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地球温暖化が引き起こすマッデン・ジュリアン振動の変調と降水分布の変化

2019年11月28日

末松 環(東京大学大気海洋研究所 特任研究員)

発表のポイント

◆地球温暖化に伴ってインド–西太平洋暖水域が急速に拡大しており、その影響でマッデン・ジュリアン振動の活発な雲活動の場所が遷移し、 降水量の空間パターンにも世界的な変化傾向を生じていることを示しました。
◆地球温暖化による世界的な海面水温の上昇傾向は知られていましたが、雲活動に大きく影響する28℃以上の領域がインド–西太平洋暖水域で急激に拡大しつつあることが新たに分かりました。その影響により、マッデン・ジュリアン振動の活発な雲活動が西太平洋周辺に集中しつつあることも明らかになりました。
◆マッデン・ジュリアン振動は、熱帯だけでなく中高緯度の気象にも影響を与えることが知られています。カリフォルニア周辺の干ばつ傾向など地球温暖化による世界各地の降水量の変化傾向の一部が、インド–西太平洋暖水域の拡大によるマッデン・ジュリアン振動の雲活動の変調を通じて起こっていることが本研究により示されました。今後は、高解像度数値シミュレーションの併用などにより、将来変化や日本域への影響などのより詳細な情報提供が期待されます。

発表概要

東京大学大気海洋研究所の末松環特任研究員が参加するインド熱帯気象研究所のRoxy Mathew Koll 研究員を中心とした国際共同研究チームは、地球温暖化に伴う海面水温上昇がマッデン・ジュリアン振動(注1:以下Madden-Julian Oscillation; MJO)に及ぼす影響について調べました。MJOは、熱帯域の最も顕著な大気変動で全球の気象に影響を及ぼすことが知られています。

海面水温データを解析したところ、MJOの雲活動が活発なインド–西太平洋暖水域(注2)の海面水温が地球温暖化の影響で上昇し、1981年から2018年の間に海面水温が28℃以上の領域の面積がほぼ2倍に拡大していることが判明しました(図1)。海面水温の昇温傾向は、特に西太平洋域で顕著に見られました。インド–西太平洋暖水域の拡大によりMJOの雲活動の継続日数が場所によって変化しており、インド洋上では短く西太平洋上では長くなる傾向にあることが分かりました(図2)。このようなMJOの雲活動の変調によって全球的な降水分布も影響を受けており(図3)、近年の降水分布の変化傾向(図4)や極端現象の原因の一部を説明することが示唆されました(図5)。

発表内容

近年、人為的な温室効果ガスの排出が原因となって、地球の気候が温暖化していると考えられています。観測事実にもとづいて、地球全体の海面水温が上昇傾向にあることは知られていましたが、昇温の速さや大きさの海域ごとの違いについて十分な定量的評価はなされていませんでした。さらには、海面水温の上昇とその気象・気候への影響については未解明なことが多く、将来の気候を知るための重要な研究課題となっています。特に、地球全体の気象に影響を及ぼすマッデン・ジュリアン振動(MJO)が地球温暖化の影響でどう変調するのかに対する関心が高まりつつありました。

一般に、海面水温が高い場所では、海面からの蒸発により水蒸気が豊富なため、雲活動が起こりやすくなります。現在の気候では、海面水温が28℃以上になると雲活動が活発化することが知られています。そこで、末松環特任研究員が参加するRoxy Mathew Koll (ロクシー・マシュー・コール)研究員(インド熱帯気象研究所)を中心とした国際共同研究チームでは、地球上で最も広い海面水温28℃以上の領域であるインド–西太平洋暖水域が、地球温暖化に伴ってどのように拡大しているかを調べました。さらには、インド–西太平洋暖水域の拡大によってMJOの雲活動がどのように変調されているかを調べ、MJOの変調により近年の全球的な降水分布の変化の一部が説明され得ることを示しました。

