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令和6年能登半島地震によって形成された海底の段差を撮影

2024年3月21日

東京大学大気海洋研究所
海洋研究開発機構
富山大学
九州大学
東京大学地震研究所
金沢大学
新潟大学
神戸大学
高知大学
琉球大学
中央大学
鳴門教育大学
産業技術総合研究所

発表者

山口飛鳥 東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門 准教授
福地里菜 鳴門教育大学 大学院学校教育研究科 講師
小野誠太郎 東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門 修士課程
大塚宏徳 神戸大学 海洋底探査センター 特命助教
吉岡純平 東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門 博士課程
田村千織 東京大学大気海洋研究所 共同利用・共同研究推進室 技術専門員
亀尾 桂 東京大学大気海洋研究所 共同利用・共同研究推進室 技術専門職員
沖野郷子 東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門 教授
朴 進午 東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門 准教授
KH-24-E1航海乗船研究者一同

発表内容

東京大学大気海洋研究所、海洋研究開発機構、富山大学、九州大学、東京大学地震研究所、金沢大学、新潟大学、神戸大学、高知大学、琉球大学、中央大学、鳴門教育大学、産業技術総合研究所からなる研究チームは、令和6年能登半島地震の発生を受けて、令和6年3月4日より学術研究船「白鳳丸」を用いた共同利用研究航海を実施しました。航海では、令和6年能登半島地震発生域の高分解能反射法地震探査、地震発生域周辺の採水・採泥調査、地震に伴う海底面変形のカメラ撮影などを行いました。能登半島北部沿岸の2か所(図1:珠洲岬北西沖の撮影点、輪島北西沖)において、令和6年能登半島地震に伴って形成された可能性のある海底の段差を、水中ドローン(注1)を用いて令和6年3月11日に撮影しました。

図1 能登半島周辺の海底地形図と、白鳳丸による緊急調査航海における水中ドローンによる調査点(NT-1: 珠洲岬北西沖、NW-1: 輪島北西沖)。

珠洲岬北西沖の調査点NT-1付近(図2, 北緯37°33.2’、東経137°15.2’、水深73 m)で見つかった段差(動画1, 図3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10)は、海底に露出する岩盤(砂泥質の堆積岩)中に発見され、北東-南西方向に20 m以上にわたって直線的に伸びています。発見された場所は、産業技術総合研究所による反射法探査(井上・岡村, 2010このリンクは別ウィンドウで開きます)から推定された海底活断層(珠洲沖セグメント)よりも南東側に位置しています。段差の比高は1 m未満とみられ、北西側が高く、多くの部分で段差の上部が下部よりも張り出しており、段差沿いには段差からの崩落物も認められます。段差の壁面および崩落物の破断面は風化を受けておらず、藻や底生生物がまったく付着していないことから、この段差は最近数か月以内に形成されたものであり、令和6年能登半島地震に関連する逆断層すべりによって形成された地表地震断層である可能性が高いと考えられます。なお、能登半島北部における本震の断層すべりとは逆に北西側が隆起していること、既存の海底活断層(珠洲沖セグメント)よりも南東側に位置していることから、この断層は本震の断層すべりに伴って形成された副次的な逆断層群のうちの1つであると考えられます。

図2 珠洲岬北西沖の調査点NT-1における海底の段差の位置(黒四角で囲った範囲内)。

図3 珠洲岬北西沖の調査点NT-1における海底の段差を斜め上から見た画像(動画1より切り出し)。壁面に藻や底生生物が付着していないことから、この段差は最近数か月以内に形成されたものと考えられる。

図4 珠洲岬北西沖の調査点NT-1における海底の段差を斜め上から見た画像(動画1より切り出し)。平行な2段の段差が見られる。

図5 珠洲岬北西沖の調査点NT-1における海底の段差を斜め上から見た画像(動画1より切り出し)。段差の上部が張り出しており、段差沿いに崩落物が見られる。

図6 珠洲岬北西沖の調査点NT-1における海底の段差を斜め上から見た画像(動画1より切り出し)。段差沿いに複数の崩落物が見られる。

図7 珠洲岬北西沖の調査点NT-1における海底の段差を斜め上から見た画像(動画1より切り出し)。直線的な段差は上側が張り出しており、段差の壁面には生物の付着が見られない。

