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ヒマラヤの地震ギャップの謎に迫る ~ネパール最大の湖に記録された1505年以降の巨大地震の痕跡~

2019年6月17日

横山祐典(東京大学大気海洋研究所/東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻・教授)

発表のポイント

◆インドがユーラシアに衝突しヒマラヤ山脈が形成される地域の巨大地震の痕跡を復元
◆古文書解析の困難さや内戦などで記録が残されていない時期の過去の地震について解明
◆本研究の成果は、これまで地震ギャップとして巨大地震が懸念されてきた西部ネパール地域の地震の可能性の検討や地震の再来周期の検討に役立つ

発表概要

東京大学大気海洋研究所の横山祐典教授は、フランス グルノーブル大学およびベルギー ゲント大学らの研究チームとともに、ヒマラヤ山脈のネパール西部の湖の湖底から採取された堆積物試料を分析し、地球物理学モデルにより過去の地震の規模と年代について検討しました。その結果、これまでヒマラヤ地域の地震研究の謎とされていた、巨大地震の空白域と空白年代を表すいわゆる“地震ギャップ”(注1)について、湖の地質に記録が保存されていることを明らかにしました。研究の結果、これまで西暦1505年の巨大地震を最後に、500年間巨大地震が起こっておらず、次回の巨大地震の襲来が危惧されている西部ネパール地域において、マグニチュード6を超える地震が少なくとも5回起こっていたことが明らかになりました。

本研究は、ヒマラヤ地域では初となる湖の堆積物と地球物理学的モデルを組み合わせた過去の地震を詳細に復元するものです。植生などの問題から大規模な断層調査などが難しく、過去に遡って地震の研究を行うことが困難な他の地域の地震記録の復元や防災にも大きく役立つと期待されます。

発表内容

【研究背景】
世界の屋根ともいわれているヒマラヤ山脈は、インド亜大陸が北上しユーラシア大陸にゆっくりと衝突することで形成されています。この衝突が起こっている“前線”が、インドプレートとユーラシアプレートの境界に存在しているのが主ヒマラヤ断層と呼ばれる東西に1,000km以上延びる断層です。2015年4月には、ネパールでマグニチュード7.8のゴルカ地震が発生し、首都カトマンズを含む多くの村で大規模な被害が起こり、8,000人を超える死者を出しました。断層に沿ったこのような地震は度々観測されてきていますが、それらは主に東部に限られ、西部では1505年の地震を最後に、大きな地震が記録されておらず、プレート同士の衝突による歪みが継続的に蓄積されてきていると考えられてきました。つまり500年以上も溜まった歪みが一気に解消されると、大規模な地震に伴う壊滅的な被害を引き起こすと危惧されてきました。

【研究内容】
ヒマラヤ地域での過去の地震の履歴調査には、トレンチ(注2)と呼ばれる大規模な溝の掘削による地層の解読が主な手法とされてきました。しかし研究チームは今回、ネパール最大の湖である西部のララ湖にて湖底堆積物の掘削試料(コア 注3)を使った解析を行いました。ネパールで最も深い湖で水深が100m以上のララ湖では、通常周囲の堆積物がゆっくりと堆積しています。しかし中程度―大規模な地震によって湖周辺に揺れが生じ、浅い水深の堆積物が地滑りを起こすと、水深が深い地点のコアにその記録が残されていると考えたためです。

加速器質量分析を用いて葉や木片、全堆積物など異なるタイプの堆積物を使って高精度に行い、X線CTスキャンや化学分析を行いました。高解像度の放射性炭素年代測定には、日本で唯一の装置であるシングルステージ型加速質量分析装置(東京大学大気海洋研究所所有)を用いました。堆積物に残された通常時には堆積しないような特異な層を認定しました。その結果、過去800年間に少なくとも8回の地すべりの痕跡が残されていることがわかりました。そのうち3回は記録の残っているマグニチュード7以上の地震と対応することも明らかになり、手法の信憑性を確認しました。

それらの情報を使って、どの程度の地震によって地滑りが起こったかを推定したところ、1505年以降にマグニチュード5.6から6.5の規模の地震が5回以上起こっていたことが初めて明らかになりました。このことは、過去500年間、ネパール西部の断層に継続的に歪みが蓄積されているわけではないことを物語ります。

今回の研究で、主ヒマラヤ断層の研究に湖の堆積物コアと高精度の放射性炭素年代測定、それに精密化学分析による地震の履歴研究の有効であることが明らかになり、他の湖の堆積物コアの研究も進めることで更に詳細な断層活動記録を復元できることがわかりました。また、主ヒマラヤ断層西部も中央部や東部と同様に地震の活動が活発であり、いわゆる地震ギャップは、厳しい自然条件やチベットの内戦などでトレンチ調査などによる現地調査が進められなかったために起こっていた現象だったことも明らかになりました。

発表雑誌

雑誌名:「Nature Communications」(2019) 10: 20058
2019年5月21日オンライン出版
論文タイトル:Potentially large post-1505 AD earthquakes in western Nepal revealed by a lake sediment record
著者:Ghazouli, Z., Bertrand, S., Vanneste, K., Yokoyama, Y., Nomade, J., Gajurel, A.P., and van der Beek, P.A.
DOI番号:10.1038/s41467-019-10093-4
アブストラクトURL:https://www.nature.com/articles/s41467-019-10093-4このリンクは別ウィンドウで開きます

問い合わせ先

東京大学大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター
教授 横山 祐典(よこやま ゆうすけ)
E-mail:yokoyamaaori.u-tokyo.ac.jp      ※「◎」は「@」に変換して下さい

用語解説

(注1)地震ギャップ
インドプレートとユーラシアプレートの境界にある主ヒマラヤ断層の東部や中央部では継続的に中規模から大規模の地震が繰り返し起こっていた記録が残っているのに対し、西部については西暦1505年を最後に大規模地震の記録がなく、20年来の謎とされてきたもの。
(注2)トレンチ
断層の調査で、地層の観察のために数メートルから10mの深さでほる溝。
(注3)コア
堆積物に金属のチューブを差し込んで採取する柱状の試料。

添付資料

図1 主ヒマラヤ断層に沿った歴史記録に残っている破壊領域(黄色)とララ湖の位置。

図2 ネパール西部のララ湖(産業技術総合研究所 中村淳路 博士 撮影)

研究トピックス