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千島列島付近の大きな潮汐混合と月の軌道変化に伴う海洋・気候の18.6年振動

2008年4月

海洋生物資源部門 環境動態分野

NOAA赤外画像による2006年7月28日表面水温分布


図1:NOAA赤外画像による2006年7月28日表面水温分布(東北大学)

千島列島付近が強い潮汐混合により低温域となっている

 

背景
北太平洋海域のマイワシ・マグロなどを始めとする海洋生態系は、数10年規模の気候・海洋変動と連動していることが知られています。一方、数10年規模の気候・海洋変動が生じるかメカニズムについては、現在でも謎です。

結果
本研究では、月の地球の周りの公転軌道面が、地球赤道面に対して5度の振幅をもって、18.6年周期で振動することに伴う潮汐変動(図2)に着目し、親潮・オホーツク海等西部亜寒帯海域の水塊(図3)やアリューシャン低気圧の勢力を代表する気候指標(NPIやPDO, 図4)に現れる約20年周期変動が、月の軌道変化によって生じる潮汐18.6年周期振動と同期していることを示しました。

潮汐18.6年振動の模式図

図2:潮汐18.6年振動の模式図

親潮中層水における変動

図3:親潮中層水における変動:(上)密度26.8σθにおける見かけの酸素消費量(AOU)、(中)密度27.0における温位、(下)密度26.7-27.2の厚み。破線はトレンドと18.6年周期でフィットさせた時系列

図4:(左図)月の軌道変化に伴う18.6年周期変動(a)と、親潮中層酸素消費量(b)、冬季北太平洋指標(c: NPI)、冬季太平洋10年変動指標(d: PDO)、冬季極東モンスーン指標(e: MOI)の12-25年周期成分の規格化時系列

(右図)18.6年周期変動に伴う1日周期潮汐が強い期間と弱い期間の表面水温差(色、℃)と海面気圧差(等値線、hPa)

また、ロシア船で乱流計(図5a)を用いて千島列島付近の潮汐混合を初めて直接観測し、海峡部で通常の1万倍にも及ぶ大きな鉛直混合が起きていることを実証しました(図5b)。

乱流計回収作業風景

図5a: 乱流計回収作業風景

千島列島ブッソル海峡西水道での鉛直拡散の1日連続観測結果

図5b:千島列島ブッソル海峡西水道での鉛直拡散の1日連続観測結果(横軸時間、縦軸深度)

色は鉛直拡散係数を対数で表示(単位m2/s)、等値線はポテンシャル密度

北太平洋亜寒帯海域特に千島列島付近での強い日周潮汐鉛直混合が18.6年周期で長期変動することに伴い、千島列島付近及びオホーツク海表層塩分が変化することでオホーツク海北西陸棚付近での中層水形成量が変化し、オホーツク海・親潮中層水の酸素濃度や水温・塩分・栄養塩の変化を引き起こす(図6)という、北西太平洋亜寒帯中層水の変動メカニズムを提示しました。

千島列島付近の潮汐鉛直混合が強い時期の、オホーツク海・親潮域の表・中層水塊変動模式図

図6:千島列島付近の潮汐鉛直混合が強い時期の、オホーツク海・親潮域の表・中層水塊変動模式図

さらに、千島列島付近の潮汐変動に伴い北太平洋西岸に沿った等密度面深度が長周期で変動することにより西岸境界流である黒潮・黒潮続流や赤道のENSOに影響し、気候変動にまで影響を及ぼす可能性を示唆しました(図7)。

千島列島付近での強い潮汐混合が18.6年振動することに起因する海洋・大気変動過程の模式図

図7:千島列島付近での強い潮汐混合が18.6年振動することに起因する海洋・大気変動過程の模式図

千島列島付近での鉛直混合が強くなることにより、高塩分・高密度化により表層の層厚が薄くなる。同時に、深層から中層への鉛直輸送が増加し中層を厚くする。これらは北向き熱輸送を増大させる。表層層厚の変化は、岸に沿って沿岸波動として伝搬し、黒潮を変化させることで大気海洋相互作用を通じてアリューシャン低気圧強度に影響する。

 

研究の意義と課題
本研究は、月の軌道の18.6年周期変動という天文学的に予測可能な現象と、海洋中の潮汐混合という微細スケールの現象を結びつけ、水塊変動・海洋大循環ひいては気候変動にまで影響を与えうる可能性を示し、これまで謎であった気候・海洋・海洋生態系の約20年周期変動の予測可能性に道を開きました。潮汐混合の強さは時空間的に大きく変動するため、他の海域も含めさらに観測を行うとともに、混合が生じるメカニズムを明らかにし、定量化を図る必要があります。また、強い鉛直混合に起因する栄養塩鉛直輸送と生物生産長期変動への影響、及び、鉛直海水輸送と海洋循環との関係について、研究を行ってゆきます。



参考文献 

I.   I. Yasuda, S. Osafune and H. Tatebe: Possible explanation linking 18.6-year period nodal tidal cycle with bi-decadal variations of ocean and climate in the North Pacific. Geophysical Research Letters, 33, L08606, doi:10.1029/2005GL025237, 2006. 

II. S. Osafune, and I. Yasuda: Bidecadal variability in the intermediate waters of the northwestern subarctic Pacific and the Okhotsk Sea in relation to 18.6-year perioid nodal tidal cycle. Journal of Geophysical Research, 111, C05007, doi:10.1029/2005JC003277, 2006.

研究トピックス