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アフリカ大地溝帯では安定陸塊の境界で深部炭素が表層に運ばれる

2020年6月4日

シラキュース大学
ニューメキシコ大学
東京大学、他

発表のポイント

◆アフリカ大地溝帯において、深部炭素のフラックスを観測し、湧水のヘリウムや炭素を分析して、地理的に大きく異なることを明らかにした。
◆地質学的情報や地震波解析などの地球物理学的観測の結果と組み合わせることにより、大地溝帯での深部炭素フラックスの違いを地下構造から明らかにした。
◆地球化学的、地球物理学的、地質学的情報を組み合わせることで、マントルにまで達する地下構造や物質の動きを明らかにすることが可能になる。

発表者

James D. Muirhead (シラキュース大学 博士研究員)
Tobias P. Fischer (ニューメキシコ大学 教授)
佐野 有司 (東京大学 大気海洋研究所 教授)
高畑 直人 (東京大学 大気海洋研究所 助教)
李 炫宇  (ソウル国立大学 助教;研究当時 東京大学 大気海洋研究所 博士研究員)
他、8カ国の研究者13名

発表内容

背景
東アフリカ地溝帯はアフリカ大陸東部を南北に縦断する巨大な大地の割れ目で、3000km以上にわたって続いています。そしてこの地溝帯には多数の火山が存在し、マントルからマグマが供給されていることを示しています。マグマが供給されるには熱源が必要で、アフリカ大陸の地下には深さ2900kmの核との境界から巨大な上昇流であるマントルプルームが存在します。従って、この地溝帯は大陸が分裂しつつある場所、つまり拡大するプレート境界と考えられ、このプルームにより東アフリカ地溝帯が形成され、火山の源にもなったと思われます。

このように東アフリカ地溝帯はマントルに蓄えられた炭素が地球表層に脱ガスする重要な場所と考えられますが、地理的な問題から地球化学的観測はほとんどなく、深部炭素の表層へのフラックス(注1)が場所によってどのくらい変わるのかよくわかっていませんでした。特に東部地溝帯のタンザニア安定陸塊(注2)の境界付近では地質構造が大きく異なりますが、深部炭素のフラックスがどのくらい変化するかを調べた研究はありませんでした。

研究内容
東京大学とアメリカのシラキュース大学など8カ国の国際共同研究グループは、東部地溝帯のタンザニアとケニアの350kmにわたる領域において、マントルから地表に放出される深部炭素フラックスを調べ、湧水中の炭素やヘリウム(注3)の同位体および化学組成の精密な分析を行いました(図1a)。この地域は南北で深部地質構造が大きく変化する場所です。図1bに示した緑色の領域がタンザニア安定陸塊で、地溝帯と交わる付近が本研究の調査地です。この付近にはカーボナタイト(注4)と呼ばれる炭素を多く含む特徴的な火山岩が見られ、その分布を紫色の点で示しています。このカーボナタイトが分布する地域と地溝帯が交わるあたりで深部炭素フラックスや化学組成が大きく変化することがわかりました(図2ab)。この交点より南側では安定した大陸地殻である安定陸塊が存在し、北側では火山が多く存在する造山活動が活発な地域です。そのため深部炭素フラックスの違いは、地下構造の違いやマグマ生成のプロセスが影響していると考えられました。

そこで重力および地震波の解析により地下構造を推定し(図2c)、カーボナタイトの分布と合わせると図3のような深部炭素の輸送がわかってきました。調査地の南側を占めるタンザニア安定陸塊はマントルにまで達する深いリソスフィア(注5)を持っており、その底部はアセノスフィア(注6)に接しています。そこでは炭素に富んだカーボナタイトが生成されます。その安定陸塊のリソスフィアは隣接するアセノスフィアにぶつかる場所で炭素が濃集されます。その部分ではマグマが生成され、マグマと共に炭素はCO2となって上昇します。そのため、安定陸塊の境界より北側では、CO2のフラックスが高く、ヘリウムや炭素の同位体はマントルの値を示す説明されます。

