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小型軽量深海カメラ及びAIによる映像解析システムの開発

2025年4月25日

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発表者

芦田 将成 観測研究推進グループ 技術専門職員

成果概要

東京大学大気海洋研究所の芦田将成技術専門職員は、深海調査における映像技術に関連した2つの開発を行った。(1) 小型軽量深海カメラシステムの開発:最大水深7000mの耐圧機能を有したロギング式カメラであり、様々な測器に取り付け、深海調査中の撮影を可能とするものである。本システムは小型低コストで十分な機能と汎用性を有し、当研究所の共同利用機器として登録したことで、全国の研究者が深海映像を取得できるようになった。(2) AIによる映像解析システムの開発:AIを利用した深海映像から特徴的な対象物を効率的に抽出し解析するシステムであり、従来は多大な労力を要していた映像解析を強力に支援することが可能になった。これらの開発は深海調査に貢献することが期待される。

発表内容

【開発の背景】
深海映像の取得は耐圧・光源・コスト等の制約から依然ハードルが高い。この現状に対し、より多くの研究者が深海撮影を行えるよう、小型軽量深海カメラシステムを開発した。さらに、撮影により得られる長大な映像データの解析負担を軽減するため、AIによる映像解析システムも併せて開発した。

【開発内容】
(1) 小型軽量深海カメラシステム
開発したカメラは、アルミ製耐圧容器(5000m/7000m耐圧、重量4-6kg)に市販アクションカメラ、LED用タイマー回路(Arduino等)、リチウム電池を、3Dプリンターによって製造したフレームを用いて組み込んだ構成である。内部機構は安価かつシンプルで、修理・再製作が容易であり、海底曳航時の強い衝撃にも耐える設計とした。光源はエポキシ樹脂で封止したチップ型LEDユニットを用い、電力は耐圧容器から供給する。カメラはMicroSDカードに最長約10時間記録可能で、LEDはタイマー制御により約2.5時間点灯し、任意のタイミングでの点灯開始が可能である。このシステムにより、低コストかつ汎用性の高い深海撮影手段を実現した。

本システムは2022年度より共同利用機器として登録され、マルチプルコアラー(堆積物採取)、岩石ドレッジ(岩石採取)、ビームトロール(底生生物採取)等の各種観測機器や「しんかい6500」に搭載された実績を持つ。海底状況や機器作動状況の撮影に成功しており、現場での有効性が確認されている。

図1 小型軽量深海カメラシステム
(左上)アルミ製耐圧容器(7000m耐圧), (右上)内部機構, (下)光源LED

(2) AIによる映像解析システム
長時間の深海映像解析を効率化するため、AIを用いた映像解析システムを開発した。基盤技術には、精度と速度のバランスに優れ、限られた処理能力のPCでも動作する物体検出AIモデルYOLO(You Only Look Once)を採用した(船上での利用も想定)。標準YOLOは深海特有の物体を検出できないため、本カメラで撮影した映像やJAMSTECの公開画像等を用いて追加学習を行った。「岩」「生物」「砂塵」等を検出対象クラスとし、アノテーションを実施した。データ拡張(反転、輝度変更、ノイズ付与等)により教師データを作成し、モデルの汎化性能向上を図った。

開発したシステムの実証実験として、追加学習済みYOLOモデルを用い、白鳳丸航海で取得した岩石ドレッジ映像(MP4形式)を解析した。解析は汎用ノートPC(Macbook Air M1, 2020)で行った。システムは動画を入力とし、検出物体をバウンディングボックスとラベル付きで表示した動画及び、座標・ラベル情報を記録したテキストファイルを出力する。

実験の結果、「岩石」や「ドレッジ本体」、「チェーン」など学習データが比較的多い対象物は高い精度で自動検出できた。特筆すべき点として、カメラ動揺が大きい不安定な映像においても、対象物を安定して捉えることが可能であり、実環境での堅牢性が示された。

さらに、映像全体を通して各クラス(砂塵、岩石、生物等)の検出面積比率を時系列グラフで表示する機能を実装した。これにより、長時間の映像内容を迅速に把握でき、解析の大幅な効率化に貢献することが確認された。

処理速度については、35分のフルHD動画(30fps)の解析に約48分を要したが、これは特別な計算機なしに実用的な時間で処理可能であることを示す。フレームレートを10fpsに落とせば約18分に短縮でき、目的に応じた柔軟な運用が可能である。これらの結果から、本AIシステムが深海映像からの情報抽出に極めて有効であることが実証された。

図2 AIによる映像解析システムによる解析結果の一例
(上)検出クラス面積比率の時系列変化, (下)矢印時点に対応する映像フレームと検出結果

【まとめ・今後の展望】
本研究では、深海映像の取得と映像解析の双方の課題解決を目指し、小型軽量深海カメラシステムとAI映像解析システムを開発した。カメラは低コスト・簡便・堅牢であり、多様な観測への適用が期待される。AI映像解析システムは、長大な映像から対象物を自動検出し、その時間変化を可視化することで、解析作業を大幅に効率化する可能性を示した。今後は、高画質化、AIの検出精度向上(特に生物クラス)、対応クラス拡充を進め、深海研究のツールとしてさらに発展させる計画である。

表彰

  1. 海洋調査技術学会 第36回研究成果発表会 若手優秀発表賞(2024/11/19)
    受賞題目:AIによる岩石ドレッジ映像の自動解析
    https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/aori_news/information/2024/20241119.html
  2. 日本水路協会 令和6年度 水路技術奨励賞(2025/3/18)
    受賞題目:小型軽量深海カメラ及びAIによる映像解析システムの開発
    https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/aori_news/information/2025/20250318.html

問い合わせ先

芦田 将成(あしだ まさなり)
共同利用・共同研究推進センター 観測研究推進グループ 技術専門職員
ashidaaori.u-tokyo.ac.jp   ※アドレスの「◎」は「@」に変換してください

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