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光合成微生物“シアノバクテリア”の新たな光エネルギー利用機構 ーシアノロドプシンの発見ー

2020年10月30日

長谷川 万純・西村 陽介・吉澤 晋(東京大学大気海洋研究所 地球表層圏変動研究センター)

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発表者

長谷川万純(東京大学 大気海洋研究所 地球表層圏変動研究センター・
大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻 博士後期課程2年生)

保坂 俊彰(理化学研究所 生命機能科学研究センター 研究員)
小島 慧一(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科(薬学系) 助教)
西村 陽介(東京大学 大気海洋研究所 地球表層圏変動研究センター 特任研究員)
中島  悠(産業技術総合研究所 生命工学領域生物プロセス研究部門 学振特別研究員)
染谷 友美(理化学研究所 生命機能科学研究センター 上級研究員)
白水美香子(理化学研究所 生命機能科学研究センター チームリーダー)
須藤 雄気(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科(薬学系) 教授)
吉澤  晋(東京大学 大気海洋研究所 地球表層圏変動研究センター 准教授)

発表概要

地球上のほとんど全ての生物は、太陽光に由来するエネルギーを利用して生命活動を行っています。では、どの生物が、どのような機構で太陽からエネルギーを受け取っているのでしょうか?常識的には、植物や藍藻(シアノバクテリア)(注1)などの生物が、クロロフィルを用いる光合成機構を使って太陽からエネルギーを受け取り、そのエネルギーを使って作り出す有機物を生態系へと流しています。しかしながら、光合成とは全く異なる機構で太陽光からエネルギーを受け取る光受容体“微生物型ロドプシン(以下ロドプシン)”が1970年代に塩湖に生息する好塩古細菌から見つかり、微生物による光エネルギーの利用方法はこれまで考えられていた以上に多様であることが分かりました。その後、遺伝子解析技術の発展を背景に、ロドプシン遺伝子は塩湖だけでなく、海洋表層や河川、湖沼や温泉などに生息する微生物に幅広く分布することが分かってきました。一方で、ロドプシンによる光受容は、光合成を行わず有機物を食べることで生活する“従属栄養微生物(注2)”に特有の機構であると考えられてきました。

今回の研究で対象とした微生物“シアノバクテリア”は酸素発生型の光合成を行う独立栄養微生物(注3)であり、「シアノバクテリアが光合成で太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換する」ことは理科の教科書にも紹介されている、これまでの微生物の光利用の常識です。しかしながら、様々な微生物のゲノム(注4)が解読されるにつれ一部のシアノバクテリアからロドプシン遺伝子が見つかり、これまでクロロフィルを用いた光合成のみであると考えられてきたシアノバクテリアの光利用が、ロドプシンによって分担されている可能性が示唆されました。ところが、これまでの研究ではロドプシンを持つシアノバクテリアがどのような系統に属し、どのような環境に生息するのか?といった基礎的なことも分かっていませんでした。また、これまでの遺伝子解析から、シアノバクテリアが持つロドプシンは、従属栄養微生物の系統内で多様化してきたものを遺伝子水平伝播(注5)により受け取ったものであると考えられてきました。

今回、東京大学大気海洋研究所の長谷川万純大学院生、西村陽介特任研究員、吉澤晋准教授、理化学研究所、岡山大学、産業技術総合研究所との共同研究チームは、大規模な比較ゲノム解析を行い、シアノバクテリアの多くの系統にロドプシン遺伝子が分布すること、またシアノバクテリアは多様なグループのロドプシン遺伝子を持つことを明らかにしました。さらに、シアノバクテリアに特有な未知ロドプシングループ(シアノロドプシン;CyR)を発見し、このグループに属するロドプシンは、クロロフィルが利用しない緑色の光を吸収し、光エネルギーで細胞内から細胞外へ水素イオン(プロトン)を排出する「光駆動型プロトンポンプ」として働くことを明らかにしました。これらの結果は、ロドプシンがシアノバクテリア系統内で多様化し、またCyRを持つシアノバクテリアはクロロフィルとロドプシンの両方を用いて効率よく光を利用する可能性を示しています。シアノバクテリア系統内で進化してきたロドプシンが見つかったことは、光合成系とロドプシン系の異なる二つの太陽光利用機構が同じ細胞内で何億年もの間、共に働いてきたことを示しています。本研究による成果は、シアノバクテリアの新規な光エネルギー利用機構の発見にとどまらず、生物の光利用の常識に新たな概念を提供すると考えられます。

