東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第4章 大気海洋研究所の組織と活動

4-2 教育・啓発活動の推進

4-2-1 大学院教育

(1)理学系研究科

地球惑星科学専攻

本専攻は,理学系研究科に属する地球惑星物理学・地質学・鉱物学・地理学の4専攻が統合して2000年4月に誕生した.本専攻では,5つの基幹講座(大気海洋科学,宇宙惑星科学,地球惑星システム科学,固体地球科学,地球生命圏科学)に加え,学内の附置研究所(大気海洋研究所,地震研究所,物性研究所,先端科学技術研究センター)や宇宙科学研究所/宇宙航空研究開発機構などの教員が協力・連携講座として各基幹講座に対応する形で教育にあたっている.

大気海洋研究所では海洋研究所・気候システム研究センターの時代から,数多くの教員が本専攻を通じて教育を行ってきた.2012年3月末時点で,高橋正明,羽角博康,岡顕,木本昌秀,高薮縁,渡部雅浩,岡英太郎,新野宏,伊賀啓太,安田一郎,植松光夫,中島映至,佐藤正樹が大気海洋科学講座,阿部彩子,佐野有司,横山祐典が地球惑星システム科学講座,芦寿一郎,沖野郷子,徳山英一,朴進午が固体地球科学講座,川幡穂高が地球生命圏科学講座の兼担教員あるいは協力教員を務めている.加えて,1992~2011年度の20年間に松野太郎,沼口敦,今須良一,住明正,杉ノ原伸夫,遠藤昌宏,新田勍,平啓介,川辺正樹,浅井冨雄,木村龍治,小池勲夫,平朝彦,末廣潔,瀬川璽朗,巽好幸,Millard F. Coffin,藤本博己,小林和男,玉木賢策,石井輝秋,杉本隆成,日比谷紀之が専攻教育に携わった.

化学専攻

本専攻は,物理化学,有機化学,および無機・分析化学の3つの研究系に分かれ,総計34の研究室が,本郷キャンパス,駒場キャンパス,柏キャンパス,つくば,および相模原に分散して,幅広い領域にわたって研究・教育を行う体制を整えている.柏キャンパスにおいては,物性研究所の5研究室,大学院新領域創成科学研究科の1研究室,および本所の1研究室が本専攻の教育を行っている.

本所では海洋無機化学分野が,1964年に海洋研究所海洋無機化学部門として創設されて以来,大学院教育では本専攻に所属している.最近20年間についてみると,1992年1月より2003年1月まで野崎義行,2003年11月より現在まで蒲生俊敬が,大学院担当教員の代表を務めた(2003年1月の野崎急逝後,蒲生が着任するまでの間に限り,理学系研究科地殻化学実験施設の野津憲治教授が代行した).

生物科学専攻

本専攻は,1953年に本学大学院が設置された時に生物系研究科として発足した.1965年に理学系研究科が設置された際に,動物学,植物学,人類学という生物系研究科の3つの専門課程が専攻となり,さらに1995年に3専攻が統合して本専攻が設置され,動物科学,植物科学,人類科学,進化多様性生物学および広域理学の5つの大講座から構成されるようになった.本専攻は現在,広域理学大講座を除く4つの基幹講座,5つの協力講座(臨海実験所,植物園,大気海洋研究所,分子細胞生物学研究所,総合研究博物館),連携講座(国立科学博物館),学外の兼任教員,学内の併任教員を含む67研究室からなる.

本所と本専攻との関係は,1964年に海洋研究所海洋生物生理部門(現生理学分野)の内田清一郎初代教授が理学部動物学教室から異動したことから始まる.以来,生理学分野,生元素動態分野,底生生物分野,分子海洋生物学分野に属する教員は,基本的に本専攻を本務としてきた.2012年3月末時点で,専攻の協力講座/先端海洋生物科学の教員として,竹井祥郎,兵藤晋,日下部誠,狩野泰則,西田睦,井上広滋,馬渕浩司が動物科学大講座を担当し,永田俊,宮島俊宏が植物科学大講座を担当している.小島茂明は1992年より2011年6月まで本専攻を本務としていたが,新領域創成科学研究科自然環境学専攻の基幹講座(地球海洋環境分野)への異動にともない,併任教員として本専攻を担当している.

