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ウミガメはなぜゆっくり泳ぐのか? 低い代謝速度と抵抗の大きな体型で決まる最適な遊泳速度

2021年2月22日

木下 千尋・佐藤 克文(東京大学大気海洋研究所)

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成果概要

海洋動物は、ある距離を移動するために必要なエネルギーを最小化する遊泳速度、すなわち最適遊泳速度を持っていると考えられています。本研究の対象であるウミガメが巡航遊泳する際の速度は、海鳥や海棲哺乳類に比べて遅いことが報告されていますが、なぜゆっくり泳いでいるのかという疑問は解決できていませんでした。東京大学大気海洋研究所の木下特別研究員らの研究グループは、ウミガメの安静時の代謝速度(注1)と遊泳時の抵抗係数(注2)を測定することで、ウミガメは低い安静時代謝速度と高い抵抗係数に見合ったゆっくりとした速度で遊泳していることを初めて示しました。この成果は、海洋生物における回遊範囲や種内における生活史多型の議論に新たな知見を与えるものだと期待されます。

発表内容

【研究背景】
海洋動物は、移動に要するエネルギーを最小化する遊泳速度(最適遊泳速度)を持っていると考えられています。過去の理論研究により、最適遊泳速度には、安静時の代謝速度と遊泳時の抵抗係数が影響していることが示されるとともに、野生下で巡航遊泳する際の速度は最適遊泳速度に近い値となることが予測されてきました。本研究で対象とするウミガメ類(図1)の巡航遊泳速度(秒速0.5-0.6m)は、海鳥や海棲哺乳類のもの(秒速1-2m)に比べて遅いことが報告されています。これまで、ウミガメ類の遅い巡航遊泳速度は彼らの低い安静時代謝速度に起因すると推察されてきましたが、定量的な解析は行われてきませんでした。また、最適遊泳速度に関係すると考えられている遊泳時の抵抗係数について調べた研究もなく、ウミガメがなぜゆっくり泳いでいるのかという疑問は解決できていませんでした。本研究では、北西太平洋個体群のアカウミガメとアオウミガメにおいて、飼育下での安静時代謝速度と野生下での遊泳時の抵抗係数を測定することで、(1)ウミガメは最適遊泳速度で泳いでいるのか、(2)ウミガメの最適遊泳速度はどのような要因で制御されているのかを検討しました。

【研究内容】
三陸沿岸域の定置網で生きたまま混獲されたアカウミガメとアオウミガメを収集し、形態計測(体重・前面投影面積)を行いました。また、飼育環境下で安静時の代謝速度を測定し、野生下での遊泳データと形態計測の結果を合わせて抵抗係数を推定して個体毎の最適遊泳速度を算出しました。その結果、予測された最適遊泳速度(秒速0.19-0.32m)は測定された巡航遊泳速度(秒速0.27-0.50m)とおおむね一致しており(図2)、ウミガメは最適遊泳速度を選んでいると考えられました。また、体重を同じとした場合(30kg)、ウミガメの安静時の代謝速度はペンギンの20分の1、体の表面に対する抵抗係数はペンギンの8.6倍でした。低い安静時の代謝速度と高い抵抗係数はどちらも最適遊泳速度を下げる方向に働きますが、片方の要因(低い安静時の代謝速度または高い抵抗係数)だけではウミガメの低い最適遊泳速度を説明することはできませんでした(図3)。このことから、ウミガメは最適遊泳速度で“ゆっくり”泳いでおり、低い安静時代謝速度と高い抵抗係数が遅い最適遊泳速度を決定していることが示唆されました。

【意義・展望】
この成果は、外温動物で多くの餌を必要としないウミガメならではの生活様式を表すものであるとともに、海洋生物における回遊範囲や種内における生活史多型の議論に新たな知見を与えるものだと期待されます。

図1 ゆっくり遊泳するアオウミガメ

図2 実測された巡航遊泳速度(色付き棒グラフ)と推定された最適遊泳速度(黒丸)。両者は近い値を示した。

図3 様々な条件における遊泳速度とエネルギーコストの関係(線)と推定された最適遊泳速度(丸)。アカウミガメの最適遊泳速度は、安静時の代謝速度と抵抗係数がペンギン類と同等になることによって、ペンギンの最適遊泳速度に追いつく。

発表雑誌

雑誌名:「Journal of Experimental Biology
論文タイトル:Analysis of why sea turtles swim slowly: a metabolic and mechanical approach
著者:Chihiro Kinoshita*, Takuya Fukuoka, Tomoko Narazaki, Yasuaki Niizuma, Katsufumi Sato
DOI番号:10.1242/jeb.236216
アブストラクトURL:https://jeb.biologists.org/content/224/4/jeb236216このリンクは別ウィンドウで開きます

問い合わせ先

木下 千尋 (海洋生命科学部門: 学術振興会特別研究員)
chihiro.kaori.u-tokyo.ac.jp    ※アドレスの「◎」は「@」に変換してください

用語解説

注1 安静時の代謝速度
生命活動を維持するために必要な最低限の酸素消費速度
注2 抵抗係数
抵抗の大きさに比例する定数で、動物の形態によって変化する

研究トピックス