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直感的にDNA配列の種名がわかるウェブツールphyloBARCODERを開発

2024年7月23日

研究成果

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発表者

井上 潤 海洋生命科学部門 准教授
新里 宙也 海洋生命科学部門 准教授
平井 惇也 海洋生態系科学部門 講師
伊藤 幸彦 海洋生物資源部門  准教授
峰岸 有紀 地域連携研究部門  准教授
伊藤 進一 海洋生物資源部門 教授
兵藤 晋 海洋生命科学部門 教授

成果概要

DNA配列の種名を判定するのは容易ではなかった。配列が何%一致しているかだけを頼りにしているうえに他の候補がわからないため、直感的に理解できなかった。東京大学大気海洋研究所の井上潤准教授らは、インターネットを介してDNA配列の種名を誰でも視覚的に判定できるphyloBARCODER (https://github.com/jun-inoue/phyloBARCODERこのリンクは別ウィンドウで開きます)を開発した。phyloBARCODERは系統樹を推定することで、環境DNAなど短いDNA配列の種名を正確に判定し地域集団も浮き彫りにする。分子系統解析を駆使した精度の高い手法は、地史との比較など分野を超えた考察を可能にする。

発表内容

【研究背景・先行研究における問題点】
環境DNA(注1) 解析の登場によって、ある場所にどのような生物がいるのか簡単に調べられるようになった。それは、実際に生物そのものを集めるのではなく、バケツ一杯ほどの水をくんで、そこに含まれている生物由来のDNA配列を調べる技術だ。環境DNA解析は次世代シーケンサー(注2)の登場によって急激に広まり、当初は微生物を対象としていたが、最近は魚類など大きな生物の調査にも適用されるようになった。

様々な種類の遺伝子配列が判定に利用されるようになった今、環境DNA解析は種判定という問題に直面している。これまで種判定は、種名がわかっている配列と何%同じなのかだけで判断していたので、判定が正しいのか曖昧で由来を図示するなど進化的な示唆もなかった。系統樹(注3)による直感的な理解が必要なのは明確であったが、専門家以外には敷居の高い解析であった。

井上は、これまで培ってきた分子系統解析(注4)とウェブツール開発の技術を、phyloBARCODERに組み込んだ(図1)。Version 1は、真核生物のミトコンドリア全遺伝子配列をデータベースとしているが、ユーザー独自のデータベースをアップロードすれば、核ゲノムや葉緑体などタイプの異なる遺伝子配列の解析も可能である。

【研究内容】
種判定を視覚的に示す 
phyloBARCODERの結果は直感的に理解できる。大気海洋研究所 海洋生物資源部門 環境動態グループの余らは、環境DNA解析によって房総沖で得た海水からサバ類を検出し、ネットサンプリングによってその種判定を裏付けた(Yu et al. 2022)(https://doi.org/10.1371/journal.pone.0273670)。余らが発表したDNA配列を解析したところ、phyloBARCODERは彼らの種判定を、系統樹とDNA配列によって視覚的に示した(図2)。これまでの解析ではサバ類3種、マサバ、ゴマサバ、大西洋サバ、の配列に違いがないことが数字だけで曖昧に示されていた。しかし、phyloBARCODERは、魚類の環境DNA解析で良く用いられているDNA配列の部分では区別できないことを明瞭に示した。

産地を特定する 
phyloBARCODERは、DNA配列が採集された場所も特定する。大気海洋研究所 海洋生態系科学部門 浮遊生物グループの平井らは、プランプトンネットによって採集されたMetridia lucensが南半球と北半球の集団に分けられることを分子系統解析によって示した(Hirai et al. 2022)(https://doi.org/10.1093/plankt/fbac020このリンクは別ウィンドウで開きます)。平井らが得た配列を産地が不明な配列と仮定して、北半球データベース(MetaZooGene)の配列とともにアップロードしてphyloBARCODERで解析した(図3)。するとphyloBARCODERは、南半球と北半球に属するDNA配列を明瞭に区別した。

【社会的意義・今後の予定】
phyloBARCODERは、系統樹を作成する技術に慣れていない人でもネットを介して利用できる。DNA 断片の種や産地が正確に判別されるので、単に種の分布を記述するだけでなく、大陸分離との比較など研究分野を超えた考察が可能になる。

本研究は、大気海洋研究所 附属共同利用・共同研究推進センター オープンサイエンス推進室 (https://opensci.aori.u-tokyo.ac.jpこのリンクは別ウィンドウで開きます) およびオーシャンDNAプロジェクトの支援を受けた。

発表雑誌

雑誌名:Molecular Biology and Evolution(2024 年6 月8 日)
論文タイトル:phyloBARCODER: A web tool for phylogenetic classification of eukaryote metabarcodes using custom reference databases
著者名:Jun Inoue*, Chuya Shinzato, Junya Hirai, Sachihiko Itoh, Yuki Minegishi, Shin-ichi Ito, and Susumu Hyodo
DOI:10.1093/molbev/msae111
URL:https://doi.org/10.1093/molbev/msae111このリンクは別ウィンドウで開きます

用語解説

注1 環境DNA
環境中に存在するDNA断片。様々な生物の糞や体表粘液等に由来する。
注2 次世代シーケンサー
大量の DNA 配列を高速で解読する装置。
注3 系統樹
生物や遺伝子が進化してきた道筋を図示したもの。すべての生物は共通の祖先から進化した、という仮説に基づく。
注4 分子系統解析
アミノ酸配列や DNA 配列を比較して、遺伝子または生物の系統樹を推定する解析。

問い合わせ先

井上 潤
海洋生命科学部門 准教授
jinoueaori.u-tokyo.ac.jp    ※「◎」は「@」に変換してください

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