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ウミガメの体を傷つけない心拍数計測法の開発に成功

2021年6月24日

坂本 健太郎(行動生態計測分野)
石原 孝(日本ウミガメ協議会)
佐藤 克文(行動生態計測分野)

PDFファイルPDFファイル(760KB)

成果概要

ウミガメの体は硬い甲羅に覆われており、心電図や心拍数を計測するためには、甲羅に穴を開けて、装置を体の中に埋め込む必要がありました。東京大学大気海洋研究所の坂本健太郎准教授らの研究グループは、特殊な電極と微弱な電気信号の分析法を新たに開発することで、甲羅の表面に小型の装置を取り付けるだけで、ウミガメの心拍数を計測することに成功しました。この新しい方法は、ウミガメの生理や行動の解明につながるだけでなく、絶滅が危惧されているウミガメの保全にも貢献することが期待されます。

発表内容

1. 研究の背景
体の状態を知る方法として、心電図や心拍数の計測は広く用いられています。特に、自然環境下で自由に行動する動物から心電図を計測することは、対象動物の健康状態を知るだけでなく、生理状態と行動の因果関係を明らかにするうえでも重要です。ただし、体表面で検知される心電信号は、海水中では消失してしまうため、海洋に生息する動物の心電図を水中で計測することは困難でした。これまでにも、海を泳ぐ魚やウミガメの心電図や心拍数を計測した研究はありますが、これらの研究では外科手術によって心電図計測装置を体内に埋め込む必要があったのです。特に、ウミガメは体が硬い甲羅で覆われているため外科手術は容易ではなく、また甲羅に穴を開けてしまうと治癒にも時間がかかります。ウミガメには絶滅が危惧されている種もいるので、そういった点からも、体に傷をつけなければ健康状態を知ることが出来ないという現状は好ましくありません。そこで、本研究では、ウミガメの体を傷つけることなく、自由に行動するウミガメの心拍数を計測する方法の開発に取り組みました。

2. 研究内容
本研究では、ウミガメの背中の甲羅越しに心電信号を検知し、心拍数を計測するシステムを開発しました(図1)。さらに、このシステムを用いることで、水中を自由に遊泳するウミガメの心拍数を計測することに成功しました。今回、新たに開発したのは(1)甲羅の表面に現れる微弱な心電信号を検知する特殊な心電図計測電極、(2)ノイズの多い心電信号から心拍数を分析するコンピュータアルゴリズム、(3)アルゴリズムを実装したユーザーフレンドリーなソフトウェアの3点です。心電図計測電極の構造は、ウミガメの甲羅に貼りつけることが出来る特殊な導電性シートと、そのシートを海水から絶縁する絶縁性カバーから構成されています。この電極で検知された心電信号はウミガメの甲羅に装着した防水耐圧性の心電図記録計(重さ60グラム)に記録されます。甲羅越しに検知した心電信号は、非常に微弱であり、また動物が動いている時には筋肉由来のノイズが生じてしまいます。そこで、微弱な心電信号からノイズを除去して心臓の拍動を検出するために、バンドパスフィルタ(注1)を応用したコンピュータアルゴリズムを新規に開発しました。さらに、このアルゴリズムを実装したソフトウェア(ECGtoHR)を開発し、グラフィカルユーザーインターフェースを操作するだけで心拍数の分析が可能となる環境を構築しました。このソフトウェアは次のリンクから無料でダウンロードすることが出来ます(https://sites.google.com/site/kqsakamoto/ecgtohrこのリンクは別ウィンドウで開きます)。また、ウミガメに心電図計測装置を取り付ける様子と、心電信号から心拍数を分析する様子を撮影した動画は、次のリンクで公開しています(https://doi.org/10.6084/m9.figshare.c.5429381このリンクは別ウィンドウで開きます)。

この新しい方法の有効性を複数のウミガメ種で検証したところ、タイマイとアオウミガメでは心拍数を計測することが出来なかったものの、アカウミガメ、クロウミガメ、ヒメウミガメでは心拍数を計測できることが分かりました。ウミガメの心拍数は、水中で休息していた時には6.2±1.9回/分であり、呼吸の時に水面に浮上した時には14.0±2.4回/分でした(図2)。

3. 社会的意義・今後の展望
本研究で確立した方法を用いることで、動物への負荷を大幅に軽減したかたちで心拍数を計測することが可能になりました。また、この新しい方法の利点は計測が簡便であるということです。誰でも簡単にウミガメの心拍数を計測することが出来るようになったことから、今後、ウミガメの生理状態や行動、生態の研究が大きく加速すると考えられます。さらに、これらの研究の進展によって、絶滅が危惧されているウミガメの保全にも貢献することが期待されます。

また、本研究で開発したコンピュータアルゴリズムは、ウミガメ以外の動物の心拍数分析にも有効であると考えられます。本研究の成果を応用することで、これまでは困難であった海洋動物の心拍数計測が従来よりも簡便となり、多様な海洋動物の自然環境下での生理機能の理解に貢献することが期待されます。

図1.心電図計測装置を装着したアカウミガメ。二つの電極の間の電位差を計測することで心電信号を検知します。検知された信号は心電図記録計に記録します。

図2.海を泳いでいるヒメウミガメから記録された心拍数、深度、加速度記録。3日間分の記録(上)と拡大図(下)。ウミガメは大半の時間、海底で休息していました。3日間にわたる最大深度のゆっくりとした変化は潮の満ち引きによるものです。加速度は、体の動きを表しており、ウミガメが泳ぐと加速度信号が上下に動きます。

発表雑誌

雑誌名:「Philosophical Transactions of the Royal Society B」Volume 376, Issue 1830

論文タイトル:A non-invasive system to measure heart rate in hard-shelled sea turtles: potential for field applications
著者:Kentaro Q. Sakamoto*, Masaru Miyayama, Chihiro Kinoshita, Takuya Fukuoka, Takashi Ishihara, Katsufumi Sato

DOI番号:DOI:10.1098/rstb.2020.0222
アブストラクトURL:https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rstb.2020.0222このリンクは別ウィンドウで開きます

問い合わせ先

坂本 健太郎
kqsakamotog.ecc.u-tokyo.ac.jp   ※「◎」は「@」に変換してください

用語解説

注1. バンドパスフィルタ
特定の周波数帯の信号だけを抽出する手法

研究トピックス