東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第4章 大気海洋研究所の組織と活動

4-1 共同利用と国内外共同研究の展開

4-1-3 共同利用・共同研究

大気海洋研究所では,大気海洋科学に関する基礎的研究を行うことを目的とした全国の研究者のための共同利用・共同研究の柱として,学術研究船白鳳丸・淡青丸を用いた研究航海と,柏地区に研究者が滞在して研究活動を行う外来研究員制度,多人数による1~2日間の研究集会,比較的少人数による数日間の研究集会の公募制度を実施している.岩手県大槌町にある国際沿岸海洋研究センターにおいても,柏地区と同様に外来研究員と研究集会の公募を行っている.また,所外の個人またはグループの研究者と所内の教員が協力して,主として大型計算機を用いて気候システムにかかわる研究を行う共同利用制度も実施している.さらに2011年度からは,大気海洋科学に関わる基礎的研究および地球表層圏の統合的理解の深化につながる萌芽的・学際的研究を実施するための公募型共同研究事業である学際連携研究が新設された.

これら共同利用・共同研究はすべて公募を原則としており,公募要領や申し込みに必要な書類等は大気海洋研究所ウェブサイトに公開している.公募を行った後,学術研究船の運航計画は,研究船共同利用運営委員会のもとに設けられた研究船運航部会での審議,同委員会での審議を経て,本所協議会において決定される.それ以外の共同利用・共同研究の採否は,共同研究運営委員会のもとに設けられた陸上共同研究部会・気候モデリング研究部会・学際連携研究部会での審議,同委員会での審議を経て,本所協議会にて決定される.これらの委員会や部会はすべて,半数以上の所外委員を含んでいる[➡資料1―7].

大気海洋研究所の共同利用・共同研究に関する運営組織
大気海洋研究所の共同利用・共同研究に関する運営組織

(1)学術研究船の共同利用・共同研究

白鳳丸は遠洋,近海を含め,比較的長期間の研究航海を行い,淡青丸は沿岸を含む日本近海において数日から2週間程度の比較的短期間の研究航海を行う.白鳳丸の運航計画は3カ年ごとに策定される(最近では2011年11月に研究計画企画調整シンポジウムを開催し,2013~2015年度の計画を策定した).また,この長期計画に基づき,毎年秋に比較的小規模の研究課題を単年度公募する.淡青丸の運航計画は毎年秋に行われる公募・審査を経て策定される.航海計画の策定・実施については共同利用共同研究推進センター(以下,推進センター)の研究航海企画センターが,また,観測の実施については推進センターの観測研究推進室および研究船共同利用運営委員会の研究船船舶部会・研究船観測部会が支援を行っている.

両船の研究航海日数は2004年4月の海洋研究開発機構への移管[➡2―4]以降,移管時のとりきめに従い,年間約170日から約300日へと大幅に増加した.しかし,2004年度から2011年度までの白鳳丸の年間運航日数は285,287,263,261,149,242,282,260日,淡青丸のそれは282,283,263,266,264,280,286,267日と,予定されていた300日にはおよばない状況で推移している[航海海域および2003年度以前の航海数➡資料2―2―1].ここ数年,原油価格が高騰しており,その影響で2008年度は年度後半の白鳳丸航海を翌年度に延期せざるを得なかったなど,海洋研究開発機構より提示される航海日数が減少傾向にある.2013年に竣工予定の淡青丸後継船は淡青丸よりも運航コストの増大が予測され,海洋研究開発機構における運航予算の確保が課題となる.

(2)陸上共同利用・共同研究

大気海洋研究所(柏地区)共同利用

所外の研究者が本所に滞在して研究活動を行う外来研究員の制度,および多人数による1~2日間の研究集会や比較的少人数による数日間の研究集会の制度がある.本所は2010年4月の設立と同時に共同利用・共同研究拠点となったが,従前とほぼ同様の形態で共同利用を実施している.2005年度から2011年度までの外来研究員の採択数は31,41,47,43,45,37,42と推移している[2004度以前の採択数➡資料2―2―2―2].2010年4月に海洋研究所は都内の中野地区から千葉の柏地区に移転し気候システム研究センターと統合して大気海洋研究所になったが,交通機関の不便さに伴う外来研究員の採択数に大きな影響は見られない.同様に研究集会の採択数は11,14,19,18,18,16,15と推移しており,外来研究員と同様の傾向にある[2004度以前の採択数➡資料2―2―2―1].採択された外来研究員については,研究課題ごとに担当教員を決め,必要に応じて推進センターの陸上研究推進室の支援を受けている.

