東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第4章 大気海洋研究所の組織と活動

4-2 教育・啓発活動の推進

4-2-3 学内外と連携した教育研究活動

(1)内田海洋学術基金

本所は,1988年5月27日に,海洋研究所元所長(海洋生物生理部門教授)であった故内田清一郎博士の御令室たづ氏より,本所における海洋科学研究助成―特に海洋生物学の領域に関する資金―として1億円の寄付を受けた.内田博士御夫妻のご芳志を末永く記念するため,この寄付金を内田海洋学術基金と定め,本所の研究・教育活動の促進のため次の活動を助成している.(1)本所の研究者・職員・大学院生の海外派遣,(2)海外研究者の招聘,(3)国際研究集会,および(4)国際共同研究.本基金の運営は,各年度の予算を基に内田海洋学術基金運営委員会により行われている.また,運営委員会は2000年度から,内田海洋科学特定共同研究員の受入審査も行っている.

(2)新世紀を拓く深海科学リーダーシッププログラム

「新世紀を拓く深海科学リーダーシッププログラム(HADEEP=Hadal Environmental Science/Education Program)」は,2006年4月から2011年9月までの5年半,日本財団と本学との契約のもと,日本財団助成事業として本所で行われたプログラムである.本プログラムの目的は,最先端の深海科学を教育する拠点を形成し,世界をリードする深海科学の研究者・技術者・行政者を数多く養成することであった.またこれによって,人類の持つ深海への理解を大幅に進めることも狙いとした.

本プログラムの組織は,プログラムリーダーを所長とし,コーディネーター,プログラムマネージャー,運営委員会からなる.助成額合計は,167,500,000円であった.それに約5,000,000円の本所予算を加えて「教育プログラム」と「研究プログラム」が実施された.

教育プログラムでは,本学で深海を学際的に理解するための講義「深海科学概論」,共同研究相手の英国アバディーン大学では「Abyssal and Hadal Environments」コースが開講された.また,若手博士研究者(ポストドクター)を特任研究員として採用し,次世代を担う研究者教育にも力を注いだ.本プログラムに採用された特任研究員は5年半で計22名.専門分野は物理,化学,地学,生態,生命,資源の多岐にわたり,その活動は,発表論文62編,国内学会発表69件,国際学会発表25件,研究航海乗船19件に及んだ.HADEEPでの教育を受けた後の進路は研究職が多いが,民間の技術研究所や研究と企業を結ぶTLO関係へ進む者もあった.

研究プログラムでは,深海研究に長年の経験と実績を持つ英国アバディーン大学オーシャンラボと共同研究を行った.超深海域を対象としたHADEEP研究航海は5年半で7回.調査はケルマデック海溝,マリアナ海域,日本海溝,伊豆小笠原海溝,チリ・ペルー海溝で,計29回行われた.日英で共同開発された12,000m級海底設置型長期観察システムにより得られたデータからは,今までの常識を超えた深度で,大量の生物が非常に活発に生息していることが確認された.

日英のメンバーが集まるワークショップを4回,特任研究員の研究を紹介するオープンセミナーを6回開催した.最終年度の2010年11月には,世界各国の深海研究者に呼びかけ,本所において国際深海シンポジウムを開催した.英国,イタリア,ロシア,米国,日本など9カ国から103名の深海研究者が参加し,深海研究の今後を見すえた活発な討論が展開された.

広報活動としてウェブページ(http://www.aori.u-tokyo.ac.jp/project/hadeep/index.html)を作成し,ブログを配信した.関連するシンポジウムや学会,また大学のオープンキャンパスへも参加した.2010年11月には,日本財団ビルにおいて「深海魚を見て,触って,食べて,楽しむ深海イベント―中高校生のための深海展」を企画,開催した.小学生から理科教員,保護者まで400名以上もの参加があった.

(3)海洋アライアンス

海洋に関わる研究や解決すべき問題の多くは,学際的なアプローチを必要としている.本学には海洋に関わる研究者が多くの部局に在籍していることから,そうした研究者を束ねた全学を横断する「機構」として,2007年7月に総長室総括委員会のもとに「海洋アライアンス」が設置された.本所は事務局を引き受け,その活動を支えている.また,木暮一啓教授と木村伸吾兼務教授(新領域創成科学研究科教授)が副機構長として,浦環機構長(生産技術研究所教授)らと運営を担っている.2012年3月末現在,本学の12の部局が参画している.

2008年4月からは日本財団からの助成を受けて総合海洋基盤プログラムが発足した.この助成金は,特任教員,特任研究員,事務員などの人件費,教員の研究費およびシンポジウムやワークショップの開催,海洋イニシャティブの推進などにあてられている.本所では2008年9月より青山潤がこの助成による特任准教授となっている.また,新領域創成科学研究科に所属する特任准教授として,高橋鉄哉(2008年9月~2011年3月),下出信次(2011年4月~2012年3月),山本光夫(2012年4月着任予定)が順次このポジションに就き,兼務教員として本所内に居室を置いて教育研究活動を行ってきた.また2009年4月からは,本学の正式な研究科横断型教育プログラムとして「海洋学際教育プログラム」が発足した.学生は所属する研究科で開講される必修科目「海洋問題演習」を受講するとともに,選択必修科目,推奨科目から合計14単位を取得すると海洋学際教育プログラムの修了証が交付される.

(4)21世紀COEプログラムおよびグローバルCOEプログラム

2002年度から始まった文部科学省の事業「21世紀COEプログラム」において,海洋研究所と気候システム研究センターは本学で実施された2つのプログラムに参画した.まず,2003年度から理学系研究科地球惑星科学専攻を中心に5年間実施されたプログラム「多圏地球システムの進化と変動の予測可能性―観測地球科学と計算地球科学の融合拠点の形成」(拠点リーダー:山形俊男理学系研究科教授)には,海洋研究所から玉木賢策教授,ミラード・コフィン教授,新野宏教授,気候システム研究センターから中島映至教授,木本昌秀教授,阿部彩子助教授が事業推進担当者として参加した.また,両研究所・センターの地球惑星科学専攻担当教員がメンバーとして参加した.同じく2003年度から農学生命科学研究科生圏システム学専攻を中心に5年間実施された21世紀COEプログラム「生物多様性・生態系再生研究拠点」(拠点リーダー:鷲谷いづみ農学生命科学研究科教授)には,海洋研究所から小池勲夫教授,塚本勝巳教授,西田睦教授が事業推進担当者として,白木原國雄教授と松田裕之助教授がメンバーとして参加した.

2009年度から5年間実施されているグローバルCOEプログラム「自然共生社会を拓くアジア保全生態学」(拠点リーダー:矢原徹一九州大学大学院理学研究院教授)は,上記「生物多様性・生態系再生研究拠点」プログラムの継続提案が九州大学の提案と合わさって採択されたものであり,本所から塚本勝巳教授と西田睦教授が事業推進担当者として参画している.