東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

序章 発足からの50年間をふりかえって

0-3 気候システム研究センターの小史

0-3-1 設立までの経緯(~1991年3月)

「気候モデルによる気候システムに関する研究を行う」ことを目的とする東京大学気候システム研究センターは1991年4月に設立された.以下に設立までの経緯について述べる.

1963年,気象学研究の発展と研究体制についての議論があり,当時アメリカの国立大気科学センター(National Center for Atmospheric Research, NCAR)では航空機や大型コンピュータを用いた研究が行われており,NCARのような大気物理研究所の設立が必要とされた.研究所設立案は日本気象学会を経て日本学術会議に提案され,1965年に政府に勧告された.その後,多くの方面の努力にもかかわらず,研究所そのものは実現されなかった.

1980年代に入り,オゾンホールや地球温暖化などの地球環境変動が世界的に大きな問題として顕在化してきた.他方,固体地球科学の領域においては,地球物理学と地質学が一体となって地球内部の構造や現象を総合的・統一的にとらえる観点が進み,さらに他の惑星を含む地球惑星科学へと発展する機運が高まり,また磁気圏・宇宙空間科学の領域でも太陽地球系科学研究所設立を含む研究体制の強化が緊急課題となっていた.そこで文部省測地審議会では,1989年「地球科学の推進について―地球科学の現状と将来」と題する建議を行った.その基礎として科学研究費により「日本における地球科学の基礎研究の在り方に関する総合的研究」が行われたが,その中で,気象学・海洋物理学・陸水雪氷学にまたがる最重要課題として,気候変動メカニズムの解明と人間活動による気候変化の研究が取り上げられた.一方,同時並行して文部省学術審議会では,社会的重要性を持つ緊急課題に総合的に対応する方策として新プログラム方式が提案され,その最初のひとつとして「アジア太平洋域を中心とする地球環境変動の研究」が選定された.その中の課題3として「気候モデルの開発及び気候変化の数値実験」があり,新プログラムの特色である研究の場の整備として気候システム研究センターの設立が計画された.気候モデリングで実績のあった東京大学理学部を中心としてセンターを設立することになり,1991年4月に10年時限の気候システム研究センターが発足した.本書の「大気海洋研究所の50周年に寄せて」を読むと,松野太郎初代センター長はじめ関係者の並々ならぬ尽力の様子をうかがい知ることができる.