図8 珠洲岬北西沖の調査点NT-1における海底の段差を斜め上から見た画像(動画1より切り出し)。段差沿いに崩落物が見られる。

図9 珠洲岬北西沖の調査点NT-1における海底の段差を斜め上から見た画像(動画1より切り出し)。段差沿いに崩落物が見られる。

図10 珠洲岬北西沖の調査点NT-1における海底の段差を斜め上から見た画像(動画1より切り出し)。段差沿いに崩落物が見られる。

動画1 珠洲岬北西沖の調査点NT-1における海底の段差
https://youtu.be/Y5K6H9RkXEQこのリンクは別ウィンドウで開きます

輪島北西沖の調査点NW-1付近(図11, 北緯37°24.6’、東経136°48.0’、水深88 m)で見つかった段差(動画2, 図12)は、東北東-西南西方向に伸びていることが海底地形調査から確認されており、産業技術総合研究所による反射法探査(井上・岡村, 2010)から推定された海底活断層(猿山沖セグメント)の海底トレース上にあります。段差の比高は1 m未満で、北側が深く南側が浅くなっています。段差の表面には礫や貝殻片などが露出しており、周囲の海底の表面に広く見られる褐色の被膜が乱されていることから、ごく最近に擾乱を受けたと推定されます。これらの産状と段差の位置とを考慮すると、この段差は断層変位に伴う撓曲(とうきょく)崖(注2)であり、令和6年能登半島地震に関連する断層の変位で表面が崩壊した可能性があります。

図11 輪島北西沖の調査点NW-1における海底の段差の位置(黒円で囲った範囲内)。

図12 輪島北西沖の調査点NW-1における段差を正面から見た画像(動画2より切り出し)。段差の表面には礫や貝殻が露出しており、また海底表面の他の場所に見られる褐色の被膜が乱されている。

動画2 輪島北西沖の調査点NW-1における海底の段差
https://youtu.be/Cn4XAOhekn8このリンクは別ウィンドウで開きます

今回水中ドローンによる調査を行った3か所のうち2か所で、令和6年能登半島地震によるものである可能性のある海底面の段差が見つかったことは、能登半島北部沿岸の広い範囲において、地震時の断層すべりが海底面に達したことを示唆します。今後、取得された映像を詳細に検討し、地球物理探査とも併せて解析を行うことで、能登半島地震に伴う断層すべりが海底面に与える影響について評価していきたいと考えています。また、輪島北西沖の段差の近傍ではピストンコアラー・マルチプルコアラーによる堆積物採取を行っており、これらの試料の堆積学的・地球化学的解析を行うことで、地層に残された堆積物の移動履歴・過去の地震履歴や、今回の地震に伴う地下深部からの流体の流出が明らかになると期待されます。

〇関連情報:
井上卓彦・岡村行信,2010,能登半島北部周辺20万分の1海域地質図及び説明書,海陸シームレス地質情報集,「能登半島北部沿岸域」,数値地質図S-1,地質調査総合センター,https://www.gsj.jp/data/coastal-geology/GSJ_DGM_S1_2010_01_b_sim.pdfこのリンクは別ウィンドウで開きます
岡村行信,2019,日本海における活断層の分布と今後の課題,地震第2輯,71,185-199.

2024年3月1日付プレスリリース:令和6年能登半島地震に伴う学術研究船「白鳳丸」 緊急調査航海(第三次)の実施について ―共同利用研究航海:地震発生域の海洋地球科学総合調査―
https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2024/20240301.html

用語解説

(注1)水中ドローン
水中に潜航して撮影などの作業を行う水中ロボットの一種であり、有線で遠隔操縦を行うROV(Remotely Operated Vehicle)の中でも人間の手により持ち運びが可能なもの。
(注2)撓曲崖
撓曲によりできた崖。地下にある断層のすべりにより、地表近くの柔らかい堆積物がたわむ現象のことを撓曲と呼ぶ。

問合せ先

東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門
准教授 山口 飛鳥(やまぐち あすか)
E-mail:asukaaori.u-tokyo.ac.jp
※「◎」は「@」に変換してください

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