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全天球カメラが海洋動物の水中での生活を明らかに―海の中で休憩するザトウクジラ―

2021年4月7日

岩田 高志(神戸大学大学院、研究当時:海洋生命科学部門)
Martin Biuw(Institute of Marine Research)
青木 かがり(東京大学大気海洋研究所)
Patrick. J.O. Miller(University of St. Andrews)
佐藤 克文(東京大学大気海洋研究所)

PDFファイルPDFファイル(861KB) 

成果概要

近年、野生動物にカメラを装着してその生態を調べる手法が使われている。しかし、これまで動物装着用に使われているカメラには画角が狭く、画角の外の重要な情報を見落とすという問題があった。そこで、神戸大学大学院の岩田高志助教・東京大学大気海洋研究所の佐藤克文教授らの研究グループは、ザトウクジラの水中での生態を理解するために、新たに開発された全天球カメラの装着を試みた。ザトウクジラに装着した全天球カメラの映像から、水中で休息している他のクジラの姿を捉えることに初めて成功した。今後、観察することの難しい野生動物の生態を正しく理解するためにも、全天球カメラの活躍が期待される。

発表内容

1. 研究の背景・先行研究における問題点
近年では、バイオロギング(biologging)と呼ばれる、動物に装置を取り付けその行動や周囲の環境情報を記録する手法を使って、観察が難しい海洋動物の生態に関する研究が進められている。特にカメラは、装着個体の周辺環境を視覚化できるため、動物の行動を理解するための強力なツールとなっている。しかし、動物装着用に使われているカメラには、画角が狭く、画角の外の重要な情報を見落とすという問題があった。そのため動物の生態を正しく理解するためにも、広範囲を撮影できるような広角レンズを持つカメラが必要とされていた。

本研究の対象動物であるザトウクジラは世界中に分布するヒゲクジラ類の1種である(図1)。バイオロギング手法を用いることで、ザトウクジラの採餌行動に関する知見は増えている一方で、休息行動に関する知見はほとんど集まっていない。休息は動物にとって必須のものであるが、野生動物に関する知見は非常に限られたものしか無い。そこで本研究では、動物装着型の全天球ビデオカメラ(空中画角360度、水中画角270度)と行動記録計を用いて、ザトウクジラの休息行動の解明に取り組んだ。

2. 研究内容
今回、リコー社より全天球カメラTHETAを分解し改造が可能な状態で提供を受け、それをエポキシ包埋し、耐圧防水加工を施すことで、これまでに無い動物装着型の全天球カメラを開発した。記録計一式をクジラに装着するために、全天球カメラ、行動記録計、電波発信機、浮力材、吸盤が一体となった「タグ」を作成した。

野外調査はノルウェーのトロムソ沿岸のフィヨルドで2016年1月に実施した。クジラにタグを吸盤で装着し(https://www.youtube.com/watch?v=oCESDySblqMこのリンクは別ウィンドウで開きます)、数時間後に自然に脱落したタグを発信機の電波を頼りに回収した(図1)。