発表内容

【研究背景】
太陽光に由来するエネルギーは、地球上のほとんど全ての生物の生命活動を支えています。特に水圏環境では、シアノバクテリアや植物プランクトンなどの微生物が行う光合成によって、太陽光エネルギーが生物の利用可能なエネルギーに変換され、生態系に取り込まれる経路が重要です。一方で、光合成とは全く異なる機構で光エネルギーを利用する微生物型ロドプシンと呼ばれる光受容体が存在します。最初の微生物型ロドプシンは塩湖に住む好塩古細菌から見つかり、我々が視物質として利用する動物型ロドプシンに非常によく似ていることから“バクテリオロドプシン”と名付けられました。バクテリオロドプシンは太陽光を受け取ると、細胞内から細胞外へプロトンを輸送する「光駆動型プロトンポンプ」として働きます。微生物は、微生物型ロドプシンのイオン輸送によって細胞膜(注6)内外に生じたプロトン濃度勾配を使って“生命共通のエネルギー通貨”である「ATP(注7)」を合成することで、太陽光を利用可能な化学エネルギーに変換します。微生物型ロドプシン(以下ロドプシン)は、長い間塩湖に住む微生物のみが持つ光エネルギー利用機構であると考えられていましたが、2000年代に行われた海洋を対象としたメタゲノム解析(注8)から海洋微生物にも広く分布することが明らかになりました。また、その後の研究で河川、湖沼や温泉などに生息する微生物からも次々にロドプシン遺伝子が見つかり、ロドプシンによる光エネルギー利用機構は幅広い微生物系統群に広く存在することが分かってきました。一方で、ロドプシンによる光エネルギー利用は光合成を行わない従属栄養生物に特有の機構であると漠然と考えられていました。

ロドプシンは、レチナール(注9)を発色団として持つ光受容膜タンパク質の総称で、多様なタンパク質と色素を必要とする光合成と比較して非常に単純な構造から成り立っています。これまでに、海洋・淡水・土壌・高塩など様々な環境に生息する微生物から見つかっており、その機能タイプも多様であることが知られています。環境中に最も多く存在する光駆動型プロトンポンプロドプシンは、前述のように光エネルギーを利用してプロトンを輸送し生じたプロトン濃度勾配利用してATPを合成します。光駆動型プロトンポンプロドプシンが、細菌、古細菌、原生生物などの幅広い微生物系統群に分布することから、ロドプシンによる光エネルギー利用は微生物の生存に有利に働いていると考えられています。では、光合成を行う微生物もロドプシンを持つのでしょうか?近年のゲノム解析から、一部のシアノバクテリアがロドプシン遺伝子を持つことは知られていましたが、クロロフィルとは異なる光エネルギー利用機構であるロドプシンが、どのくらいシアノバクテリア系統内に普遍的に存在するのか?どのタイプの機能を持つのか?また生息環境に応じた偏りがあるのか?などは全く分かっていませんでした。

【研究内容】
本研究では、154のシアノバクテリアゲノムを対象に比較ゲノム解析を行い、どの系統のシアノバクテリアが、どの機能タイプのロドプシンを持つのかを網羅的に調べました。その結果、ロドプシン遺伝子がシアノバクテリア系統内に広く分布すること、シアノバクテリアの生息環境によってロドプシンを持つ・持たないに偏りがあり、ロドプシンを持つシアノバクテリアの殆どが淡水・陸水性であることを見出しました。また、シアノバクテリアは多様なグループのロドプシンを持ち、その中にシアノバクテリアのみが持つロドプシンで形成される未知グループが存在することを明らかにし、この未知グループをシアノロドプシン(CyR)と命名しました。

次に、CyRの機能を調べるため、3つのCyR遺伝子を人工的に合成し、大腸菌を宿主として異種発現させることで各CyRの機能解析を行いました。機能解析の結果、3つのCyRはいずれも光駆動型プロトンポンプとして働くことが明らかになりました。さらに、CyRタンパク質の特徴を調べるために、機能が明らかになった3つのCyRの中の1つである、淡水に生息するCalothrix sp. NIES-2098由来のCyR(N2098R)に関して、詳細な分光解析を行いました。その結果、N2098Rは緑色光(吸収極大:約550nm)を用いて、幅広いpHの範囲内で効率よくプロトンを輸送できることが明らかになりました。これらの結果から、CyRはクロロフィルが吸収しない緑色の光を利用すること、海洋環境に比べてpHをはじめとする環境条件が短時間で大きく変化する淡水環境に適応的な性質を持つことが分かりました。また、海洋性のシアノバクテリアからロドプシンが全く見つからなかったことは、シアノバクテリアの光利用戦略が、海洋と淡水で異なることを示します。

