東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第2章 海洋研究所の活動の展開と柏キャンパスへの移転

2-2 新領域創成科学研究科への参画

新領域創成科学研究科は,全部局の協力のもと,1998年4月に新設された研究科である.既存の学問領域から派生する未開拓領域を研究教育の対象とし,「知の冒険」と「学融合」を基本理念としている.同研究科には3つの研究系(基盤科学,生命科学,環境学)がある.このうち,大気海洋研究所と関係の深い環境学研究系は1999年4月に設置された.この研究系は環境学の1専攻からなり,自然環境,環境システム,人間人工環境,社会文化環境,国際環境協力の5コースにより構成されていた.設立時の経緯から環境学は1専攻となったが,学内的には各コースが他の研究科の専攻に相当するものとして運営されることになった.

海洋研究所は,学際領域である海洋学の横断型展開を目指して同研究科に参画した.2001年4月,自然環境コース内に21名の本所教員よりなる海洋環境サブコースが設置された.このサブコースは海洋物理・海洋底環境学,海洋生態系・環境化学,海洋生命系・生物資源環境学の3研究協力分野からなり,海洋研究所のカバーする5つの専門領域(物理,化学,生物,地学,生物資源)のすべてを含んでいた.本所はより積極的に大学院教育に取り組むことになった.

2006年4月に環境学研究系の改組が行われ,各コースは専攻(計5専攻)になった.海洋環境サブコースは海洋環境学コースとなり,陸域環境学コースとともに自然環境学専攻を立ち上げた.この改組にあたり,海洋研究所教員4名(川幡穂高教授,芦寿一郎助教授,白木原國雄教授,木村伸吾助教授)は本研究科の協力講座教員から基幹講座教員に転換され,海洋環境学コースは地球海洋環境学,海洋資源環境学,海洋生物圏環境学の3つの基幹分野,海洋環境動態学,海洋物質循環学,海洋生命環境学の3つの研究協力分野で成り立つことになった.

この改組に関わる準備として,本所は2005年に新領域海洋環境コース設置委員会(新領域委員会)と新領域実務ワーキンググループを所内に設置した.自然環境学専攻管理運営教育業務検討ワーキンググループを通じて陸域環境コース教員と打ち合わせを続けた.概算要求の結果,特別教育研究経費として2006年度に42,100千円が採択された.これらを踏まえて以下の基本方針が決定された.

  1. 海洋環境学コースの基幹講座教員4名はひきつづき海洋研究所を本務地とし,ここで教育研究を行う.
  2. 海洋環境学コース基幹講座助手1名を採用する.したがって基幹講座教員を計5名とする.
  3. 海洋研究所に新領域関連の事務を担当する事務職員を確保する.
  4. 海洋環境学コース所属の大学院学生は海洋研究所で学生生活を送る.
  5. 海洋環境学コースの講義は海洋研究所で開講する.
  6. 遠隔講義システムを海洋研究所に設置して,柏キャンパスでの新領域講義を海洋研究所で受講できるようにする.

この基本方針のもと,2006年4月に助手として北川貴士が,事務スタッフとして渡辺由紀子が採用された.改組に伴い教授1名の純増が認められた.これより木村助教授は2006年11月に教授に昇任し,小松幸生を2008年4月に後任の准教授に迎えた.このように基幹講座教員定員は6名となった.本所は,海洋環境学コースの講義のために中野キャンパスA棟1階を改造し,大講義室を新設した.また,A棟1階110号室を新領域事務局の部屋として割り当てた.海洋環境を統合的に理解させることを意図したカリキュラムについても熱心に検討した.海洋環境臨海実習(大槌実習)として,国際沿岸海洋研究センターを基地として大槌湾での海洋観測・調査・実験を行うことを計画した.現在,海洋環境臨海実習は同センターの重要な教育活動の1つとなっている.

2007年,本所准教授(海洋環境学コース協力講座教員)による自然環境学専攻入試問題の漏洩が発覚した.2008年4月,東京大学は当該准教授に対して懲戒解雇の処分,当時の専攻長に対して減給の処分を行った.漏洩の原因として,漏洩に対する本人の認識が不十分であったことなど個人の資質に関することのみならず,組織的な問題点も指摘された.本所は新たに採用した教員の多くを同専攻の協力講座教員としてきた.このために,基幹教員数に対して協力・兼担教員の数がかなり多くなってきた.また,専攻運営や教育への理解や貢献の低い協力・兼担教員が少なからず存在したために,風通しの悪い,お互いの顔が見えにくい組織となっていた.この状況を改善するために,本所は海洋環境学コースの組織の見直し(縮小)を行った.見直しにあたり,本所教員に大学院生受け入れという教育上の権利とともに専攻運営に対する義務を果たす必要がある意識を高めることを意図して,海洋環境学コースに残る教員には専攻運営に積極的に協力する書面の提出を義務づけた.

2010年4月,大気海洋研究所として柏キャンパスに移転してから,海洋環境学コースの教職員・学生が抱えていた柏・中野キャンパス間移動の不便は解消した.自然環境学専攻コースゼミや各種イベントは大気海洋研究所でも行われるようになり,専攻運営の一体化が進んだ.