加えて1992年度以降,平野哲也,金子豊二,田川正朋,太田秀,白山義久,相生啓子,嶋永元裕,浦野明央,長澤寛道,渡邊俊樹,窪川かおる,遠藤圭子が動物科学大講座を,小池勲夫,小川浩史,才野敏郎,神田譲太が植物科学大講座を担当した.

(2)農学生命科学研究科

農学生命科学研究科水圏生物科学専攻の前身は,1953年に設置された東京大学大学院生物系研究科内におかれた水産学専門課程である.1965年に理科系の研究科が医学系,工学系,理学系,農学系,薬学系の5研究科に改組され,水産学専攻は農学系の研究科に置かれることになった.1994年の大学院重点化に伴って,農学研究科は農学生命科学研究科に改称され,水産学専攻は翌1995年に水圏生物科学専攻に整備・改称された.

人類はこれまで,再生可能な生物資源を食料として利用してきたが,人間活動の影響による環境の劣化や乱獲によって世界の漁獲量は1980年代末から8,000万トン台で頭打ちの状態にある.将来の人口増加を考えると,生物資源を適切に保全してより高度にかつ持続的に利用することが求められている.そのためには,レジームシフトなどの自然的要因,あるいは地球温暖化や海洋酸性化などの人為的要因による環境の変化が,水圏の生態系全体に与える影響を十分理解しなければならない.また,食料としてのみでなく生理活性物質を生産する機能も,水圏生物資源として利用を進める必要がある.水圏生物科学専攻の教育・研究は,人類が抱える食料や環境等の全球的な課題に対して積極的に貢献できる人材を養成することを目的として行われている.

本所では,浮遊生物分野,微生物分野,資源解析分野,資源生態分野,環境動態分野,行動生態計測分野の6分野が,水圏生物科学専攻の協力講座として大学院の教育・研究にあたっている.また,これら6協力講座以外の海洋無機化学分野,生理学分野,分子海洋生物学分野,生物海洋学分野,国際沿岸海洋研究センターおよび国際連携研究センターに所属する教員が,本郷キャンパスにある7基幹講座や大気海洋研究所の6協力講座の兼担教員として,水圏生物科学専攻の教育・研究に携わっている.2012年3月末現在における教員構成は,津田敦,木暮一啓,濱崎恒二,白木原國雄,平松一彦,渡邊良朗,河村知彦,安田一郎,小松幸生,塚本勝巳,小松輝久,兼担教員は,蒲生俊敬,小畑元,西田睦,井上広滋,兵藤晋,大竹二雄,佐藤克文,植松光夫,木村伸吾である.

(3)新領域創成科学研究科

新領域創成科学研究科は1998年4月に新設された研究科である.本研究科には3つの研究系(基盤科学,生命科学,環境学)がある.このうち,本所と関係の深い環境学研究系は1999年4月に設置された.この研究系は環境学の1専攻からなり,自然環境,環境システム,人間人工環境,社会文化環境,国際環境協力の5コースにより構成されていた.

2000年7月,自然環境コースに気候システム研究センターから中島映至が兼担教員として着任した.2003年4月には研究協力分野「地球環境モデリング学分野」が設けられ,住明正が協力講座教員,中島映至が兼担教員として着任した.その後,2005年4月に今須良一が協力講座教員となり,新たに高橋正明が兼担教員として加わった.

2001年4月,自然環境コースに海洋研究所教員よりなる海洋環境サブコースが設けられ,協力講座教員として道田豊,寺崎誠,佐野有司,天川裕史,宮崎信之,白木原國雄,金子豊二,木村伸吾,兼担教員として平啓介,木村龍治,川辺正樹,玉木賢策,徳山英一,小池勲夫,野崎義行,木暮一啓,小島茂明,塚本勝巳,西田睦,松田裕之,小松輝久が加わった[➡2―2].