海面水温のデータ解析の結果、近年はインド–西太平洋暖水域の面積が年間4×105km2の速さの拡大傾向にあることが判明しました。これは、日本の国土(約378,000km2)やカリフォルニア州(約424,000km2)に匹敵する広さだけ毎年のように拡大していることを意味します。その結果、インド–西太平洋暖水域の11月から4月の平均面積は、1900年から1980年の間は2.2×107km2でしたが(図1a)、1981年から2018年の間には4×107km2へとほぼ倍増しました(図1b)。また、インド–西太平洋暖水域における海面水温の上昇の仕方は空間的に一様ではなく、特に西太平洋側における昇温傾向が強いことも分かりました。

MJOは、大規模に組織化した雲活動域がインド洋上で発生し、30日~60日かけてゆっくりと日付変更線付近まで東進する熱帯における最も顕著な気象現象です。MJOは全球の気象に影響を及ぼすため、地球温暖化によってどのように変調されるかを知ることは社会的にも重要です。しかし、これまでは地球温暖化のMJOへの影響については実証されていませんでした。本研究により、MJOの雲活動全体の継続期間は地球温暖化によって大きく変化していない一方、雲活動の海域ごとの継続期間は、1981年から1999年の19年間と2000年から2018年の19年間の比較で、インド洋上では3日~4日短く(図2a)、西太平洋上では5日~6日長く(図2b)なっていることが分かりました。この日数の変化は、それぞれの海域における雲活動の継続期間が2割程度変化したことに相当します。この変化は、インド洋に比べて西太平洋でより大きな海面水温の上昇があったために、MJOの雲活動がインド洋上から西太平洋上へと遷移しやすくなり、また、遷移した先で継続しやすくなったことにより起こったと考えられます。

さらに、西太平洋上におけるMJOの雲活動の継続期間と全球の降水分布との関係を調べたところ(図3)、近年の降水分布の変化傾向(図4)と類似したパターンが確認されました(図5に模式図)。具体的には、西太平洋上のMJOの継続期間が延びるにしたがってカリフォルニア周辺などで降水が減る一方、アマゾン川流域やアフリカ南西部で降水が増えることが分かりました。この傾向は、近年のカリフォルニア付近の干魃やブラジルの洪水などの極端現象とも関連していたと考えられます。

本研究の範囲では日本周辺における具体的な変化傾向は検出できていませんが、観測データのさらなる蓄積や富岳などのスーパーコンピュータを利用した高解像度シミュレーションの併用などによって、さらなる分析が可能となることが期待されます。

発表雑誌

雑誌名:「Nature
論文タイトル:Twofold expansion of the Indo-Pacific warm pool warps the MJO life cycle
著者:Roxy Mathew Koll*, Panini Dasgupta, Michael J. McPhaden, Tamaki Suematsu, Chidong Zhang and Daehyun Kim
DOI番号: 10.1038/s41586-019-1764-4

問い合わせ先

東京大学大気海洋研究所 海洋物理学部門
特任研究員 末松 環(すえまつ たまき)
E-mail:suematsuaori.u-tokyo.ac.jp      ※アドレスの「◎」は「@」に変換して下さい

用語解説

注1:マッデン・ジュリアン振動 (Madden-Julian Oscillation; MJO)
活発な雲活動域がインド洋で発生し中央太平洋へ30日~60日かけてゆっくりと東へ移動する現象。熱帯大気のもっとも顕著な大気変動として認識されている。MJOは発生領域に多量の降雨をもたらす他、遠隔作用によっても全球の気象現象にも影響を及ぼすことが知られている。
注2:インド–西太平洋暖水域
西インド洋から中央太平洋の赤道域にかけて広がる28℃以上の海面水温の高い海域。

添付資料

図1:(a) 1900年-1980年と(b) 1981年–2018年の海面水温分布。海面水温28℃以上の部分がインド–西太平洋暖水域にあたる。

図2:MJOの雲活動の(a)インド洋上での継続日数の推移と(b)西太平洋上での継続日数の推移。黒実線は雲活動の継続日数の時系列、ピンク実線は前後10年の変化傾向、シェード(陰影)は10年間の2標準偏差。

図3:1981年から2018年のMJOの雲活動の西太平洋上での継続期間と降水の相関パターン。

図4:1981年から2018年の降水の変化傾向。

図5:地球温暖化に伴うインド–西太平洋暖水域の拡大に関連した全球の降水分布への影響の模式図。

プレスリリース