東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第2章 海洋研究所の活動の展開と柏キャンパスへの移転

2-6 海洋研究所の移転

2-6-4 大気海洋研究棟の建設と移転実施

2007年6月に本所研究棟施設整備の入札公告が行われた.この年は建築業界の談合による入札停止が相次ぎ,国土交通省のホームページには入札停止業者一覧が掲載されている有様で,果たして大手建設会社が応札できるかどうか危ぶまれた.また,おりしも北京オリンピック(2008年8月)の建設ラッシュのためもあって建設資材の大幅な高騰が起こる中で,10月に行われた開札の結果,複数の応札はあったが,東京大学施設部が提示した予定価格と建設業者による入札価格の間の乖離が問題となった.性能発注としての要求水準書に対する入札結果について,調整を行ったうえで2008年2月に清水建設グループ(清水建設,NTTファシリティーズ,大星ビル管理)が落札した.上記の乖離の中で,本所も大学本部も様々な工夫・努力を重ねて研究棟およびその施設の質を維持することに努めた.

落札事業者決定から8日後,本所と本学本部および事業者による海洋研総合研究棟(大気海洋研究棟)施設整備に関する関係者協議会が,西田睦所長(移転委員長)と丹沢広行本部統括長(施設・資産系)が出席して開催された.本協議会はこれを第1回として,海洋研究所移転委員会幹事会(渡邊良朗幹事長)と事業者の間で,2010年2月の竣工まで毎月定期的に行われた.並行して,設計のためのヒアリング説明会(2008年3月)以降,実施設計の具体化のために本所の研究室や実験施設の担当者と事業者の間で,実務者打ち合わせ会も頻度高く行われた.さらに研究室・実験施設以外の共通部分に関しても,幹事会メンバーと委員長は細部にまで注意深い検討を加えた.特に,移転準備開始にやや遅れて大気海洋研究所への改組拡充の議論が進行しており,その議論の結果をできるだけ取り込むことにも努めた.2010年度から加わった気候システム研究系などのスペースまで考慮することは難しかったが,共同利用共同研究推進センターの陸上研究推進室の主軸となる技術系職員の共同居室などは,この中で実現された.

こうした過程を経て,各研究室等の要望も要求水準書に記された内容とともに実施設計にきめ細かく盛り込まれていった.2008年8月から大気海洋研究棟本体の位置出し工事が始まり,11月に杭打ちが行われた.また,10月には倉庫基本設計ワーキンググループで,研究棟の北側に設置される観測機器・資料保管棟の設計が開始され,本所の独自予算によって,本体である研究棟とほぼ同時期の竣工を目指した.「東京大学(海洋研)総合研究棟施設整備等事業関係者協議会」は,2009年1月の第11回以降,柏キャンパスの現場事務所で行われた.2010年2月の第24回を最後にその任を終えた.70億円近い経費と様々なアイデア・労力が注ぎ込まれた大気海洋研究棟と海洋観測機器棟は,完了検査の後,2010年2月18日に本学に引き渡された.引き渡し直後から大型機器の柏キャンパスへの移転が開始され,3月に入って各研究室が順次移転し,3月末にはすべての研究部門・分野,研究センターが柏キャンパスへの移転を完了した.

なお,中野キャンパスにおける海洋研究所の跡地は,更地にされた後,附属学校のキャンパスの再配置がなされた上で中野区に売却され,防災公園となる予定である.