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マッコウクジラの採餌行動:カメラロガーで撮影されたイカの墨

2015年4月16日

青木かがり(当時 東大大海研、現在 セントアンドリュース大)・佐藤克文(東大大海研)・ほか

発表のポイント: ◆マッコウクジラ17個体にカメラを取り付け、計一万七千枚の画像を得た。 ◆水面から深度300mにかけて他のマッコウクジラが写っており、一緒に潜降する様子や体を触れ合わせる様子が撮影された。 ◆深度800メートル付近でクジラが高速で遊泳し、姿勢を急に変えた直後にイカの墨と思われる画像が撮影された。マッコウクジラが活発に餌を追尾し頭足類を捕食していることの傍証を得た。

背景

マッコウクジラは深度1000メートルを超える潜水を行い、深海性の頭足類や魚類を捕獲する。餌の捕獲方法には二つの説が挙げられおり、一つは待ち伏せである。もう一つは音響探査を用いた活発な追尾で、クリーククリックスと呼ばれる音を発して餌を探査し接近する。近年の動物装着型行動記録計を用いた研究により、マッコウクジラの深海での行動が測定できるようになり、クリーククリックスの終わりに姿勢を変えること、深い深度で高速で遊泳し急旋回することが分かった。これらの結果は後者の説を支持しているが、餌を捕らえる瞬間は未だ直接観察されていない。本研究ではマッコウクジラにカメラを取り付け、捕獲行動を観察することを試みた。

著者

青木かがり(当時 東京大学大気海洋研究所 国際沿岸海洋研究センター、現在 セントアンドリュース大学 生物学部)
天野雅男(長崎大学大学院 水産・環境科学総合研究科)
窪寺恒己(国立科学博物館 標本資料センター)
森恭一(帝京科学大学 アニマルサイエンス学科)
岡本亮介(小笠原ホエールウォッチング協会)
佐藤克文(東京大学大気海洋研究所 海洋生命科学部門)

研究成果

本研究では、餌本体を撮影するには至らなかったものの、カメラを取り付けたクジラに並んで潜降する他のマッコウクジラの様子や、深い深度で餌の痕跡を撮影することに成功した。

マッコウクジラ17個体から二万枚弱の静止画像を得た。得られた画像の98.5%には、何も写っていなかった。カメラロガーの前に反射する物がないため、画像全体が薄暗い(図1a)。17枚でイカの墨と思われる懸濁物(図1b)、4枚で生物の破片(図1c)、2枚で動物の体の一部と思われるもの(図1d)、221枚で他のマッコウクジラが撮影された(図1e、f)。他のマッコウクジラの画像は、水面から深度300メートル付近の間で得られ、一緒に潜降したり、体を触れ合わせたりする様子が撮影された。それより深い深度では他のマッコウクジラは写らなかったので、餌を捕獲する際は単独で遊泳していると思われる。深度300メートル付近まで他のクジラと一緒に泳ぐ理由は何か?単に、近くにいたマッコウクジラがカメラのフラッシュに興味を持って、カメラが取り付けられたクジラに接近してきたのかもしれない。あるいは、他のハクジラと同様に、深い深度でも社会行動をしていたのかもしれない。マッコウクジラは発達した社会を持ち、水面で社会行動をする。社会行動は個体同士の繋がりを強化する機能があることが知られており、互いに体を寄せ合ったり触れ合ったりする。私たちの限られたデータからはその理由までは分からないが、水面付近以外でも他個体と近接して遊泳することが明らかにされた。

一方、懸濁物の画像は深度800m付近(図1b)、生物の破片と思われるものは深度500m付近(図1c)、動物の体の一部と思われる画像は深度800m付近(図1d)で撮影され、いずれも深い深度であった。カメラと同時に加速度・速度計を取り付けた個体で、懸濁物の画像と遊泳行動との関連を調べところ、クジラが高速で泳いだ際に懸濁物が写っていたことが分かった(図2)。クジラはふつう秒速2メートル程度で巡航遊泳するが、深度600から1000m付近でときおり2倍程度の速度で泳ぎ、旋回していた。最大速度の7秒前から17秒後に、この画像が撮影された(図2f)。おそらくクジラに追われたイカが吐き出した墨が写ったのだろう。餌本体の画像は撮影できなかったものの、マッコウクジラに取り付けたカメラと加速度・速度ロガーにより、クジラが活発に餌を捕獲していることの視覚的傍証が得られた。

発表雑誌

雑誌名:MARINE ECOLOGY PROGRESS SERIES
論文タイトル:Visual and behavioral evidence indicates active hunting by sperm whales
著者:Kagari Aoki*, Masao Amano, Tsunemi Kubodera, Kyoichi Mori, Ryosuke Okamoto, Katsufumi Sato
DOI:10.3354/meps11141

動画

マッコウクジラに取り付けたカメラで撮影した画像(13.2MB)
中深層に設置したビデオで撮影されたアカイカが墨を吐く様子(14.7MB)

* movファイル(QuickTimeムービーファイル)です。QuickTime Player等の動画再生ソフトで閲覧ができます。

図1.マッコウクジラに装着したカメラが撮影した画像。(a) 典型的な画像。何も写っていない。(b) イカの墨と思われる懸濁物。(c) 生物の破片と思われる。(d) 動物の体の一部と思われる。(e)、 (f) カメラロガーを取り付けたクジラの側を泳ぐ、他のマッコウクジラ。

図2.潜水行動の時系列データと高速で遊泳している際の画像。(a) 深度と遊泳速度の時系列。矢印はクジラが加速した時点を示す。(b) 一回の高速遊泳イベント(破線の間)の深度、遊泳速度、加速度の時系列。図中のアルファベットは下の静止画に対応。静止画(c-h)に示された数値は最大速度からの秒数。

研究トピックス