東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第2章 海洋研究所の活動の展開と柏キャンパスへの移転

2-6 海洋研究所の移転

2-6-3 要求水準書の作成

本所の施設整備に用いられたPFI方式では,建物の仕様書を示して入札するのではなく,建物の性能を詳細に規定した要求水準書を作成して入札にかける「性能発注」方式がとられた.そこで本所の移転委員会とその幹事会は,所内の様々な要望を聞きながら要求水準書を充実したものにする決意を固めた.2006年12月に,本所と本部施設部は,本所の移転に関する打ち合わせ会で,「東京大学(海洋研)総合研究実験棟施設整備事業要求水準書」(以下,要求水準書)の作成を開始した.本所の移転委員会幹事会と本所経理課および本部施設部は,新領域創成科学研究科環境棟の建造に深くかかわった建築学者の大野秀敏同研究科教授の助言を得つつ,設計業者を交えて要求水準書の作成を進めた.本所としては,建物内のスペース配置について,次のような点に注意を払った.ひとつは,研究室の配置である.2000年の組織改組で大部門化が行われたが,同一部門に属する研究室が別の棟にあるために,緊密な連携に不便があった.そこで,同一部門に属する研究室は同じフロアないし隣のフロアに置くこととした.また,共同利用研究所の施設として外部からの利用に供されることの多い講堂や図書室,あるいは事務室などは,外からアクセスしやすい1階と2階に集中させることとした.このような基本方針のもとに,各部門・分野および共通実験施設の要件をまとめた上で,約15,000m²の建物の空間配置案を設計業者に委託して作成し,要求水準書に盛り込んだ.13回にわたる打ち合わせ会の後,2007年6月に入札にかかる.地上7階建てRC造の約15,000m²の研究棟の充実した要求水準書ができ上がった.

要求水準書にある施設整備の基本理念は次の通りである.「本所の研究・教育活動の桎梏であった老朽化・狭隘化を抜本的に解決することを基本とし,本所がこれまでに推進してきた,先端的・学際的研究を発展させるための組織改革の効果を最大限に発揮できる質の高い研究環境を実現させる」.基本コンセプトとして,建物の外観は「柏キャンパス最西端に位置するアイ・ストップとしてふさわしく,同時に海の研究所の表情が感じられる立面構成と外装仕上げを持つ施設とすること」,建物の居住性としては「活発な研究教育活動の気配が感じられ,活気あふれる雰囲気を持つ空間とすること」,「講堂,会議室,講義室と,これらに連結するラウンジおよびホワイエには,学術集会,会議,講義を通して人と人が出会う空間としての雰囲気を作り出」すと記述された.