東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第4章 大気海洋研究所の組織と活動

4-3 東日本大震災への対応と復興

4-3-3 震災対応研究航海

東日本大震災による甚大な津波被害と福島第一原子力発電所の事故のため,学術研究船白鳳丸・淡青丸の2010年度の残りの航海は中止を余儀なくされ,白鳳丸は文部科学省の「海域モニタリング計画」に基づき3月22日から27日まで福島沖合で緊急調査を実施した.大気海洋研究所は地震直後の大槌の状況把握,人員の安否確認,緊急の現地支援策の策定に追われつつも,4月初旬に集合可能な教員で臨時会合を開き,地震被害への対応を協議した.そのひとつが学術研究船を用いた震災対応航海である.

学術研究船はボトムアップ型の研究を行う共同利用の船であり,その年間航海計画は,申請の審査および評価に基づき年度当初にはすでに確定している.しかし,全国の研究者も本所の教員と同様に震災への対応を考えているであろうという予測のもと,震災対応航海を組むことが決められた.実施にあたっては,これまでの共同利用の枠組みを変えずに有効な震災対応航海を組むため,以下の手続きが踏まれた.

まず,2011年度に白鳳丸および淡青丸の航海を予定していた主席研究員に対して研究船共同利用運営委員会の研究船運航部会から4月13日にアンケートを送り,震災対応航海枠に提供可能な航海日数はあるか,調査海域に三陸など被災地域を加えられるか,試料採集などで協力が可能かなどを問い合わせた.その結果,多くの研究者から積極的な回答があり,20日間の淡青丸航海日数が震災対応航海用に供出された.これを受けて4月19日に,地震のメカニズム,放射性物質の拡散,津波による生態系撹乱という3つのテーマについて震災対応航海の公募を開始した.2週間という短い公募期間ではあったが,11件の応募があり,運航部会の審査を経て全件採択となった.こうして5月中旬には震災対応航海を含む新しい運航計画が確定した.また,その後も試料採集などで協力の申し出が相次ぎ,試料採集や観測点変更で協力する震災協力航海が9航海245日(淡青丸4航海,白鳳丸5航海)にのぼったほか,アンケート調査で提供された航海日数および研究目的変更により,淡青丸の震災対応航海が6航海計45日間実施された.

ボトムアッププロセスは一般に手続きが煩雑で時間がかかることが多いが,2011年度の件では研究船共同利用運営委員会の委員を含む研究者コミュニティが良心と熱意をもって緊急時に対処したことにより,また海洋研究開発機構海洋工学センター運航管理部の熱心な協力もあり,共同利用のやり方を崩すことなく,震災対応航海が組まれた.このような震災にかかわる一連の研究船運用は淡青丸後継船の建造を後押ししたものと考えられる.