東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

序章 発足からの50年間をふりかえって

0-4 大気海洋研究所の小史

0-4-3 設立から現在まで(2010年4月~2012年3月)

(1)開所に関するイベント

2010年4月1日に大気海洋研究所の開所式を柏キャンパスの新研究棟(大気海洋研究棟)玄関にて開催し,西田睦所長らによるテープカットを行った.

同年7月に東京大学大気海洋研究所設立・新研究棟竣工披露式典を新研究棟で行った.本学を代表して濱田純一総長によるあいさつの後,坂本森男千葉県副知事,倉持隆雄文部科学省審議官,加藤康宏海洋研究開発機構理事長の祝辞があった.

(2)大気海洋研究所の組織構成

大気海洋研究所の研究,共同利用・共同研究の推進にかかわる組織は海洋研究所,気候システム研究センターの組織から次のように変化した.

海洋研究所と気候システム研究センターから大気海洋研究所への組織の変化
気候システム研究センター(2010年3月)
気候モデリング研究部門 気候システムモデリング研究分野
大気システムモデリング研究分野
海洋システムモデリング研究分野
気候モデル比較研究分野
気候変動現象研究部門 気候変動研究分野
気候データ総合解析研究分野
気候水循環研究分野

海洋研究所(2010年3月)
海洋物理学部門 海洋大循環分野
海洋大気力学分野
海洋化学部門 海洋無機化学分野
生元素動態分野
海洋底科学部門 海洋底地質学分野
海洋底地球物理学分野
海洋底テクトニクス分野
海洋生態系動態部門 浮遊生物分野
微生物分野
底生生物分野
海洋生命科学部門 生理学分野
分子海洋科学分野
行動生態計測分野
海洋生物資源部門 環境動態分野
資源解析分野
資源生態分野
海洋研究連携分野 生物圏環境学分野
  海洋アライアンス連携分野
国際沿岸海洋研究センター 沿岸生態分野
沿岸保全分野
地域連携分野
海洋科学国際共同研究センター 企画情報分野
研究協力分野
先端海洋システム研究センター(2010年3月時限満了) 海洋システム計測分野
海洋システム解析分野
  観測研究企画室

大気海洋研究所(2010年4月~     )
気候システム研究系 気候モデリング研究部門 気候システムモデリング研究分野
大気システムモデリング研究分野
海洋システムモデリング研究分野
気候モデル比較研究分野
気候変動現象研究部門 気候変動研究分野
気候データ総合解析研究分野
気候水循環研究分野
海洋地球システム研究系 海洋物理学部門 海洋大循環分野
海洋大気力学分野
海洋変動力学分野(旧海洋システム計測分野から)
海洋化学部門 海洋無機化学分野
生元素動態分野
大気海洋分析化学分野(旧海洋システム計測分野から)
海洋底科学部門 海洋底地質学分野
海洋底地球物理学分野
海洋底テクトニクス分野
海洋生命システム研究系 海洋生態系動態部門 浮遊生物分野
微生物分野
底生生物分野
海洋生命科学部門 生理学分野
分子海洋生物学分野(旧分子海洋科学分野)
行動生態計測分野
海洋生物資源部門 環境動態分野
資源解析分野
資源生態分野
  研究連携領域 生物海洋学分野(旧生物圏環境学分野)
海洋アライアンス連携分野
国際沿岸海洋研究センター 沿岸生態分野
沿岸保全分野
生物資源再生分野(2012年4月設置予定)
地域連携分野
国際連携研究センター(旧海洋科学国際共同研究センター) 国際企画分野
国際学術分野
国際協力分野
地球表層圏変動研究センター(新設) 古環境変動分野(新設)
海洋生態系変動分野(新設)
生物遺伝子変動分野(新設)
大気海洋系変動分野(新設)
共同利用共同研究推進センター(新設) 研究航海企画センター(新設,観測研究企画室から)
観測研究推進室(新設,観測研究企画室から)
陸上研究推進室(新設)
沿岸研究推進室(新設)

海洋研究所の6部門は海洋地球システム研究系,海洋生命システム研究系の2つの研究系に,気候システム研究センターの2部門は気候システム研究系に組織されることになった.大気海洋研究所の研究組織は3つの研究系(8つの研究部門),研究連携領域,3つの研究センターより構成された.

