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ウラン234の半減期を再定義し、地球史・人類史の年代測定に新たな可能性を提示

2025年10月2日

研究成果

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発表者

横山 祐典      海洋底科学部門/先端分析研究推進室 教授/室長
HU, Hsun-Ming     国立台湾大学/海洋底科学部門/先端分析研究推進室 大気海洋研究所外国人研究員
SHEN, Chuan-Chou 国立台湾大学/海洋底科学部門/先端分析研究推進室 教授/客員教授

成果概要

東京大学大気海洋研究所のHu博士、Shen客員教授、横山祐典教授らのグループはウランの分析を極めて高精度で行うことに成功しました。その結果、これまで広く使われていたウラン234の半減期を再定義するに至りました。これにより、ウラン-トリウム年代測定法の適用年代範囲が、これまでの過去60万年間から80万年間に拡大され、地球の気候変動に関する研究と人類学や考古学に関する年代測定の範囲が大きく拡大しました。この成果は2025年10月1日付の米国学術誌「Science Advances」に掲載されました。

発表内容

【研究の背景】
ウラン-トリウム年代測定法(注1)は、ウラン238、ウラン234、トリウム230の3つの放射性同位体比を用いて、気候や環境、考古学や人類学の試料の年代を決定する方法です。1960年代以降、この手法は気候変動、地震や津波などの災害科学などにも広く使われてきており、過去10年ほどから60万年間の年代決定法として重要な手法として知られています。この放射年代の決定方法で重要なポイントは、ウラン234とウラン238という桁違いに存在度の異なる同位体の存在比率を正確に測定することにあります。しかし、その存在度の差が1万分の1と大きく異なるため、精密測定が困難であり、従来の技術では60万年よりも古い試料には適用できませんでした。

【研究内容】
そこで東京大学大気海洋研究所の研究チーム(Hu 博士、Shen客員教授そして横山祐典教授)は、マルチコレクター型の誘導結合プラズマ質量分析装置(MC-ICP-MS)を用いてこの課題に取り組みました。チームはトリウム同位体を用いてウラン238がウラン234に及ぼす同位体干渉について慎重な測定とデータ解析を行いました。その結果、ウラン234と238の分析精度が4倍向上し、±0.008%の精度を達成しました。その手法を用いてウラン234の半減期を再計算した結果、これまでと異なり245,670±260年となり、これまでの報告より50年長かったということを明らかにしました。

【社会的意義】
この結果は年代測定に大きな影響を持ち、例えば50万年前の試料の年代測定結果に数千年のずれを生じさせるというもので、地球の気候変動や人類進化の研究の年代決定に大きな影響をおよばすものです。新手法を用いることで、必要とされる試料量もこれまでの1/5と大幅に低減化され、貴重な考古学や人類学的な標本についてもほぼ非破壊で分析可能となりました。再定義された半減期と改良された分析手法により、過去80万年間の氷期間氷期変動と気候変化についての研究や人類学的な研究について詳細な研究ができるようになります。

図1 鍾乳石を使った年代測定結果の相違。
60万年間は旧来法と今回の手法に大きな変化は認められないが、それより古い年代試料については旧来法では年代測定が困難であった。特に黄色のハッチの部分では、これまでの方法(青色)では誤差が大きく年代測定を行うことができなかったのに対し、新手法(赤)では年代測定古い年代と新しい年代の区別がはっきりできている。

発表雑誌

雑誌名:Science Advances(2025年10月1日)
論文タイトル:Sub-epsilon natural 234U/238U measurements refine the 234U half-life and U-Th geochronology 
著者:Hsun-Ming Hu*, Yusuke Yokoyama, Chuan-Chou Shen et al. 
DOI番号:10.1126/sciadv.adu8117
アブストラクトURL:https://doi.org/10.1126/sciadv.adu8117このリンクは別ウィンドウで開きます

研究助成

本研究の一部は、科研費「奄美沖縄「空白の1万年」問題解明の為の年代高精度化に資する新手法開発と展開(課題番号: 24H00094」「ヒプシサーマル:完新世の気温復元不一致問題に挑む(課題番号: 23KK0013)」とJST CREST「微量高速C-14分析による水圏炭素動態解明手法の開発(課題番号:JPMJCR23J6)」の支援により実施されました。

用語解説

注1 ウラン系列核種年代測定
ウラン系列核種のうち、特に234Uと238Uそれに230Thを使って行う年代決定法。

問い合わせ先

横山 祐典(よこやま ゆうすけ)
海洋底科学部門 教授
yokoyamaaori.u-tokyo.ac.jp   ※アドレスtの「◎」は「@」に変換してください

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