国際沿岸海洋研究センター(大槌地区)共同利用

所内外の研究者が国際沿岸海洋研究センターに滞在して研究活動を行う外来研究員の制度,および比較的少人数による研究集会の制度がある.採択された外来研究員については,個々の研究課題ごとに担当教員を決め,実験室や観測船(弥生,チャレンジャー2世,チャレンジャー3世)および観測機器類を提供し,推進センター沿岸研究推進室が技術的な面を含めた支援を行うとともに,施設利用に関するマニュアル「共同利用のしおり」を作成して配布し,利用者の便宜を図ってきた.さらに敷地内の宿泊施設(宿泊可能人数22名)を外来研究者に提供してきた.また,緊急性の強い研究の実施のために,公募外でも旅費なしの外来研究員を適宜受け入れてきた.2005~2009年度の5年間の平均をとると,年間あたりの外来研究課題採択数(公募)は44件(利用者数のべ1,323名),公募外の研究課題数は57件(利用者数のべ1,763名),研究集会数3件(参加者数220名)であった[1992年以降の年別データ➡資料2―2―2―1資料2―2―2―2].研究成果の発表の場として,1998年以前は『大槌臨海研究センター報告』,1999~2003年は英文誌『Otsuchi Marine Science』と和文誌『大槌臨海研究センター研究報告』,2004年以後は英文誌『Coastal Marine Science』および和文誌『国際沿岸海洋研究センター研究報告』を刊行している.英文誌については東京大学学術機関リポジトリ(UT Repository)に登録し,インターネット上で内容公開を行っている.2011年3月11日の東日本大震災に伴う津波によって陸上施設が壊滅的な被害を受け,観測船はすべて流失したが,その後施設の復旧に努め,共同利用研究の継続と発展に向けて鋭意努力している[➡4―3―1].

気候システムに関する共同研究

気候システム研究センターは,全国共同利用施設として日本全国の気候研究者の共同研究の場を提供することが,その重要な目的のひとつであった.そのための活動として,1993度より大型計算機の利用を中心とした公募制の全国共同研究を行ってきた.この共同研究では,本センターが提案して計画的に推進する特定共同研究と,センター外の個人またはグループが提案する研究テーマについて,センター内外の研究者が協力して進める一般共同研究の2つの形態を設けている.この共同研究を通じて,気候モデル開発の推進,および大型計算機を用いる気候研究の発展がはかられてきた.2010年4月海洋研究所との統合後も従前とほぼ同様の形態で気候システムに関する共同研究を実施している.年度ごとの採択数の2007~2011年度の平均は,特別共同研究9.2件,一般共同研究11.0件である.

(3)学際連携研究の新設

学際連携研究は,2011年度より開始した公募型の共同研究事業である.本研究では,全国の個人またはグループの研究者と本所の教員が協力して,海洋や大気に関わる基礎的研究および地球表層圏の統合的理解の深化につながる研究を実施する.特に,複数の学問分野の連携による学際的な共同研究の推進を目指すことから「学際連携研究」と名付けられた.本研究には以下の2つの形態がある.

特定共同研究:本所が提案し,地球表層圏変動研究センターが中心となって計画的に推進する特定共同研究課題について,所内の研究グループと所外の研究者が協力して進める共同研究.

一般共同研究:全国の個人またはグループが提案する研究テーマについて,所外と所内の研究者が協力して進める共同研究で,本所の研究目的に貢献が期待できるもの.新しい研究の展開のきっかけとなるポテンシャルを秘めた萌芽的あるいは試行的研究を歓迎する.また,新規プロジェクトの立案にむけてのフィージビリティ研究(打ち合わせ会議や予備調査の実施などを含む)も審査の対象とする.

申請資格者は,国・公立大学法人,私立大学および公的研究機関の研究者,またはこれに準ずる者,並びに本所所長が適当と認めた者とする.同一課題の実施期間は2年間を限度とし,継続の場合も年度ごとに審査を行う.2011年度の実績は,特定共同研究応募数2件,同採択数2件,一般共同研究応募数10件,同採択数9件であった.