研究センターのうち,海洋科学国際共同研究センターは国際連携研究センターに名称変更された.地球表層圏変動研究センター(以下,変動センター)が,海洋研究所と気候システム研究センターの統合により得られる相乗効果を発揮させる場として,新設された.変動センターは古環境変動分野,海洋生態系変動分野,生物遺伝子変動分野,大気海洋系変動分野の4分野より構成された.時限により使命を終えた先端海洋システム研究センターの海洋システム計測分野の教員4名は海洋地球システム研究系の新設分野である海洋変動力学分野と大気海洋分析化学分野にそれぞれ2名ずつ配置換えとなった.分子海洋科学分野は分子海洋生物学分野に名称変更された.海洋研究連携分野の生物圏環境学分野は生物海洋学分野に名称を変更された.生物海洋学分野と海洋アライアンス連携分野は研究連携領域を構成した.研究系,研究部門,分野の理念は第5章を参照されたい.

共同利用・共同研究のための支援組織として新設された共同利用共同研究推進センターは研究航海企画センター,観測研究推進室,陸上研究推進室,沿岸研究推進室より構成された.

(3)大気海洋研究所の活動

海洋研究所と気候システム研究センターが行ってきた研究教育,共同利用・共同研究,社会貢献に関する活動は,大気海洋研究所になってもいっそう活発に行われている.新たなトピックスとして次の点が挙げられる.本所の広報活動の強化のために,2010年4月から特任専門職員1名を採用した.本所ニュースレター『Ocean Breeze』の第1号を2010年7月に,2012年3月の現在までに計7号を発行した.また,本所ホームページは著しく充実したものとなった.さらに,海洋や大気に関わる基礎的・萌芽的研究および地球表層圏の統合的理解の深化のための学際的研究に関する公募型共同研究事業である「学際連携研究」を新設し,2011年から公募を開始した.

所の運営に関しては,学問研究と教育の発展に不可欠な自由な発想を尊重するとともに法令遵守や省エネルギーに配慮するとともに,構成員や外部の声を反映しつつ所長の適切なリーダーシップのもとに,透明で迅速な運営を行うとした(「大気海洋研究所の基本理念・基本目標・組織の基本構想」).そのために,2010年度より所長,副所長2名,所長補佐2名よりなる所長室を設置した.「系長センター長会議」を新設し,所内の重要議題に関する研究系や各センターの意見の調整を行うようにした.

(4)東日本大震災への対応と復興

国際沿岸海洋研究センターの被災

2011年3月11日14時46分,宮城県牡鹿半島沖でマグニチュード9.0の巨大地震が発生し,東北地方太平洋沿岸域は広く震度6強~6弱の激しい揺れに見舞われるとともに,その約30分後にはかつてない巨大な津波に襲われた.岩手県大槌湾の湾口に近い場所に立地していた国際沿岸海洋研究センター(以下,沿岸センター)の研究棟は3階の窓付近まで水没した.「弥生」はじめ3隻あった調査船はいずれも流出し,すべての研究設備が全壊,流失あるいは使用不能となった.このように沿岸センターは甚大な被害を受けた.一方,教職員,学生,共同利用研究者に人的被害がなかったのは幸いであった.

震災対応

3月11日の震災発生直後に,所長を本部長とする本所の災害対策本部を設置した.4月20日に同本部を解散するまで,本所は8回の現地派遣,自宅をなくした職員の宿舎確保,沿岸センターメンバーの柏キャンパスでの暫定居室の決定などの必要な措置を次々に実施していった.3月16日朝,本学は早速に医薬品を積んだ緊急車両を本郷から出発させた.本学は,濱田純一総長の沿岸センター視察,救援・復興支援室設置など,復興支援体制を整えていった.

