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「京」コンピュータによる多数の高解像度シミュレーションが解明した竜巻の発生要因

2018年8月27日

横田 祥(気象庁気象研究所予報研究部 研究官)
新野 宏(東京大学大気海洋研究所 客員教授)
瀬古 弘(海洋研究開発機構 招聘上席研究員、気象庁気象研究所予報研究部 室長)
國井 勝(気象庁予報部数値予報課 技術専門官)
山内 洋(気象庁観測部計画課 観測技術開発推進官)

サンプル

研究紹介

発表のポイント

◆2012年5月6日、茨城県つくば市で大きな被害をもたらした竜巻(以下、「つくば竜巻」という)を対象に、「京」コンピュータを用いて、竜巻を解像する33個の高解像度数値シミュレーションを行い、その結果から竜巻の発生要因を解析した。
◆その結果、竜巻の発生には、積乱雲内の高度約1kmにある直径数kmのメソサイクロンと呼ばれる渦の強さと地表付近の水蒸気量が大きく関わっていたことが明らかになった。
◆現実の竜巻を対象として、多数の高解像度シミュレーションにより竜巻を再現し、竜巻の発生要因を統計的に解析したのは本研究が世界で初めてであり、本研究の成果は、今後の竜巻の予測精度の向上につながるものと期待される。

発表概要:

気象庁が発表する竜巻注意情報や米国気象局が発表する竜巻警報は、気象レーダーで検出される直径数キロメートルの渦(メソサイクロン(注1))の情報などに基づいて発表される。しかし、メソサイクロンが検出されても必ずしも竜巻が発生するわけではなく、竜巻の予測精度の向上のためには、その発生機構の解明が求められている。

今回、気象研究所、東京大学及び海洋研究開発機構のグループは、理化学研究所の「京」コンピュータを用い、2012年5月6日に発生した「つくば竜巻」を対象に、竜巻を解像できる解像度(水平格子間隔50m)で、数値予報や観測に内在する誤差の範囲内のばらつきを持つ多数(33個)の初期値を用いた数値シミュレーション(アンサンブルシミュレーション(注2))を行った(図1)。そして、そこで得られた複数のシミュレーション結果から、「高度約1kmのメソサイクロンの強さ」と「地表付近の水蒸気量」が竜巻の発生に強く関わっていることを明らかにした(図2)。

これまで、竜巻の発生を左右する要因を統計的に調べることは、竜巻の周りの大気の状態が竜巻毎に大きく異なるため困難であったが、「京」を用いたアンサンブルシミュレーションにより、竜巻の発生に大きくかかわっている要因を、世界で初めて統計的に示すことができた。今回得られた知見は、今後の竜巻注意情報の精度向上につながるものと期待できる。

発表内容

[研究の背景]
気象庁が提供する竜巻に関する情報(竜巻注意情報など)は、数値予報で得られる竜巻発生に適した大気状態や、気象レーダーで検出される直径数kmの渦(メソサイクロン(注1))などの情報に基づいて作成される。しかし、メソサイクロンが検出されても必ずしも竜巻が発生するとは限らないため、より精度の高い竜巻発生予測のためには竜巻の発生機構の解明が必要である。

これまでの竜巻の発生要因を調べる研究は、現実の竜巻の詳細な観測が十分でないことから、主に竜巻を対象とするシミュレーションの結果を解析することで行われてきた。しかし、竜巻を解像する解像度で現実的な竜巻のシミュレーションに成功した例は未だ少なく、竜巻の周りの大気の状態も竜巻毎に大きく異なるため、これまでは竜巻の発生要因を統計的に調べることは困難であった。

[研究内容]
本研究では、2012年5月6日に発生した「つくば竜巻」を対象に、「京」コンピュータを用い、竜巻を解像できる高解像度(格子間隔50m)で、33個のシミュレーション(アンサンブルシミュレーション(注2))を行った(図1)。33個のシミュレーションはそれぞれ初期値が異なるが、いずれも解析誤差の範囲内にあり、現実的なものである。

まず、この33個のシミュレーション結果を用い、竜巻の発生にとって重要と考えられる、竜巻の循環の起源を調べた。しかし、シミュレートされた個々の竜巻の循環の起源は、竜巻毎に異なっていた。このことから、循環の起源を竜巻の発生の指標として用いることは困難だと考えられる(図3)。

