東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第2章 海洋研究所の活動の展開と柏キャンパスへの移転

2-1 海洋研究所の研究組織の充実

2-1-2 大槌臨海研究センターから国際沿岸海洋研究センターへの改組

大槌臨海研究センター(以下,大槌センター)は海洋研究所の附属施設として1973年4月に岩手県大槌町に設置され,沿岸の物理学,化学,地学,生物学,水産学とそれらの境界領域を総合的に研究し,全国共同利用施設として沿岸海洋学の研究拠点の役割を担った.

大槌センターにおける環境研究は国内外に注目され,岩手県-国際連合大学-本所による海洋環境国際共同研究事業(1998~2006年)へと発展した.この事業は大学,地方自治体,国際機関が共同して海洋環境問題に取り組むユニークなものであった.大槌センターはこの事業の中核的組織として三陸沿岸域をモデル水域とした海洋環境研究を活発に展開するとともに国際ワークショップ「海洋環境」を1998年10月,2000年12月,2001年10月の3回にわたって大槌町や釜石市で開催した.3回の国際ワークショップにはアジアや南太平洋の13カ国から合計40名の研究者が参加した.さらに2002年7月には15カ国から約30名の研究者を招聘して国際会議「人間と海―沿岸環境の保全」を大槌町と盛岡市で開催した.

大槌センターの共同利用研究の実績[➡資料2―2―2―12―2―2―2]と海洋環境研究を中心とする国際的活動は高く評価され,設立30周年を迎えた2003年4月には国際沿岸海洋研究センターへの改組拡充が認められた.それまでの教授1,助教4という限られた教員構成から沿岸生態分野(教授1,助教授1,助手1),沿岸保全分野(教授1,助教授1,助手1),地域連携分野(国内客員教員1,外国人客員教員1)の3分野,6名の教員(客員教員を除く)から構成されることになった.「沿岸生態分野」は沿岸域の環境特性や海洋生物の生態特性,「沿岸保全分野」は沿岸域の海洋汚染をはじめ,海洋生物の生活史や行動,沿岸域の物質循環などの研究,「地域連携分野」は沿岸環境に関する諸問題について国内外の研究機関と連携し共同研究を実施するとともに国際的ネットワークを通じた情報交換,あるいは政策決定者や地域住民との連携による問題解決への取り組みを行うことをミッションとし,いずれの分野もそれぞれ国際共同研究拠点として,ますます複雑化している沿岸海洋学を主導する役割を担った.