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大槌湾長根の岩礁藻場における底生成物の潜水調査(速報)

2011年7月15日

海洋生物資源部門 河村知彦

7月11日と12日に大槌湾の湾口部に近い長根島の岩礁藻場において、津波による撹乱後はじめてスキューバ潜水による底生生物群集の調査を行った。

 

この場所では、水産総合研究センター東北区水産研究所と共同で5年前から年に4回ほど継続して調査を行っている。震災前の昨年12月にも調査を実施している。今回の調査も東北区水産研究所の高見秀輝主任研究員と村岡大祐主任研究員と共同で実施した。採集試料の分析や調査結果の詳細な解析はこれから行うが、エゾアワビやウニ類の分布密度や海底の様子から、この場所における津波の影響について現時点で推察されることを簡単に報告する。

長根島周辺の岩礁海底において例年この季節には、水深2-6 mには大型褐藻類のエゾノネジモクが、6-10 mには同じく大型褐藻類のホソメコンブが濃密な群落を形成する。それより深い海底には大型海藻群落は形成されない。岩盤や転石の表面には、薄いピンク色の無節サンゴモという殻状紅藻が繁茂する。幸い、エゾノネジモクやホソメコンブの群落は健在であり、津波による著しい影響は見られなかった。先月同様の調査を実施した宮城県牡鹿町泊浜では、無節サンゴモが繁茂する深場の転石域で、大きな転石の横転や岩盤が大規模に削れた様子が観察されたが、長根島周辺ではこのような現象も認められなかった。この場所における海藻群落に対する津波の影響はそれほど大きくなかったと考えられる。しかし、生産技術研究所の浦 環 教授のグループが4月下旬にROVによって撮影した、長根島よりも湾奥寄りの同様の水深帯の海底映像を見ると、大きな転石が横転している様子が見られることから、津波の影響は大槌湾内でも場所により異なり、湾口部における影響は比較的少なかったとみられる。また、小松准教授が実施したサイドスキャンソナーを用いた大槌湾内での調査結果で報告されているとおり、大槌湾の浅場の砂泥底に群落を形成するアマモなど海草類は甚大な影響を受けたとみられることから、岩盤に付着する海藻類に対する津波の影響は、砂泥底に根を張る海草類に比べれば小さかったと考えられる。

長根島のホソメコンブ群落内に多く生息するエゾアワビ成貝(殻長5 cm 以上程度)の分布密度には、津波前後で大きな変化は認められなかった。一方、無節サンゴモ域に多く生息するキタムラサキウニやエゾバフンウニの密度は大きく減少した。また、小型巻貝類や甲殻類の密度はホソメコンブ群落内、無節サンゴモ域でともに減少していた。無節サンゴモ域を主要な生息場とするエゾアワビ稚貝(5 cm未満)の密度も大きく減少した。また、この場所に多く放流したというエゾアワビ人工種苗はほとんど見つからなかった。付着力の弱い動物は津波の影響を強く受け、流されてしまったものと考えられる。特に大型海藻による保護効果の無かった無節サンゴモ域では動物の密度が大きく低下した。

無節サンゴモ域での植食動物密度が減少したため、海藻幼体が無節サンゴモ上に多く見られ、今後海藻群落は拡大する可能性がある。これは、エゾアワビの成体やウニ類の餌料環境の向上を意味するが、幼生の成育場である無節サンゴモ域の縮小につながるため、稚貝・稚ウニの発生量は減少する可能性も考えられる。今後も継続して調査を行ない、海藻群落や動物種組成、密度等の変化を追跡して行く必要があるが、漁獲サイズのエゾアワビが減少しなかったからといって、現在残っているエゾアワビの成 体をあまり多く漁獲すると、将来的には資源の減少につながることも多いに考えられる。特に種苗放流による資源量の嵩上げが期待できない現状では、漁獲圧を昨年よりも低く押さえて経過を見守る必要があろう。


本調査の様子は、「津波でウニ・アワビ激減 岩手・大槌湾、東大が潜水調査」として、朝日新聞で紹介されました。

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