そこで、竜巻の周りの大気の状態(たとえば、積乱雲を発達させる下層の水蒸気量など)に着目し、これと竜巻の強さとの相関関係を調べた。その結果、高度約1kmのメソサイクロンが強く、地表付近の水蒸気量が多いほど、強い竜巻が発生するということが明らかになった(図2)。「高度約1kmのメソサイクロン」や「地表付近の水蒸気」は、竜巻を解像するほどの高解像度シミュレーションを用いなくても、ある程度予測可能なものであり(図4)、これは今後の竜巻の予測精度向上に向けた注目すべき点である。

[社会的意義・今後の予定]
本研究では、竜巻の発生を左右する要因を、アンサンブルシミュレーションを用いて統計的に示すことに世界で初めて成功し、竜巻発生を予測するために注目すべき要素が明らかになった。本研究の成果は、今後の竜巻の予測精度の向上に大きく貢献するものと期待される。

発表雑誌

文献1
雑誌名:Monthly Weather Review, 144, 3133-3157(2016年9月)
論文タイトル:The tornadic supercell on the Kanto Plain on 6 May 2012: polarimetric radar and surface data assimilation with EnKF and ensemble-based sensitivity analysis.
著者:Sho Yokota*, Hiromu Seko, Masaru Kunii, Hiroshi Yamauchi, and Hiroshi Niino
DOI:10.1175/MWR-D-15-0365.1
アブストラクトURL:https://doi.org/10.1175/MWR-D-15-0365.1このリンクは別ウィンドウで開きます

文献2
雑誌名:Monthly Weather Review, 146, 1109-1132(2018年4月)
論文タイトル:Important Factors for Tornadogenesis as Revealed by High-Resolution Ensemble Forecasts of the Tsukuba Supercell Tornado of 6 May 2012 in Japan
著者:Sho Yokota*, Hiroshi Niino, Hiromu Seko, Masaru Kunii, and Hiroshi Yamauchi
DOI: 10.1175/MWR-D-17-0254.1
アブストラクトURL:https://doi.org/10.1175/MWR-D-17-0254.1このリンクは別ウィンドウで開きます

問い合わせ先

気象庁気象研究所予報研究部 研究官 横田 祥
TEL:029-853-8635
Email:syokotamri-jma.go.jp    ※「◎」は「@」に変換して下さい

用語解説

注1:メソサイクロン
積乱雲内の高度数kmで発生する直径数kmの渦。気象レーダーで検出可能であり、竜巻の発生の指標として用いられる。
注2:アンサンブルシミュレーション
誤差範囲内の複数の初期値を用いて計算する複数の数値シミュレーション。本研究では、局所アンサンブル変換カルマンフィルターという手法を用いて関東地方の稠密な観測データ(気象レーダーや地上観測など)を同化することにより、解析誤差の範囲内の33個の初期値を求め、計算を行った。

添付資料

図1 33個のアンサンブルシミュレーションで再現された竜巻のうち最も強いものの3次元構造。赤と白の等値面は渦の強い領域と雲域。地上の色と矢印は気温と風。(文献2、図4から)。

図2 33個のアンサンブルシミュレーションで再現された竜巻の渦の強さの散布図。縦軸は高度100m以下の平均水蒸気量、横軸は下層1kmのメソサイクロンの強さを示す(右上の数字は水蒸気量とメソサイクロンの強さの相関係数)。灰色、黒色、赤色の点の順に竜巻の渦が強く、大きい赤色の点が最も強い。(文献2、図16から)

図3 竜巻の渦の強さ(縦軸)と循環の起源(横軸)の関係。青は気温差によって生成される循環、緑は地表面の摩擦によって生成される循環を表す。これらの循環の起源が竜巻の渦の強さと明瞭な関係が無いことが分かる。(文献2、図10から)

図4 格子間隔350m(竜巻を解像していない)の33個のアンサンブルシミュレーションで得られた高度約1 kmのメソサイクロンの発生確率分布。色は発生確率、黒線は実際に竜巻が観測された位置。(文献1、図10から)

謝辞

本研究の一部は、気象研究所重点研究「メソスケール気象予測の改善と防災気象情報の高度化に関する研究」、ポスト「京」で重点的に取り組むべき社会的・科学的課題に関するアプリケーション開発・研究開発 重点課題④「観測ビッグデータを活用した気象と地球環境の予測の高度化」、社会システム改革と研究開発の一体的推進「気候変動に伴う極端気象に強い都市創り」、科研費「竜巻等突風現象を生ずる低気圧の内部構造と力学」「次世代データ同化とアンサンブルシミュレーションによる積乱雲の発生・発達機構の解明」の成果であり、東京大学大気海洋研究所共同利用研究(受付番号131, 2014; 136, 2015; 138, 2016; 137, 2017; 141, 2018)として行われた。また、本研究で用いた地上観測データの一部はNTTドコモ社から提供いただいた。

研究トピックス