加えてX線結晶構造解析(注10)により、N2098Rの結晶構造を2.65Åの解像度で決定しました。その結果、N2098Rは淡水性のシアノバクテリアに適応した機能的特徴を持つにも関わらず、その構造は好塩古細菌が持つバクテリオロドプシンに非常によく似ていることが分かりました。これらの結果は、CyRがシアノバクテリアの系統内でクロロフィルを用いる光合成系とともに進化し、大きな構造変化を伴うことなく淡水性シアノバクテリアの細胞内環境に適応してきたたことを示唆しています。

【社会的意義・今後の展望】
本研究から、これまで光合成のみで光エネルギーを受け取っていると考えられていたシアノバクテリアに、ロドプシン型の光エネルギー利用機構が広く分布することが明らかになりました。また、本研究で見出したCyRは、クロロフィルが吸収しない緑色の光を利用することから、CyRを持つシアノバクテリアは光合成とロドプシンの両方を用いて効率よく光を利用している可能性を示唆しています。しかしながら、CyRがシアノバクテリアの細胞内のどこに局在し、どのタイミングで発現するのか、などの光合成との詳細な分担機構は未だ不明な点が多いのが現状です。今後、光合成系とロドプシン系の光エネルギー利用機構の使い分けの詳細を明らかにすることで、生物の光利用の歴史が「光合成の進化史」ではなく「光合成とロドプシンの共進化史」として刷新されることが期待されます。

発表雑誌

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:A unique clade of light-driven proton-pumping rhodopsins evolved in the cyanobacterial lineage
著者: Masumi Hasegawa, Toshiaki Hosaka, Keiichi Kojima, Yosuke Nishimura, Yu Nakajima, Tomomi Kimura-Someya, Mikako Shirouzu, Yuki Sudo, Susumu Yoshizawa
DOI番号:https://doi.org/10.1038/s41598-020-73606-yこのリンクは別ウィンドウで開きます
アブストラクトURL:https://www.nature.com/articles/s41598-020-73606-yこのリンクは別ウィンドウで開きます

問い合わせ先

吉澤 晋
東京大学大気海洋研究所 地球表層圏変動研究センター
yoshizawaaori.u-tokyo.ac.jp    ※アドレスの「◎」は「@」に変換してください

用語解説

注1:シアノバクテリア
原核生物のうち、酸素発生を伴う光合成を行う細菌の総称。
注2:従属栄養微生物
生育に必要な炭素を、外部の有機化合物から得ている微生物。
注3:独立栄養微生物
生育に必要な炭素を無機化合物でまかなうことができる微生物。
注4:ゲノム
生物がもつ遺伝子の総体であり、物質的にはDNAから構成される。各生物種の基本的な形質
を決定する。
注5:遺伝子水平伝播
個体間や他生物間において、子孫でないのにその遺伝子を取り込む現象で、単細胞生物では
良くみられる。
注6:細胞膜
細胞を包む膜。リン脂質二重層でできていて、その中にタンパク質が埋め込まれている。
注7:ATP
アデノシン三リン酸の略称。生命共通のエネルギー通貨と呼ばれる物質。ATPがアデノシン
二リン酸(ADP)と無機リン酸(Pi)に加水分解されるときに放出されるエネルギーを、生物
は様々な化学反応に利用している。
注8:メタゲノム解析
海水などのサンプルから抽出したゲノムDNAを、網羅的に解析すること。
注9:レチナール
ビタミンAの一種で、光を吸収すると異性化しその変化によってシグナルを伝える。
注10:X線結晶構造解析
タンパク質などの生体高分子の立体構造を、X線を照射することで調べる手法。

図1 本研究でシアノバクテリアのゲノムから探索したロドプシンと、既に機能が報告されているロドプシンの分子系統樹。

図2 本研究で比較ゲノム解析を行った、シアノバクテリアの進化系統樹と、分離環境、細胞の形態、レチナール合成の有無、ロドプシン保有の有無とその種類、ゲノムサイズの情報。

図3 本研究で明らかになった、シアノバクテリアの新たな光エネルギー利用機構の模式図。(左)これまで、シアノバクテリアは光合成によって赤色と青色の光のみを利用すると考えられていた。(右)本研究での発見により、シアノバクテリアはロドプシンによって緑色の光も利用できることがわかった。

研究トピックス