今後の展望
このようにヘリウム同位体比は地下深部の物質を追跡する上でとても良い指標であり、地質学的情報や地球物理学的観測を組み合わせることで地下構造や物質循環をより詳細に調べることができるようになりました。しかしこういった複合観測はまだほとんどなく、本研究は信頼性のある結果が得られた数少ない例です。大地溝帯では場所によって深部炭素のフラックスが大きく違うことは新しい発見であり、本研究の結果は地球規模の炭素循環に新しい知見をもたらすものです。今後、他の地域でも同様の手法で深部物質の動きを調べることができると考えられます。

発表雑誌

雑誌名:Nature
論文タイトル:Displaced cratonic mantle concentrates deep carbon during continental rifting
著者:J.D. Muirhead, T.P. Fischer, S.J. Oliva, A. Laizer, J. van Wijk, C.A. Currie, H. Lee, E.J. Judd, E. Kazimoto, Y. Sano, N. Takahata, C. Tiberi, S.F. Foley, J. Dufek, M.C. Reiss, C.J. Ebinger
DOI番号: https://doi.org/10.1038/s41586-020-2328-3このリンクは別ウィンドウで開きます
日本語要約: https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/103507このリンクは別ウィンドウで開きます

関連雑誌

雑誌名:Journal of Volcanology and Geothermal Research
論文タイトル:Incipient rifting accompanied by the release of subcontinental lithospheric mantle volatiles in the Magadi and Natron basin, East Africa
著者:H. Lee, T.P. Fischer, J.D. Muirhead, C.J. Ebinger, S.A. Kattenhorn, Z.D. Sharp, G. Kianji, N. Takahata, Y. Sano
DOI番号: http://dx.doi.org/10.1016/j.jvolgeores.2017.03.017このリンクは別ウィンドウで開きます

問い合わせ先

東京大学大気海洋研究所 海洋化学部門
佐野 有司
E-mail: ysanoaori.u-tokyo.ac.jp

東京大学大気海洋研究所 海洋化学部門
高畑 直人
E-mail: ntakaaori.u-tokyo.ac.jp      *アドレスの「@」は「◎」に変換してください

用語解説

注1)フラックス
単位面積あたり、単位時間あたりに移動する物質量。
注2)安定陸塊
大陸地殻の古い安定した部分。クラトンとも呼ばれる。
注3)ヘリウム
希ガス元素の一つで、その同位体比は表層とマントルの物質で大きく異なる。これを利用してヘリウムの起源を調べることができる。
注4)カーボナタイト
炭酸塩を主要鉱物とするマントル起源の火成岩で炭素を多く含む。
注5)リソスフィア
地球の深さ方向に対しての層のうち、一番外側の部分。地殻やマントルが地球化学的な分け方に対し、リソスフィアは地球物理学的な分け方で一番外側の固い部分。プレートテクトニクスのプレートに相当する。
注6)アセノスフィア
リソスフィアの下にある比較的柔らかい部分。

添付資料

図1.(a)東アフリカ地溝帯における調査地点(○)と深部炭素フラックスの平均値(数値)。フラックスは北側で高く南側で低い。ER:東部地溝帯、WR:西部地溝帯。(b)緑色の部分はタンザニア安定陸塊(クラトン)。安定陸塊の境界付近にはカーボナタイトと呼ばれる炭素を多く含む火成岩が見られ、調査地点(点線の四角で囲った部分)で地溝帯と交わる。

図2.(a) 図1aのX-X’ラインに沿ったヘリウム同位体比(3He/4He比)の緯度分布。大気の同位体比で規格化してある。安定陸塊の境界(Craton boundary)から北側で高くマントルに起源を持つことを示している。 (b)深部炭素フラックスの緯度分布。ヘリウム同位体比の分布と同じく安定陸塊の境界から北側で高い。(c)地震波解析などの地球物理学的観測から推定した地下の密度構造。密度の違いから安定陸塊の境界を推定することができ、それより北側で密度の低い(柔らかいあるいは温度の高い)部分があることがわかる。

図3.地球化学的観測(ヘリウムと炭素)、地球物理学的観測(密度構造)、地質学的観測(カーボナタイト分布)を総合して得られた地下構造と炭素の流れ。タンザニア安定陸塊のリソスフィアは厚いため、隣り合うアセノスフィアにぶつかるところで炭素が濃集し、マグマと共に上昇する。そのため安定陸塊の境界で深部炭素のフラックスが高くなると推定される。

研究トピックス