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初夏の日本付近の雨の降り方は将来どう変わるか? ~衛星搭載降水レーダ観測と気候モデル予測の複合利用による将来変化推定~

2019年6月20日

東京大学大気海洋研究所

プレスリリース

発表のポイント

◆衛星搭載降水レーダの降水立体観測と気候モデルの予測結果とを複合的に利用することで、初夏の日本付近における雨の降り方の将来変化を推定することに成功しました。
◆現行の気候モデルだけで雨の特徴を予測するのは未だ困難です。本研究では、衛星観測の知見も取り入れた画期的な手法を考案し、将来の雨の降り方を具体的に推定しました。
◆推定結果は、豪雨の危険度の高い地域の拡大等、将来の雨の降り方の変化に警鐘を鳴らしています。本研究成果は、将来の豪雨災害に備えるための対策に貢献することが期待されます。

発表者

横山千恵(東京大学大気海洋研究所 特任助教)
高薮 縁(東京大学大気海洋研究所 教授)

発表概要

日本の雨は、弱い雨から梅雨末期の豪雨まで様々な特徴をもっています。降り方ひとつで、雨は貴重な資源にも災害にもなるため、毎日の天気予報で雨の降り方の特徴をより精確に伝えることも、将来、雨の特徴がいかに変化するかを把握することも社会にとって大変重要です。将来の気候を予測するには気候モデルを用いますが、最先端の気候モデルでも雨の特徴まで適切に表現するのは難しく、雨の降り方の将来変化を予測することは困難です。

東京大学大気海洋研究所の横山 千恵 特任助教と高薮 縁 教授らは、気象庁気象研究所の協力の下、全球降水観測(GPM)主衛星(注1)に搭載された二周波降水レーダ(注2)による降水の立体観測データと、気象庁の全球再解析気象データ、世界の気候モデルの相互比較プロジェクト(CMIP5;注3)で集約された25個の気候モデルによる将来予測データを複合的に利用し、初夏の日本付近における雨の特徴の将来変化を推定する手法を考案しました。その結果、将来は各地で雨の降り方が変わり、その変化の仕方は地域ごとに異なることが示されました。特に、将来、豪雨の危険度の高い地域が現在より拡大する推定結果が得られています。

本研究の成果は、将来の豪雨災害に備えるための対策に貢献することが期待されます。さらに、本手法は高機能な衛星観測によって調査可能となった降雨の特徴に関する知見を取り入れており、このような降雨特性の推定結果は、気候モデルによる降水予測の質の向上にも貢献できると考えられます。

発表内容

(1)研究の背景
初夏の日本付近では梅雨前線が停滞し、多量の雨が降ります。近年、高機能な衛星観測によって、梅雨の雨が様々な特徴を持ち、どのような特徴の雨がいかなる状況で降るのかが明らかになってきました。例えば、梅雨末期には、梅雨前線のすぐ南方で、豪雨をもたらす組織化した降水システムが発現しやすい環境となります。一方、梅雨前線の北方では、温帯低気圧に伴う比較的弱い雨も観測されています。また、強い雨にもいろいろあり、いわゆるゲリラ豪雨の様な短時間で激しく降る雷雨や、組織化した降水システムによって持続的にもたらされる多量の雨などは異なる状況で卓越します。

雨は降り方ひとつで貴重な資源にも災害にもなります。そのため、将来、雨の特徴がいかに変化するかを把握するのは社会にとって大変重要です。将来の気候を予測するには気候モデルを用います。しかし、現行の気候モデルだけで雨の特徴を予測するのは未だ困難です。

(2)研究方法の概要
今回、東京大学大気海洋研究所の横山 千恵 特任助教と高薮 縁 教授らは、衛星観測と気候モデル各々の利点を活かし、それらを複合的に用いることで、雨の降り方の将来変化を推定する手法を考案しました。

まず、4年間の全球降水観測(GPM)主衛星の二周波降水レーダによる降水の立体観測データを用いて抽出した雨域の特徴から、日本域の初夏(5-7月)の雨を、ゲリラ豪雨を含む「面積の小さい対流性の雨」、集中豪雨をもたらす「組織化タイプ」、「温帯低気圧タイプ」に分類しました(図1)。雨の降り方はタイプによって異なります。集中豪雨性の強い雨は組織化タイプの雨域からもたらされます(図2)。さらに、面積の小さいタイプの雨は海面水温の高い領域で多い傾向があることや、組織化タイプの雨は海面水温よりもむしろ亜熱帯ジェットなどに伴う大規模上昇流の影響も受けているなど、環境場によって卓越する雨の種類が変わることが統計的に明らかになりました。このような知見に基づき、各降雨タイプの雨の大規模環境(海水温と大気の大規模上昇流)への依存性を定量的に関係付けるテーブルを作成しました。このテーブルを用い、環境場の変化から、各タイプの雨量の変化を推定することができます。

次に、気象庁気象研究所の協力の下、第5次結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP5)で集約された気候モデル群から25個のモデルを選択し、各々のモデルによる将来予測実験の21世紀末のデータと歴史実験データを用いて、将来と現在における環境場の変化を調査しました。そして、環境の変化と、上述の各タイプの雨と環境場とを関係付けるテーブルから、各タイプの雨量がいかに変化するかを見積もりました。

