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深部起源揮発性元素の放出と東南チベット高原の拡大メカニズム

2021年7月12日

天津大学
中国科学院
ウズホール海洋研究所
東京大学
高知大学
アイスランド大学
国立台湾大学

発表のポイント

◆東南チベット高原の湧水の揮発性元素の同位体組成を分析して、世界で初めてマントル起源のヘリウムの存在を明らかにした。
◆ヘリウム同位体比の地理的分布は東南チベット高原の東西方向の拡大と局所的な隆起に関連し、造山運動に関わることがわかった。
◆揮発性元素同位体組成を地球物理学的、地質学的情報と組み合わせることで、マントルにまで達する断層や物質の動きを明らかにすることが可能になる。

発表者

張 茂亮(東京大学大気海洋研究所 博士研究員、研究当時:天津大学表層地球系統科学院 准教授)
郭 正府(中国科学院地質学地球物理学研究所 教授)
徐 勝(天津大学表層地球系統科学院 教授)
Peter Barry(ウズホール海洋研究所 研究員)
佐野 有司(高知大学海洋コア総合研究センター 特任教授・センター長、天津大学表層地球系統科学院 名誉教授、研究当時:東京大学大気海洋研究所 教授)
Sæmundur Halldórsson(アイスランド大学地球科学科 教授)
陳 艾荻(国立台湾大学地質科学研究科 博士研究員、研究当時:東京大学大気海洋研究所 博士課程大学院学生)
劉 丛強(天津大学表層地球系統科学院 教授・院長)
他の研究者8名

発表概要

大規模な造山帯の成長は、一連の地質学的プロセスによって制御されている。しかし、どのようなメカニズムで造山帯が成長するのか、また、どのくらいの深さに造山運動の底部があるのか、依然として不明な点が多い。本研究では、火山‐地熱系のヘリウム-炭素-窒素同位体システマティクスを用いて、チベット高原東南部にはマントルに達する深い断層系が存在することを明らかにした。この断層系では、過去に複数段階の造山運動が起こり、現在も継続している。ヘリウム同位体比は、チベット高原の横方向の拡大と局所的な地表の隆起に、マントルに達するスケールの力学が関与していることを示す明確な証拠となる。また、ヘリウム同位体比とひずみ速度の間には、インドとアジアの衝突によって起きる地殻変動の走向に沿った関係がある。これは衝突の地質学的帰結としてチベット高原の南東方向の成長を調整し、造山帯の境界と内部の間のひずみの不均一な分布を示唆している。本研究の結果は、地球深部に起源をもつ揮発性元素が、造山帯の成長に関わる深部のダイナミックなプロセスを制約するために利用できることを示している。

発表内容

(1)背景
造山帯にある大規模な高原(以下、本文ではプラトーと呼ぶ)は、地質学的な時間スケールで、表面の隆起と横方向への拡大が繰り返されることが特徴である。これまでの研究では、プレートの収束という観点から、プラトーがどのようにして現在の高さや大きさになったのかを、地球物理 や地質学の手法で調べてきた。一方、地球深部に存在する揮発性物質(ヘリウム(注1)、炭素、窒素などで、以後He-C-Nと略する)が、プラトーの浅い火山‐地熱系を介して大気へと放出されるプロセスの地球化学的研究はほとんど行われていなかった。

東南チベット高原(SETP)は、大陸衝突型の造山帯プラトーであり、過去に複数の上昇・下降の段階を経験しており、最新の段階は現在も進行中である(図1)。深部からの揮発性物質の放出とプラトーの成長ダイナミクスとの関連性を明らかにすることを目的として、SETPと隣接する中国四川盆地から放出される流体を系統的に採取し、He-C-Nの地球化学的特性を研究した。調査地域内の自然温泉や掘削井戸から遊離ガスと温泉水のサンプルを採取した。実験室でサンプルのヘリウム(3He/4He)、炭素(δ13C)、窒素(δ15N)の同位体組成と揮発性元素の化学組成を分析した。このデータを文献データと組み合わせて、SETPのプラトー成長のダイナミクスと地球化学パラメータとの関係を評価した。

(2)結果と考察
図1に示す調査地域内の51箇所から91の遊離ガスと温泉水のサンプルを採取した。実験室でサンプルの3He/4He、δ13C、δ15N、および気体化学組成について分析した。このデータを文献データと組み合わせて、SETPのプラトー成長のダイナミクスと地球化学パラメータとの関係を評価した。

