ナビゲーションを飛ばす

教職員募集 所内専用go to english pageJP/EN

facebook_AORI

instaglam_AORI

マグロ・カツオ・サバ類は深海からの爆発的進化で生まれた

2013年9月5日

宮 正樹(千葉県立中央博物館)
馬渕 浩司(東京大学大気海洋研究所)
西田 睦(東京大学大気海洋研究所・名誉教授)

マグロ・カツオ・サバ類を含むサバ科魚類は、外洋を遊泳する高次捕食者として海洋生態系において重要な役割を果たしているだけでなく、食料として人間と深い関わりをもつ魚類です。しかし、長い進化の歴史の中でいつ、どこで誕生し、どのような道筋を経て進化してきたのか、謎が多く残っていました。
今回、千葉県立中央博物館の宮正樹動物学研究科長らと東京大学大気海洋研究所の馬渕浩司助教・西田睦名誉教授らの研究グループは共同で、詳細かつ膨大なDNA系統解析により、 [1]サバ科魚類の多くがこれまで類縁性が高いと予想されてこなかった別の14科 (図1)と祖先を共有していること;[2]この共通祖先は、今から約6,500万年前に起こった白亜紀末の大量絶滅(恐竜時代を終わらせた)を生き残り、その直後に、サバ科を含む15科の魚類(多くは捕食性の大型遊泳魚類)を次々に生み出したこと;[3]その共通祖先は外洋の深海 (200m以深) に生息していた可能性が高いことを示しました。
化石記録に基づく近年の研究では、白亜紀末に捕食型の大型遊泳性魚類のみが絶滅した(選択的に絶滅した)ことが明らかにされています。サバ科を含む現生の多くの捕食性魚類は、この選択的な絶滅が引き金となって生じた外洋の生態的地位 (ニッチ、注2) の空白を埋めるかたちで、深海から浮上した単一祖先の急速な種分化によって進化したてきた可能性が高いと考えられます。また、本研究の成果は、既存の魚類の分類体系に対して大幅な書き換えを迫るものでもあります。

プレスリリース資料

図1PDFファイル(233KB)
図2PDFファイル(1485KB)

発表のポイント

◆マグロ・カツオ・サバ類を含む外洋の捕食性遊泳魚類の多くは、深海に生息して白亜紀末の大絶滅を免れた共通の祖先から急速に種分化(適応放散)してきた可能性が高いことを示しました

◆今回の成果は、魚類の大規模なDNAデータに基づいて系統解析(注1)を行うことにより初めて明らかになりました。

◆本研究は、魚類の形態に基づく伝統的な分類体系に対して、大幅な書き換えをせまる成果です。また、海洋における魚類の進化史について、DNA系統解析に基づく見直しが加速されると期待されます。

発表内容

■背景

—  謎に包まれたサバ科魚類の進化的起源  —

サバ科魚類は、マグロ・カツオ・サバ類を含む15属57種からなる海産魚で、水産資源として世界中の人に利用されています。これまでサバ科魚類に関する数多くの生物学的・水産学的研究が行われてきましたが、サバ科魚類がいったい「いつ」「どこに」起源して「どのような」道筋を経て現在の57種に進化してきたのか、大きな謎に包まれていました。サバ科魚類の進化的起源が不明だった原因の一つに、これらの魚類が含まれる「サバ亜目(あもく)」(サバ科を含む計6つの科が含まれる)の構成に統一見解が得られなかったことがあげられます。たとえば、カジキのなかまは「カジキマグロ」とも呼ばれるほどマグロのなかまに類似しており、有名な教科書や図鑑でもサバ亜目の一員とされています。しかし近年の研究でサバ科魚類とは遠い関係にある魚であることがわかってきました。したがって、既存の魚類の分類体系にはよらない、新たな手法に基づいてサバ科魚類の起源と進化を探る必要がありました。そこで、共同研究グループは、スズキ類と呼ばれる巨大分類群 (13目269科に分類される17,000種を含みサバ亜目もその一員) を対象に、DNAの系統解析を用いて未知の近縁群を割り出すことにしました。

図1.今回の研究で新たに高い確度で認識された「ペラジア」(「外洋に住むもの」を意味するギリシャ語)分類群。単一の祖先から進化したサバ科魚類を含む 計15科からなり、いずれも海底から離れた海の表中層 (0~1000m) を生息場所とする捕食型の遊泳性魚類。それぞれがユニークな生活様式をもち、形態も大きく異なるため、従来はスズキ(もく)の6つの異なる亜目(あもく)に分類されてきた。

—  大量絶滅の最大の犠牲者となった表層域の大型捕食性魚類  —

今からおよそ6,500万年前の白亜紀末 (中生代の終わり) に、それまで繁栄していた恐竜に壊滅的な打撃を与えた大量絶滅が起こりました。この大量絶滅が起こった時期の化石記録を調べた近年の研究によって、魚類では海の表層域(200m以浅:地球の表面積の約3分の2を占める)に生息する大型の捕食性魚類が選択的に絶滅したことが明らかになっています。また、これら絶滅した大型の捕食性魚類は、現在のマグロやカジキのなかまが占める生態的地位 (ニッチ) と同じ地位を占めていたことが、化石の形態を詳細に調べることにより判明していました。つまり、海の表層域で他の魚類やイカ類を食べて生活するという生態的地位 (高次捕食者) を占める魚類が、6,500万年前にいなくなってしましました(生態的地位の空白)。一般に、 生態的地位に空白が生じると、それを埋めるように急速な種分化 (適応放散) が起こると言われています。しかし、研究対象としている分類群がほんとうに適応放散を起こしたのか、また、それはどのようなタイミングで起こったかを示すためには、信頼できる系統樹を得ることが必須です。サバ科魚類の起源と進化の道筋を明らかにして系統樹を得、その系統樹に時間軸を入れることができれば、過去に起こった絶滅との関連で、海の表層域における適応放散の実態を高い確度で明らかにすることができると期待されます。