2006年4月に環境学研究系の改組が行われ,自然環境学コースは自然環境学専攻,同専攻の陸域環境サブコースと海洋環境サブコースはそれぞれ陸域環境学コース,海洋環境学コースとなった.専攻の理念は全球レベルからローカルレベルに至る様々なスケールにおける自然環境の様態とその変動,自然環境に対する人為の履歴など,自然と社会の両面から多角的に究明することであり,個々の専門の視点のみなならず自然環境を総合的にとらえる視点を持って教育研究に取り組むことである.

新領域創成科学研究科に関与する本所教員(兼務教員含む)は2012年3月末時点で以下の通りである(:兼担教員).自然環境学専攻基幹講座:地球海洋環境学分野(小島茂明,芦寿一郎),海洋資源環境学分野(白木原國雄,小松幸生),海洋生物圏環境学分野(木村伸吾,北川貴士),自然環境学専攻研究協力講座:地球環境モデリング学分野(今須良一,中島映至,高橋正明,芳村圭),海洋環境動態学分野(道田豊,藤尾伸三,田中潔,川幡穂高),海洋物質循環学分野(小川浩史,小畑元,高畑直人,福田秀樹,井上麻夕里,白井厚太郎,木暮一啓),海洋生命環境学分野(大竹二雄,佐藤克文,小松輝久,井上広滋),情報生命科学専攻:岩崎渉.

(4)総合文化研究科

中野キャンパスにあった海洋研究所は,駒場キャンパスと地理的に近接していたこともあり,古くから研究に関して交流が深く,駒場の教員による陸上共同利用研究や研究集会が行われてきた.また,この20年の人事において,1992年4月に海洋生化学部門の大森正之助教授が教養学部教授に転出し,1999年3月には教養学部の兵藤晋助手が本所海洋生物生理部門助手に転入した.2005年当時教養学部長であった浅島誠教授を中心に,教養学部で「理系総合のための生命科学」という教科書を作ることが話し合われた際に,教養学部の生物学関係の教員にホメオスタシスに関する研究者が少ないことが話題となり,そのテーマの執筆を担当した生理学分野の竹井祥郎が,2007年度より2011年度まで総合文化研究科・広域科学専攻・生命環境科学系を兼坦した.

(5)工学系研究科

2010年3月に生産技術研究所からの配置換により,芳村圭が気候システム研究センターに赴任した.芳村は生産技術研究所において社会・人間部門に所属し,工学系研究科の社会基盤学専攻の課程担当であったことから,そのまま気候システム研究センターとして初めて,工学系研究科所属の学生にも公式な門戸を開くこととなった.それ以前からも,気候変動予測とその影響評価研究に代表されるプロジェクトなどにより,工学系研究科や生産技術研究所と気候システム研究センターは深く交流しており,正式なルートで工学系研究科からの学生が気候システム研究センターに所属できるようになったことは学生・研究者双方に有益な流れであったといえる.2010年4月に大気海洋研究所が発足して以降も,工学系分野とのより一層強固で学際的な交流関係を築くべく,引き続き芳村が工学系研究科社会基盤学専攻の課程担当を務めている.

(6)大気海洋研究所としての大学院教育

以上のように本所における大学院教育は2012年3月末現在,4つの研究科(理学系,農学生命科学,新領域創成科学,工学系),7つの専攻(地球惑星科学,生物科学,化学,水圏生物科学,環境学系自然環境学,情報生命科学,社会基盤学)を通して行われているが,各専攻間の情報共有は必ずしも十分図られてこなかった.研究所として教育活動により積極的に関与するために,2008年に教育委員会が設置された.本委員会は「大気海洋科学インターンシップ」[➡4―2―2]や「進学ガイダンス」[➡4―2―5]を担当しているほか,毎年度末,博士号を取得した本所の大学院生を対象に「博士論文公開発表会」を実施している.その目的は,博士号取得者の研究活動の把握を通じて,研究科相互の理解を深めるとともに,優秀な課程博士取得者に対して所長賞を授与し,大学院教育の活性化を促進することにある.発表会当日は,当該年度の博士号・修士号取得者を所が招待する「修了お祝いの会」も実施され,本所における重要な年中行事となっている.