ヘリウム同位体比(3He/4He)は地下から供給された流体の起源(マントルと地殻という2つの端成分)を調べるための強力なトレーサーである。マントル起源ヘリウムの寄与はいくつかの活断層帯や第四紀の火山地帯で大きくなっている。図2はその地理的分布を示したもので、インド-アジア境界線(IACB:図1の青い破線)から試料採取点までの距離とヘリウム同位体比を対数にして表している。図2Aは図1の上部にある3つの断層帯(TRF、LTF、XSHF)と四川盆地(SB)に注目した。マントル起源ヘリウムの寄与は断層帯が北東に向かって系統的に大きくなり、テクトニックに安定した四川盆地(SB)で非常に小さくなる。図2Bは図1の下部にある2つの火山地帯(TCV、SMV)と1つの断層帯(AXF)に注目した。第四紀火山から約50km以内の地点(TCVとSMV)を除くと、マントル起源ヘリウムの寄与は低くなっている。詳しく見ると、図1の中央下部にあるBF & RRFでは中央部のAXFより相対的に大きなマントルの寄与が見られる。AXFはSBとともに長江クラトン(注2)を構成し、ほとんど地殻起源のヘリウムが流体の組成を支配している。

ヘリウムと同じ気体試料の二酸化炭素の炭素同位体比(δ13C値)を測定した。その結果、活断層帯(TRF、LTF、XSHFなど)や第四紀火山地帯(TCV、SMV)では比較的高いδ13C値を示すが、長江クラトン(AXF、SB)では低い値を示す(図2C、D)。全般的な傾向はヘリウム同位体比と一致する。一方、窒素同位体比(δ15N値)では、テクトニクスと関連した単純で、系統的な変動は見られなかった。

マントル起源のヘリウムが地表で観測されるためには、次のプロセスが報告されている。1)火山下の地殻を浮力で上昇するマグマがキャリアーとなるケース、2)マントルまで達する深い活断層を流体が圧力低下に沿って上昇するケース、の2つである。図3Aは測地観測で得られたひずみ率の分布である。プラトー境界域の2つの断層帯(XSHFとAXF)で高いひずみ率が観測された。一方、プラトー内部ではひずみ率は低い。図3Bはケース1)に対応する火山地帯(TCV、SMV)を除いたデータについて、ひずみ率とヘリウム同位体比の関係を示した。両者には明らかな正の相関がある。図3Cはひずみ率とIACBからの距離との関係を示した。ここでも正の相関がある。これらの特徴はインドプレートの東北方向の動き(インド・アジア収束の方向)とよく一致する。すなわち、プレート収束によって駆動される応力の分布がマントル起源のヘリウムの断層を通じた放出を規定している可能性が高い。特に、XSHF断層帯の屈曲部であるKangding-Moxi地域(図1中央上部)では、高いヘリウム同位体比、ひずみ率、急速な地表の隆起が観測されており、現在進行しているプラトー成長を支配するひずみ場の「スナップショット」を提示している可能性が高い。このように、揮発性元素の地球化学はプラトーのダイナミクスやひずみ率の分布を考察する上で重要な要素である。今回、明らかとなったチベット高原断層帯でのマントル起源ヘリウム発見は、この地域の地震発生に大きく関わっている可能性がある。したがって、定期的にヘリウム同位体観測を行うことで、被害を起こす巨大地震を数年から数ヶ月程度の発生予測の実現に大きく貢献できる可能性がある。

発表雑誌

雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Linking deeply-sourced volatile emissions to plateau growth dynamics in southeastern Tibetan Plateau
著者:Zhang, M., Guo, Z., Xu, S., Barry, P.H., Sano, Y., Zhang, L., Halldórsson, S.A., Chen, A.-T., Cheng, Z., Liu, C.-Q., Li, S.-L., Lang, Y.-C., Zheng, G., Li, Z., Li, L., Li, Y.
DOI番号:10.1038/s41467-021-24415-y

問い合わせ先

英語:
東京大学大気海洋研究所 海洋化学部門
張 茂亮
E-mail:mzhangaori.u-tokyo.ac.jp   ※「◎」は「@」に変換してください

日本語:
高知大学 海洋コア総合研究センター
佐野 有司
E-mail:yuji.sanokochi-u.ac.jp

用語解説

注1:ヘリウム
希ガス元素の一つで、その同位体比は表層とマントルの物質で大きく異なる。これを利用してヘリウムの起源を調べることができる。
注2:クラトン
大陸地殻の古く安定した部分。安定陸塊とも呼ばれる。

添付資料

図1. 東南チベット高原のテクトニクスとヘリウム同位体比の分布。分析した試料の採取点は三河断層(TRF)、里塘断層(LTF)、仙水河断層(XSHF)、安寧河-小江断層(AXF)、本棚断層・紅河断層(BF & RRF)、腾冲火山(TCV)、司馬尾火山(SMV)、四川盆地(SB)である。IACBはインドとアジアの境界線である。

図2. ヘリウムおよび炭素同位体比のIACB(インド・アジア境界線)からの距離に対する変動。ヘリウム同位体比は大気の値の倍数、炭素同位体比は国際標準VPDBの13C/12C比からの変異を千分率で表す。

図3. A:東南チベット高原におけるひずみの分布、B:ひずみとヘリウム同位体比の関係、C:ひずみとIACB(インド・アジア境界線からの距離)の関係

研究トピックス