■ 研究方法と結果

サバ科魚類の近縁群を探索するために、まずデータベースに登録されている全スズキ類 (13目269科に属する17,000種を含む) の塩基配列計10,733件をダウンロードしました。得られた塩基配列は、スズキ類のすべての魚類のDNAを網羅するものではありませんでしたが、215科1,558属に含まれる5,367種についてデータを得ました。100種以上の魚類において、共通した遺伝子としてデータベースに登録されている遺伝子計9個を用いて系統解析を行ったところ、サバ科魚類の近縁であることに論争のない2科 (タチウオ科とクロタチカマス科)に加えて、新たに別の12科についてもサバ科魚類に近縁なグループに分類されることが示されました(グループは、サバ科を含む計15科より構成)(図1)。共同研究グループは、この新たな近縁グループに、ギリシャ語で「外洋に住むもの」を意味する「ペラジア (Pelagia)」という名前を与えました。

図2.新分類群「ペラジア」の分岐年代入り系統樹。左端のイラストは白亜紀末に絶滅した捕食性の大型表層性魚類。

上記のデータベースを用いた解析では、個々の遺伝子に含まれる情報量が少なく (各遺伝子で1,000塩基対前後)、より信頼度の高い結果を得るため、これら15科に含まれる魚類のサンプルを幅広く収集し、情報量が多いミトコンドリアゲノム全長配列 (約16,500塩基対) を計57種の魚類について決定し、15科以外の67種の魚類のミトコンドリアゲノム配列と共に新たな系統解析を行いました。さらに、系統樹に時間軸を入れるために分岐年代分析を行いました。

その結果、15科が単一の祖先に由来する単系統群であることが高い確率 (100%) で支持される系統樹が得られました(図2)。また、カジキやカマスのなかまはこの単系統群の外に分類され、むしろアジやカレイのなかまに近縁であることも示唆されました。さらに、分岐年代分析からこれら15科の祖先が分化したのは白亜紀末に起こった大絶滅 (中生代と新生代の境界の約6,500万年前) 以降であることがわかりました。さらに、過去の生息場所を推定したところ、サバ科魚類の祖先は400m以深の深海から現れたことも示唆されました。

■ 研究の意義

今回の研究により新たに認識された分類群「ペラジア」に含まれる魚類は、海の表中層 (0~1000m) に生息する捕食型の遊泳性魚類であるという共通の生態的特徴をもっています。また、系統樹上で過去の生息水深を推定した結果、その祖先は400 mほどの深海に生息していた可能性が高いことも示されました。一方、既存の分類体系は、形態の類似性を頼りにサバ科魚類とその近縁魚類を6つもの亜目に分類してきましたが、進化の歴史をより反映させるため、今後大きな見直しが必要になります。

白亜紀末の大絶滅は捕食性の大型表層性魚類を選択的に絶滅させました。その結果、外洋表層域の生態的地位 (ニッチ) に大きな空白ができ、深海で生き延びたペラジアの祖先が、そこに適応放散することによってマグロ・カツオ・サバ類を含むさまざまな外洋性魚類を生んだものと考えられます。

用語解説

(注1)系統解析:生物の持つ形質を比較・検討することで、対象とする生物の進化の経路(枝分かれの関係)を推定する手法。本研究では、DNAの塩基配列情報にもとづきコンピュータを用いて魚類の進化経路を推定した。

(注2)生態的地位 (ニッチ):生物が生態環境の中で占める位置または役割を指し、例えば生物間の「捕食―被食(食う-食われる)」の関係等で規定される。

発表雑誌

雑誌名:PLOS ONE

論文タイトル:サバ科魚類の進化的起源:古第三紀における適応放散
Evolutionary origin of the Scombridae (tunas and mackerels): members of a Paleogene adaptive radiation with 14 other pelagic fish families

著者:宮 正樹1*・Matt Friedman2・佐藤 崇3・武島弘彦4・佐土哲也1・岩崎 渉4・山野上祐介4・中谷将典4・馬渕浩司4・井上 潤4・Jan Yde Poulsen5・福永津嵩4・佐藤行人4・西田 睦4
千葉県立中央博物館;オックスフォード大学;3国立科学博物館;4東京大学大気海洋研究所;5ベルゲン大学)

アブストラクトURL: http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0073535

問い合わせ先

〒260-8682 千葉市中央区青葉町955-2
千葉県立中央博物館・動物学研究科長 宮 正樹
Tel: (043) 265-3274 / E-mail: miyachiba-muse.or.jp         

〒277-8564 柏市柏の葉5-1-5
東京大学大気海洋研究所・助教 馬渕浩司
Tel: (04) 7136-6214 / E-mail: mabuchiaori.u-tokyo.ac.jp

E-mailはアドレスの「★」を「@」に変えてお送り下さい

プレスリリース