復興への取り組み

4月20日に沿岸センター復興対策室を設置して以来,本所は,沿岸センター復興準備室の設置,水道・電話・インターネットの復旧,仮設トイレ設置,瓦礫撤去,三陸沿岸域復興研究の開始,新調査船「グランメーユ」と「赤浜」の進水,共同利用研究の再開,外来研究員の年度途中の再募集,新領域創成科学研究科海洋環境臨海実習の実施,地域の漁業者の要請に応じた調査報告会の開催,沿岸センターシンポジウムの開催,観測機器類の購入・整備などに取り組んできた.本学は本部救援・復興支援室に遠野分室を,沿岸センター復興準備室に救援・復興支援室大槌連絡所を,東大基金に「沿岸センター活動支援プロジェクト」を設置した.2012年3月,大槌町において「東京大学と大槌町との震災復旧及び復興に向けた連携・協力に関する協定書」調印式が行われた.

震災対応研究航海

東日本大震災による甚大な津波被害と福島第一原子力発電所の事故のため,学術研究船白鳳丸・淡青丸の2010年度の残りの航海は中止を余儀なくされ,白鳳丸は文部科学省の「海域モニタリング計画」に基づき2011年3月22日から27日まで福島沖合で緊急調査を実施した.研究船共同利用運営委員会の了解のもと,2011年度の学術研究船の年間航海計画を一部変更して,震災対応航海を組むことを決めた.2011年4月,地震のメカニズム,放射性物質の拡散,津波による生態系撹乱という3つのテーマについて震災対応航海の公募を開始した.研究船運航部会の審査を経て応募のあった11件全件が採択された.試料採集や観測点変更で協力する震災協力航海が9航海245日(淡青丸4航海,白鳳丸5航海)にのぼった.淡青丸の震災対応航海が6航海計45日間実施された.日本海洋学会などの学界や両船の運航を行っている海洋研究開発機構から真摯な支援を得た.

復興に向けた研究活動

震災直後に「大槌湾を中心とした三陸沿岸復興研究」という所内プロジェクトが発足し,様々な角度から地震や津波が海洋生態系に及ぼした影響を明らかにするための研究が行われてきた.また,現在も震災後の生態系や流動環境の変化を追跡するための研究が実施されている.東北の沿岸域では,本所以外にも多くの研究機関や研究者が様々な視点からの震災の影響に関する調査研究を実施している.

津波からの復興事業として2011年度から開始された「東北マリンサイエンス拠点形成事業」をはじめ,今後多くの研究予算がこの海域の調査に投入されることになろう.沿岸センターには,地震・津波による撹乱を受けた海洋生態系の二次遷移過程と資源生物の生産機能の復元過程の解明を目的とした「生物資源再生分野」が本学の支援のもとに2012年4月に新設される予定である.

(5)淡青丸の代船建造

現在の2代目淡青丸は1982年に竣工し,2012年で建造から30年に達し,一般的な海洋調査・研究船の耐用年数とされる約20年を大きく超えている.海洋研究所は1997年から代船について検討を進めてきた.

2004年4月,白鳳丸・淡青丸が海洋研究開発機構(以下,機構)に移管された.移管時の協定書では,両船の代船は機構において建造し,その仕様に関しては本所に設置される研究船共同利用運営委員会で審議することとなっていた.2005年8月,同委員会は「淡青丸代船構想」最終案を機構に提出した.2009年度,機構は,淡青丸代船として,次世代沿岸研究船建造の予算要求を提出したが,予算化には至らなかった.

2011年3月11日の東日本大震災による被害への対応と中・長期的復興のための大規模な予算再編措置がとられ,海洋関連施策に関わる平成23年度第三次補正予算の中で「東北海洋生態系調査研究船」が認められた.また,この船は,淡青丸後継船の性格も有する.震災域の生態系調査を当面の主要なミッションとするものの,淡青丸と同様,学術研究船として共同利用・共同研究の枠組みで運航していくこととされている.ただし,母港を東北地方に置くこと,またそのミッションにふさわしい新たな船名をつけることがその条件とされた.