータは、現在大気海洋研究所が推進しているオーシャンDNAプロジェクト(https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/activity/fsi.html)で行われる環境DNA解析(注4)のためのデータベースとしての活用も期待されています。

発表雑誌

雑誌名:「Molecular Biology and Evolution
論文タイトル:Eighteen coral genomes reveal the evolutionary origin of Acropora strategies to accommodate environmental changes
著者:Chuya Shinzato, Konstantin Khalturin, Jun Inoue, Yuna Zayasu, Miyuki Kanda, Mayumi Kawamitsu, Yuki Yoshioka, Hiroshi Yamashita, Go Suzuki and Noriyuki Satoh
DOI番号:https://doi.org/10.1093/molbev/msaa216このリンクは別ウィンドウで開きます

問い合わせ先

東京大学大気海洋研究所 海洋生命科学部門
准教授 新里 宙也(しんざと ちゅうや)
メールアドレス:c.shinzatoaori.u-tokyo.ac.jp    ※アドレスの「◎」は「@」に変換ください

沖縄科学技術大学院大学(OIST)マリンゲノミックスユニット
教授 佐藤 矩行(さとう のりゆき)
メールアドレス:noriskyoist.jp

用語解説

注1:ゲノム
その生物が持つ全ての遺伝情報であり、生き物の命の設計図とも形容される。
注2:白化現象
褐虫藻がサンゴから過剰に抜け出したり、褐虫藻の色素が失われたりして、サンゴの骨格の色が白く透けて見える現象。サンゴと褐虫藻の共生関係が崩壊している状態。サンゴは褐虫藻に栄養の大部分を依存しているため、危険な状態を意味している。
注3:雲核
大気中の微粒子で、水蒸気を集めて水滴や氷のつぶとなって雲の生成を媒介する。
注4:環境DNA
土壌や水中など環境中に存在するDNAの総称であり,近年では水圏を含めた様々な生態学的調査に用いられている。

添付資料

図1 ゲノムを解読した18種の造礁サンゴ。A-Oがミドリイシ属、P&Qがコモンサンゴ属、Rがアナサンゴ属。(A) Acropora acuminata (B) A. awi (C) A. cytherea (D) A. digitifera (E) A. echinata (F) A. florida (G) A. gemmifera (H) A. hyacinthus (I) A. intermedia (J) A. microphthalma (K) A. muricata (L) A. nasta (M) A. selago (N) A. tenuis (O) A. yongei (P) Montipora cactus (Q) M. efflorescens (R) Astreopora myriophthalma.

図2 ゲノム情報と化石記録を基にしたミドリイシ属サンゴの分岐年代測定(上)と、ミドリイシ属サンゴにのみ確認されたDMSPリアーゼの遺伝子数の増加(遺伝子重複)。推定される過去の地質時代の海水準変化を青の点線、熱帯地方の海表面温度を赤線で示す。

プレスリリース