なお、このような環境場とテーブルから雨量を構築する手法の妥当性を調べるため、タイプ別に構築した雨を合計した総雨量の現在と将来の頻度分布と、CMIP5モデルが直接計算した現在と将来の雨の頻度分布とを、それぞれ海水温と降雨量の関数として作図しました。これらが大変よい一致を見せることから、この方法について、ある程度の妥当性が確認できました。

(3)結果
将来における初夏の日本付近の各タイプの雨量分布を示すことに成功しました(図3)。各タイプの将来変化パターンは互いに大きく異なることが明らかになりました。将来、環境場の変化に応じて雨の降り方が変化し、その変化の仕方は地域によって異なることを示しています。

推定結果は、将来、多くの地域で組織化タイプの雨が増加することを示しています(図3左列)。特に、日本海側や東北地方、関東地方では、現在このタイプの雨はさほど多くはありませんが、将来は顕著な増加が見積もられています。組織化タイプの増加は、豪雨の危険度の高まりを示唆しているので注意が必要です。一方、面積の小さいタイプの雨も全般に増加しますが、特に、九州から関東にかけての太平洋側での顕著な増加が推定されています(図3右列)。このタイプの雨の増加は、突然の激しい雷雨が増える可能性を示唆しています。これらの変化傾向は、25個の気候モデルのうち9割以上のモデルで一致していました。

(4)社会的意義と今後の展望
本研究の成果は、将来の雨の降り方の変化に警鐘を鳴らすものであり、豪雨災害に備えるための対策に貢献することが期待されます。また、本手法は高機能な衛星観測によって調査可能となった降雨の特徴に関する知見を取り入れており、このような推定結果は、気候モデルによる降水予測の質の向上にも貢献できると考えられます。

今後は、降雨の特徴が環境場にいかに影響されるかさらに物理的な理解を深め、知見を本推定手法の改良に反映していきます。また、第6次結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP6)による最新の気候モデル群の予測実験データも併せて利用することで、雨の降り方の将来変化推定の質を高めていきたいと考えています。

なお、この研究成果は、6月20日に「Journal of Climate」に掲載されました。

本研究は、東京大学の運営費による「水と気候の大規模データ解析研究拠点」プロジェクト、(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(2-1904)、および、JSPS科研費 JP19K21050の支援により実施されました。

発表雑誌

雑誌名:「Journal of Climate
論文タイトル:A study on future projections of precipitation characteristics around Japan in early summer combining GPM DPR observation and CMIP5 large-scale environments
著者:Chie Yokoyama*, Yukari N. Takayabu, Osamu Arakawa, and Tomoaki Ose
DOI番号:10.1175/JCLI-D-18-0656.1
アブストラクトURL:https://doi.org/10.1175/JCLI-D-18-0656.1このリンクは別ウィンドウで開きます

問い合わせ先

東京大学大気海洋研究所 気候変動現象研究部門
特任助教 横山 千恵(よこやま ちえ)
MAIL:chieaori.u-tokyo.ac.jp         ※アドレスの「◎」は「@」に変換して下さい

東京大学大気海洋研究所 気候変動現象研究部門
教授 高薮 縁(たかやぶ ゆかり)
MAIL:yukariaori.u-tokyo.ac.jp

用語解説

注1:全球降水観測(GPM)主衛星
全球の降雨・降雪を観測する計画の軸となる人工衛星で、2014年2月に打ち上げられた。二周波降水レーダとマイクロ波放射計を搭載し、南緯65度から北緯65度までの降水を測ることができる。
注2:二周波降水レーダ
GPM主衛星に搭載された観測装置。Ku帯とKa帯という2種類の周波数帯の電波を宇宙から地上に向かって照射し、降水の立体構造を観測する。固体降水や弱い降水にも対応している。
注3:第5次結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP5)
世界中の気候モデルの相互比較を通して、将来の気候変化やその不確実性を議論する国際的な研究プロジェクト。統一のシナリオの下で行われた50個以上もの気候モデルによる実験結果が集約されている。

添付資料

図1.GPM衛星に搭載された二周波降水レーダによって観測された3タイプの雨域の例。(a)面積の小さいタイプ、(b)組織化タイプ、(c)中緯度タイプ。

図2.日本付近で5-7月に観測された個々の雨域の最大降雨強度のヒストグラム。●付き黒線:面積の小さいタイプ、□付き青線:温帯低気圧タイプ、○付き赤線:組織化タイプ。

図3.環境場を指標に推定された現在(1980-2005年平均;上段)および将来(2075-2100年平均;中段)の初夏における各タイプの雨量(色)、海面水温(青破線)、500hPaの大規模鉛直風(紫実線)。組織化タイプ(左列)と面積の小さいタイプ(右列)について示されている。将来の気候は、最も温暖化が進行すると想定されるRCP8.5シナリオに基づく。
また、下段は、各タイプの雨量分布の将来変化(色)を示す。黒点は、9割以上のモデルで変化傾向が一致する箇所を示す。黒実線は現在の雨量分布。

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