1個体から、約1時間のビデオデータと約11時間の行動データが得られた。行動データの記録期間の前半には活発な動きはなく、後半は活発に動いていたことが示された(図2)。過去の研究例から、後半に見られる活発な動きは採餌であることが示唆された。ビデオの記録は行動データの記録期間の前半の一部で、激しい動きがない期間のデータとなった。その期間のタグ装着個体の平均潜水深度は11メートル、平均遊泳速度は毎秒0.75メートルだった。ザトウクジラの通常の遊泳速度(巡航速度)は、秒速1.45メートルと報告されていることから、この期間のタグ装着個体の遊泳速度が遅いことが示された。クジラは通常尾ビレを動かして遊泳するが、ビデオ記録期間中の行動データには、タグ装着個体が尾ビレを動かした信号はほとんど検出されなかった。ビデオの映像には、水中で尾ビレを動かさず漂っている他の2個体が撮影されていた(https://www.youtube.com/watch?v=43BpFMnaS4cこのリンクは別ウィンドウで開きます)。タグ装着個体の遊泳速度が遅い点、尾ビレをほとんど動かさなかった点、ビデオの記録期間を通して他個体が水中を漂っている様子が撮影された点から、タグ装着個体は水中で漂いながら休息していたことが示唆された。アザラシ類やマッコウクジラ 、アカウミガメなどは水中を漂いながら休息することが知られている。このことから本研究のタグ装着個体のザトウクジラもまた、水中で漂いながら休息していたことが考えられた。これまでの研究では、ザトウクジラを含むヒゲクジラ類は水面で休息すると報告されているが、水中で漂いながら休息することもあるということが本研究により明らかとなった。クジラはその時の海の状況や自身の浮力により、水中や水面など休息場所を変えている可能性が考えられた。また全天球カメラを使うことで、クジラは水中で単独ではなくグループで休息していたことが明らかとなった。

3. 社会的意義・今後の予定など
これまでにも動物装着型のカメラを用いて海洋動物の生態が調べられてきた。例えば授乳期間中の母アザラシに後ろ向きでカメラを装着したところ、母アザラシの後を付いて泳ぐ仔アザラシの姿が捉えられている。しかし、この映像が何を意味するのか(餌の捕り方を教えているなど)を言及するためには、広角レンズカメラにより周囲の環境を知る必要があった。ハクジラ同士が胸びれを使って互いに触れ合う行動もカメラにより捉えられており、その触れ合い行動がどのくらいの頻度で行われているかを明らかにするために、広角レンズカメラが役立つことが考えられる。このように、海洋動物の生態を調べるためには全天球カメラを含む広角レンズカメラが必要とされていた。広角レンズカメラにより、タグ装着個体の周辺の環境情報を記録することで、競争相手、協力個体、捕食者などの他個体の有無や、餌の分布や密度などの餌環境が明らかになると考えられる。本研究では、他個体の休息の映像から、タグを装着したクジラが休息していたことが推察され、全天球カメラの有用性を示すことができた。観察することの難しい野生動物の生態解明のためにも、今後全天球カメラの活用拡大が期待される。

図1 本研究対象種のザトウクジラ
潜水前に尾ビレを高く上げる様子(上)。タグを装着するために小型のボートでクジラに近づく様子(中)。タグを装着したクジラ(下)。


図2 ザトウクジラの時系列行動データとビデオデータから切り出した映像
上から遊泳速度、潜水深度、加速度の動的成分、体軸角度。加速度の動的成分の上のオレンジの丸は尾ビレの動きを表す。a) タグ装着期間中の全データ(11時間)。矢印の前が活動的ではない前半、矢印の後ろが活動的な後半。長方形はビデオの記録期間を示す。b) ビデオの記録期間を拡大。全体的に活動的でないことがわかる。c) b)の長方形部分(3潜水分)を拡大。深度記録上のアルファベットは、ビデオ映像のアルファベットと対応している。Aは潜水開始直後の水しぶきを表す。BからHはほぼ静止状態の映像で、ゆっくりと他個体が漂う様子が写っている。他個体はタグ装着個体の上を漂っていた。潜水を跨いでも同様の映像が続いていた。

発表雑誌

雑誌名:「Behavioural Processes」2021年2月25日
論文タイトル:Using an omnidirectional video logger to observe the underwater life of marine animals: Humpback whale resting behaviour
著者:Takashi Iwata*, Martin Biuw, Kagari Aoki, Patrick J. O. Miller and Katsufumi Sato
DOI番号:10.1016/j.beproc.2021.104369
アブストラクトURL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0376635721000565?via%3Dihubこのリンクは別ウィンドウで開きます

問い合わせ先

岩田 高志
iwatatakashigmail.com   ※「◎」は「@」に変換してください

研究トピックス