東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第2章 海洋研究所の活動の展開と柏キャンパスへの移転

2-6 海洋研究所の移転

2-6-2 柏移転準備の開始

2005年度に入り,本所の移転先は柏キャンパスとしてはどうかという小宮山宏総長の提案が伝えられた.7月に開かれた本所教授会懇談会で,白鳳丸と淡青丸が学外機関へ移管されたという状況の変化を踏まえて,移転について再検討することとなり,各分野1名の委員によって移転委員会が構成された.同年10月の教授会では,寺崎誠所長から総長提案についての説明を受け,将来構想と移転に関する所としての考え方に基づいて,所長が総長と折衝することが承認された.11月には,本学本部平野財務課長と依田資産課長が来所して,中野キャンパスの本所敷地を処分して本所を柏キャンパスへ移転させる計画案を説明した.移転先候補地が検見川,西千葉,柏と二転三転したこと,研究船が移管されて間もない中で移転先を臨海の西千葉キャンパスから内陸の柏キャンパスへ変更することに対する戸惑いがありながらも,本所教授会は2005年11月に,移転先候補地を柏キャンパスとすることを承認した.

教授会での決定を受けて,12月には本部計画課が,「海洋研究所が柏キャンパスへ移転する際の計画面積15,000m²について,現有施設の状況を踏まえつつ,必要諸室の設置の可能性」を示した.15,000m²という計画床面積は,旧国立大学時代の基準面積と照らし合わせると約75%しかないため,100%水準にすることができないのかとの話し合いが本部との間でなされた.しかし,文部科学省の確認を得たこの計画面積の変更は難しいとのことであったので,やむを得ずこの条件で将来構想委員会や移転委員会での検討を進めることになった.また年明け2006年1月には教職員約40名が参加して柏キャンパス視察会も行われた.2006年2月の移転委員会では,海洋研究所の柏キャンパス移転に関する2008年度概算要求の準備が開始された.並行して,柏キャンパス各部局による「柏国際キャンパス理念と具体像に関するワーキンググループ」では,海洋研究所の柏キャンパス移転の整合性に関する検討が行われ,2006年5月には本学の「新キャンパス等構想推進室会議」はこのワーキンググループによる柏キャンパスプランの報告を了承した.

このワーキンググループが作成したキャンパスプランは,本所の柏キャンパスへの移転について,次のように述べている.

国際性,先端性,学際性を特徴とする海洋研究所が,その移転先を柏キャンパスに設定して同キャンパスに加わることは,上述のような柏キャンパスの理念の実現に大きな貢献をするものと考えられる.ことにフィールド研究を一つの重要な柱にしている海洋研究所の参画が,柏キャンパスにもたらす学問の多様性増大のインパクトは大きいものがあろう.その参画により,柏キャンパスは.海洋・地球・生命に直接的に接するための手段・技術を手にし,これまでになかった多次元的アプローチが可能になるとともに,学問のパースペクティブを格段に広げることが期待される.

2006年8月には,柏キャンパス内の本所研究棟の位置に関する検討が始まり,9月に行われた「柏キャンパス内の海洋研位置に関する柏部局長会議打合せ」で,キャンパス東端に位置する総合研究棟北側のA案・B案と,キャンパス西端のC案が提示された.本所では,検討の結果,C案を採用することとした.2006年10月,本所と本部施設部の意見交換会(移転会合)が始まった.2007年1月には,柏地区キャンパス開発・利用計画要綱の改正が本学本部の役員会で承認され,2007年2月にはそれを具体化した柏地区キャンパス整備計画概要がキャンパス計画委員会柏地区部会の承認を経て,本所の柏キャンパス移転は全学的に承認された.

2007年3月に「第1回(海洋研究所)総合研究棟施設基本計画等策定ワーキンググループ」が開催された.その座長である西尾茂文理事から,本学としては海洋研究所施設整備をPFI(Private Finance Initiative)方式の事業として提案して評価を受ける予定であることが説明された.PFI方式とは,民間活力を公的機関の施設整備に用いることをねらいとして小泉内閣が推進した方式である.新領域創成科学研究科の環境棟施設整備が手本とされたが,PFI方式導入当初に整備された環境棟とは違って,本所の施設整備を計画する時点ではすでにPFI方式推進のための政府補助はなく,特に建物竣工後の維持管理費がすべて部局負担とされる点に,本所としては大きな不安があった.一方,従来の方式の場合には予算が数年度に分けて付けられることが多いため,移転完遂には数年を要することが普通であるところを,今回の方式では一気に移転を終えることができるという利点があった.そこで,本所としては上記弱点を極力小さくすることに留意しつつ,このPFI方式による施設整備を進めることとした.床面積を約15,000m²に制限されたことによって,観測機器の整備保管と標本の保管に不十分な設計となることを避けるため,研究棟予定地北側に整備する観測機器棟の一部を暫定的に標本庫とすることになった.