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サケの骨に刻まれた大回遊の履歴 ―“同位体”が解き明かす、知られざる海での回遊ルート―

2020年3月26日

海洋研究開発機構
総合地球環境研究所
東京大学 大気海洋研究所
北海道大学

国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)海洋機能利用部門生物地球化学プログラムの松林順JSPS外来研究員と大河内直彦プログラム長、国立大学法人東北大学の長田穣助教(現在、国立研究開発法人水産研究・教育機構研究員)は、水産研究・教育機構、北海道大学、東京大学及び総合地球環境学研究所の研究者と共同で、海洋の同位体比地図(アイソスケープ)を用いてサケの回遊経路を個体レベルで推定する手法を開発しました。

サケ(通称シロザケ、Oncorhynchus keta)は私たちにとって、今も昔もなくてはならない重要な資源です。サケは川で卵から孵ると早い段階で海に下り、その後4年ほどかけて北太平洋を回遊した後、産まれた河川に戻るという興味深い生態を持っています。しかし、彼らがどこを旅する(回遊する)のか、そもそもなぜ海の広い範囲を旅するのかはよく分かっていませんでした。現代の技術であっても個体ごとにサケの海での回遊を長期間追跡することはできなかったため、彼らの回遊に関する十分な知見が得られていなかったのです。

そこで、本研究ではサケの長期間にわたる回遊を追跡するために、“同位体比”を用いた新しい回遊経路推定手法を確立しました。付加的に成長する魚の脊椎骨には、彼らの過去の生息海域におけるさまざまな同位体比の履歴が保存されています。このうち窒素同位体比は、海域によって大きく値が異なっているため、地図における「緯度経度」のように魚類の生息海域を特定することが可能です。これを利用して、魚の窒素同位体比の履歴と同位体比地図を組み合わせることで、過去の魚の回遊経路を復元できると考えました。

私たちは最先端の窒素同位体比分析技術を駆使して、北太平洋の広範囲をカバーする同位体比地図を作成しました。続いて、北日本の複数河川で採取したサケの脊椎骨を成長方向に分割して、窒素同位体比を測定しました。最後に、得られたサケの窒素同位体比の履歴と同位体比地図からサケの回遊経路を個体ごとに推定する統計モデルを構築しました。

解析の結果、サケが成長に伴って日本近海からベーリング海へと北上する既知の回遊ルートを再現しました。さらに、サケが成長の最後の段階でベーリング海東部の大陸棚に到達することが初めて明らかになりました。サケの成長の最後の段階は、彼らが性成熟する時期と一致します。これらの結果を総合的に解釈すると、海洋におけるサケの回遊は、餌資源が非常に豊富なベーリング海大陸棚で採餌し性成熟することで終わる、つまりこの海域がサケの大回遊のゴールとなっていることが考えられます。

本研究で開発した分析手法及び同位体比地図は、北太平洋を回遊する他の魚種の回遊経路推定にも応用可能です。

詳しくはこちらをご覧ください。
  海洋研究開発機構プレスリリースこのリンクは別ウィンドウで開きます(2020年3月25日)

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