ナビゲーションを飛ばす

教職員募集 所内専用go to english pageJP/EN

facebook_AORI

instaglam_AORI

バイオロギング手法で進める海鳥類の採餌生態学

2007年12月

国際沿岸海洋研究センター 沿岸保全分野

ヨーロッパヒメウは見た!

 

(1)研究の背景

 生物生産が高くプランクトンや魚類が豊富な海域にはそれを餌とする海鳥類が多く生息しています.彼らは,沿岸にある繁殖地と周辺海域の餌場とを往復する, Central Place Foragerです.限りある餌資源をめぐるライバル達との競争を勝ち抜くためには,良質の餌を,できるだけ多く,楽に,短時間で採らねばなりません.近い餌場と巣の間を頻繁に往復するべきか,時間をかけて遠くの良い餌場までいき,一度に大量の餌を持ち帰るのが良いのか,様々な戦略が考えられます. 

 飛翔能力が高く,数キロメートル以上の行動半径を有する海鳥類では,直接観察によってわかる事は非常に限定されています.しかし,彼らが視界の範囲外に飛び去った後,どんな場所で,何を,どれだけ捕獲するのかといった情報を把握しなければ,彼らを対象とした採餌生態学を実現することはできません.

(2)今回の成果

動物搭載型のカメラや加速度記録計を用いることにより,上記の情報を入手できるようになりました.スコットランドのメイ島で,子育て中のヨーロッパヒメウに,15秒間隔で静止画を撮影できる画像デーがロガー(空中重量72g)を搭載しました(図1).ヨーロッパヒメウは体重2kg弱の海鳥で,沿岸の岩礁地帯に巣を作り,周辺海域で捕獲した餌を巣の雛まで持ち帰る,典型的なCentral Place Foragerです.1日の採餌旅行を終えた後に装置を回収することにより,彼らが飛んでいった先で10~40mの深さの潜水を繰り返す際,どんな環境で何を捕獲しているのかが明らかになりました.

背中に画像データロガーを搭載したヨーロッパヒメウが巣で抱雛する様子

図1:背中に画像データロガーを搭載したヨーロッパヒメウが巣で抱雛する様子

底質が砂地の海底では時々クチバシを砂地につっこんでいる様子が映っていました(図2).魚を捕獲した瞬間も写されており,その細長いシルエットは,胃内容物採集によって明らかにされていたイカナゴが主要な餌生物であるという報告と一致しています.岩礁域で潜水する間に得られた画像によると,そこではギンポやヨウジウオを捕獲している事がわかりました(図3,4).採餌旅行中に砂場と岩礁地帯の両方を訪れる個体もいたことから,ヨーロッパヒメウは特定の餌のみを捕獲するspecialistではなく,柔軟に餌や採餌場所を変えるgeneralistである事がわかりました.

砂地の海底にクチバシをつっこむヨーロッパヒメウ

図2:砂地の海底にクチバシをつっこむヨーロッパヒメウ

岩礁地帯で潜水した後,ギンポとおぼしき魚をくわえて浮上中のヨーロッパヒメウ

図3:岩礁地帯で潜水した後,ギンポとおぼしき魚をくわえて浮上中のヨーロッパヒメウ

岩礁地帯で潜水した後,ヨウジウオをくわえて水面に戻ってきたヨーロッパヒメウ

図4:岩礁地帯で潜水した後,ヨウジウオをくわえて水面に戻ってきたヨーロッパヒメウ

加速度計によって,飛行中の羽ばたき周波数を連続的に測定できます.餌場まで飛んでいき,何度か潜水を繰り返した後,巣に戻る,あるいは,次の餌場に移動して再び潜水するといったことをヨーロッパヒメウは1日中繰り返しています.餌捕獲によって体重が増加すると,捕獲前に比べて高周波で羽ばたかねばなりません.理論的な予測に従うと,羽ばたき周波数は体重の平方根に比例するはずです.この理屈にしたがって,各個体の飛行毎の体重を計算し,その差から,獲得餌量を見積もることができました.1回の採餌旅行における体重増加は,マイナス30g(餌が捕まらず糞を排出したため体重が減ったと解釈できる)から最大 260gまでの値をとりました(n=16 birds).この値は,胃内容物を直接採集するやり方で測定された過去の知見(8~208g)に良く一致します.1回の採餌旅行による獲得餌量は,不思議なことに餌捕りに直接関連すると思われる総潜水時間とは無関係で,総飛行時間と正の相関関係になりました(図5).つまり,短時間しか飛ばない時の獲得餌量は少なく,長時間飛んだ時の獲得餌量が多かったのです.

図5:1回の採餌旅行で獲得した餌量と,総潜水時間(a)および総飛行時間(b)との関係

プロットの色と形は各個体を表す

 

(3)意義と展望

 動物搭載型の各種データロガーを用いて,海洋に生息する魚類・爬虫類・鳥類・哺乳類を調べるやり方をバイオロギング手法といいます.新しい装置が次々に開発され,得られるデータの解析手法を工夫することにより,「人の視界や認識限界を超えた現場において,動物自身やそれを取りまく周辺環境の現象を調べること」が可能となりました. 

 現在,国際沿岸海洋研究センターがある岩手県大槌町の周辺海域においても,オオミズナギドリ・ウミガメ・マンボウのバイオロギング研究が進められています.研究の舞台は世界中に広がっており,南極(ペンギン)・北極(アザラシ)・中国(チョウザメ)・ハワイ(シュモクザメ)において国際共同研究が進行中です.



参考文献 


1. Watanuki Y, Takahashi A, Daunt F, Sato K, Miyazaki N, Wanless S (2007) Underwater images from bird-borne cameras provide clue to poor breeding success of shags in 2005. British Birds 100, 466-470. 

2. Watanuki Y, Daunt F, Takahashi A, Newell M, Wanless S, Sato K, Miyazaki N (in press) Microhabitat use and prey capture of a bottom feeding top predator, the European shag, as shown by camera loggers. Marine Ecology Progress Seriese. 

3. Sato K, Daunt F, Watanuki Y, Takahashi A, Wanless S (2008) A new method to quantify prey acquisition in diving seabirds using wing stroke frequency. Journal of Experimental Biology 211: 56-65. 

4. 佐藤克文 (2007) ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ.光文社新書

研究トピックス