東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第6章 大型研究計画の推進

6-11 温室効果気体・沖ノ鳥島関連

(1)文部省特別事業「海洋研究船による地球温暖化に係わる温室効果気体の海洋における収支の観測研究」

本研究は1992年から5年計画で開始された.これは1989年に竣工した学術研究船「白鳳丸」の研究観測能力を生かし,地球温暖化の海洋における実態を明らかにし,さらにそれを引き起こす温室効果気体の海洋における収支を明らかにすることを目的としていた.

海洋研究所は全国共同利用研究機関として,国内外の海洋研究者によって行われる海洋の基礎研究を支援すると同時に,自らもその中核を担う役割を果たしてきており,2004年に東京大学が国立大学法人となり,それまで東京大学が保有していた学術研究船「白鳳丸」「淡青丸」が海洋研究開発機構に移管された後も,そのような役割を担っている.国立大学法人移行後は,この研究計画は運営費交付金によって賄われる研究のひとつとなったが,その課題の重要性に鑑み,現在まで継続的に推進してきている.

開始当初は下記の5つの主要研究課題が設定され,所を挙げて研究に取り組んできた.

  • (1) 二酸化炭素も輸送する海流として北太平洋亜熱帯循環の一部である黒潮の流量把握
  • (2) 二酸化炭素の同化に寄与する植物プランクトンの分布の把握
  • (3) 白鳳丸で受信する人工衛星データを活用するための表層クロロフィル量の評価
  • (4) 温暖化の実態把握のためゾンデによる高層気象観測および海洋表層から深層までの物理・化学観測
  • (5) 亜熱帯域の海洋生物に対する温暖化の影響の把握のため,微生物,プランクトンの量的な変動の調査,高温により誘発されるタンパク質等の解析
  • ここ数年は白鳳丸,淡青丸を用いて,温室効果気体の大気―海洋間の収支の評価,海洋内部の炭素物質の生成・分解機構の解明,温暖化が海洋生態系に与える影響の実態把握,温暖化が引き起こす海水準変動の検証といった課題に寄与する研究テーマを所内公募し,一連の研究を推進している.

(2)文部省特別事業「沖ノ鳥島における地球物理観測研究」

沖ノ鳥島はわが国最南端(21°25.5’N,136°4.2’E)に位置する.領海や排他的経済水域の基線を与えるものとして重視され,特に1980年代から各省庁等の協力によりその保全策が講じられてきている.1989年には露岩保全対策工事が開始され,その後,観測施設の建設も行われた.フィリピン海プレートの中央部に位置する沖ノ鳥島は,海洋学的,地球物理学的にも重要な観測拠点になり得ることから,海洋研究所では1989年に海底堆積,海底物理部門が中心となって,本研究(研究代表者:瀬川爾朗教授)が5年計画で開始された.この研究では,沖ノ鳥島を固体地球物理観測基地として活用し,本学地震研究所,名古屋大学,京都大学防災研究所,千葉大学等と共同で,同島環礁内および周辺海底における地震観測,GPS観測等を実施し,フィリピン海プレートの運動の検出などを行った.

その後も同様の観測が継続的に行われてきたが,2000年代に入ってからは,海洋底科学部門の徳山英一教授が中心となって,島の周辺の海洋環境計測による地形性湧昇の実態把握,サンゴの育成環境の把握及び電着法によるサンゴの着床技術に関する研究等が行われた.2008年からはほぼ毎年,海上保安庁海洋情報部の測量船に同乗して沖ノ鳥島に行き,島周辺における海洋観測,礁内における環境計測等を実施している.