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台風発生数の変動要因:台風の種の発生数と台風への生存率の気候特性

2021年12月8日

PDFファイル(3338KB) 

発表者

池端 耕輔(海洋物理学部門/理学系研究科 地球惑星科学専攻 修士課程(研究当時))
佐藤 正樹(海洋物理学部門 教授)

成果概要

台風発生数の変動は大気海洋の環境場と関係していることが知られています。台風活動の将来変化については台風の種(注1)と呼ばれる弱い渦の役割が議論されていますが、現在気候における台風の種の挙動は不明瞭でした。本研究では過去19年間の大気の再解析データと台風観測データを用いて、台風の種の発生数と生存率(注2)を解析しました。その結果、台風の種の生存率が台風発生数の年々変動や水平分布を特徴付ける重要因子であることを示しました。このことは、環境場が台風の種の生存率を介して台風発生数に影響することを示唆します。本研究の成果は台風発生数が決まるメカニズムの理解につながり、台風発生数の将来予測の精緻化に貢献することが期待されます。

発表内容

1. 研究の背景

台風発生数が決まるメカニズムの理解は、台風活動の変動や将来変化を議論する上で不可欠です。台風発生数の変動は大気海洋の環境場と関係していることが知られており、環境場から算出した台風の発生可能性インデックスGPI(注3)と呼ばれる台風発生数の指標が複数提案されています。しかしこのようなGPIは現在の気候状態における台風発生数に即して定められたものであり、これを将来の気候における台風発生の予測に適用できるかどうかは不明瞭です。台風発生数を理解するためには、台風の発生過程に立ち戻って「台風の種」の役割を議論する必要があります。台風発生数は、台風より弱い対流圏下層の渦「台風の種」の発生数と、そのうち台風まで発達した割合「生存率」の積と見なすことができます。従来の研究では、台風発生数の将来変化(注4)は台風の種の発生数によって規定されると指摘されていましたが、現在気候において台風の種の発生数と生存率が台風発生数に与える影響は十分に評価されていませんでした。

2. 研究内容

本研究では2000年から2018年の夏季(7~10月)北半球を対象に、大気の再解析データERA5と台風観測データIBTrACSを用いて台風の種の発生数と生存率を解析しました。再解析データから抽出、追跡した対流圏下層の弱い渦を台風の種と定義し、台風観測データと照合することで海域や時期ごとに台風の種の生存率を算出しました。台風の種の周辺における大気海洋の環境場についても同時に解析しました。

解析期間における台風の種の発生数の水平分布を見ると(図1)、台風はいずれの海域においても台風の種より狭い領域で発生しています。各分布の相関を調べたところ、台風発生数は台風の種の発生数と生存率の双方と類似するものの、生存率の分布との関係がより明瞭であることが分かりました。次に台風の種の発生数の年々変動を調べたところ、全ての海域において台風発生数が生存率と強い相関をもつことが分かりました(図2)。以上の結果は、台風発生数の決定において台風の種の発生数と比べて生存率が相対的に重要であることを示しています。さらに台風発生と関連のある様々な環境場と生存率の関係を統計的に解析したところ、環境場が生存率の変化と密接に関係することが分かりました。この結果は、環境場が生存率を介して台風発生数を左右することを示唆します。

図1 2000年から2018年の夏季(7~10月)北半球における (a)台風の種の発生数、(b)台風発生数、(c)生存率 の平均的な水平分布。(発表論文の図1より)

図2 2000年から2018年の夏季(7~10月)北半球における (a)台風の種の発生数、(b)台風発生数、(c)生存率 の年々変動。海域区分は図1(c)の通りで、北西太平洋(青)、北東太平洋(緑)、北大西洋(赤)、北インド洋(黄)。(発表論文の図2より)

3. 社会的意義・今後の予定

本研究では、台風の種の生存率が台風発生数の年々変動や水平分布を特徴付ける重要因子であることを明らかにしました。また大気海洋の環境場と台風発生数の関係について新たに、環境場が台風の種の生存率を介して台風発生数を左右することを示唆しました。今回の手法を台風の発生パターンごとに適用することで、台風の種の発生数と生存率の気候特性が更に明確になると考えられます。本研究の成果は台風発生数が決まるメカニズムの理解につながり、台風発生数の将来予測の精緻化に貢献することが期待されます。

発表雑誌

雑誌名:「Geophysical Research Letters」Vol. 48, e2021GL093626(2021年9月16日付)
論文タイトル:Climatology of Tropical Cyclone Seed Frequency and Survival Rate in Tropical Cyclones
著者:Kohsuke Ikehata, Masaki Satoh*
DOI番号:10.1029/2021GL093626
論文URL:https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2021GL093626このリンクは別ウィンドウで開きます
英文の解説記事:https://eos.org/research-spotlights/cyclone-seed-survival-affects-hurricane-season-intensityこのリンクは別ウィンドウで開きます

問い合わせ先

佐藤 正樹
海洋物理学部門 教授
satohaori.u-tokyo.ac.jp   ※「◎」は「@」に変換してください

用語解説

注1:台風の種
台風よりも弱い渦を台風の種と呼び、その一部は台風へ発達する。本研究では、高度1500m付近の渦度(渦の強さを表す物理量)を用いて台風の種を抽出した。
注2:生存率
ある領域や期間において発生した台風の種のうち、台風の強さ(地表の最大風速が17.4 m/s 以上)まで発達した数の割合を生存率と呼ぶ。
注3:GPI
GPI (Genesis Potential Index) は台風の発生可能性を表す指標であり、大気海洋の環境場を表す物理量を用いて計算する。注目する環境場や計算方法の違いによって様々なGPIが提案されている。
注4:台風発生数の将来変化
地球温暖化を想定した気候モデルによる研究では、地球全体での台風発生数は減少し、非常に強い台風の発生数が増加するとされている。しかしその理由は十分に理解されておらず、気候モデルによる予測の不確実性は依然として大きい。

研究トピックス