東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第2章 海洋研究所の活動の展開と柏キャンパスへの移転

2-6 海洋研究所の移転

2-6-1 柏移転前史

海洋研究所は,48年に及ぶ中野キャンパスでの研究・教育活動の後,2010年3月に柏キャンパスへ移転した.1962年の研究所設立以降,研究部門(現在の研究分野)や研究センターが順次新設され[➡0―2―2],すでに1980年代後半には研究所の狭隘化が問題とされていた.また東京都内の慢性的交通渋滞によって,研究船桟橋までの移動時間が長くなったことも問題視されていた.

そのような中,「多極分散型国土形成促進」が1988年1月に閣議決定され,同年4月に国土庁長官が文部大臣に対して,東京大学の附置研究所(生産技術研究所,物性研究所,海洋研究所)の地方移転を要請し,6月に本所は「横浜市への移転誘致の要請」を受けた.翌1989年5月に国土庁から文部省に3附置研究所の移転について再要請があり,東京大学総長に対する文部省からの協力要請を受けて,学内キャンパス問題懇談会の伊里座長は本所に対して,検見川総合運動場の一部を利用する移転の可能性検討を要請した(『海洋研究所将来構想に関する中間報告Ⅲ』1992).

1990年代に入って,本所の拡充・改組計画と並行して,検見川への移転計画が具体化された.拡充・改組後には約4万m²の床面積が必要と試算され,中野キャンパスの老朽化・狭隘化による閉塞状態を打開するために,新キャンパスへの移転が急務とされた(『海洋研究所の将来構想に関する中間報告Ⅳ』1995).この時点で新キャンパスに求められた要件は,①拡充・改組後の新組織に対応する機能性,②大規模施設群による強力な共同利用研究体制,③新設博物館を核にした社会に開かれたキャンパス,④研究船桟橋とのリンク,の4つであった.必要な共通研究施設として,タンデム加速器実験施設,電子計算機室,中央電子顕微鏡実験施設,放射性同位元素実験施設,遺伝子解析実験施設,クリーン実験施設,生物培養・飼育施設,水槽実験施設,コンテナラボ施設,無響・磁気遮蔽実験施設,地球物理実験孔が挙げられた.これによって,本所の新キャンパスへの移転の要件に関する,所としての意志決定がなされたのである.

2010年に柏への移転を完了した現時点から見ると,1995年時点で構想されていた新キャンパスに対する要求は,量的(建物床面積)には充足されたと言い難いものの,上記共通研究施設の諸項目の多くが現在稼働していることを考えると,研究所の性能としての要求の多くは柏キャンパスにおいて満たされたように思われる.

2001年春に本所が制作した「東京大学海洋研究所移転計画」は,前年に行われた6研究部門(海洋物理学,海洋化学,海洋底科学,海洋生命科学,海洋生態系動態,海洋生物資源),3研究センター(大槌臨海,海洋科学国際共同,海洋環境),2研究船(白鳳丸,淡青丸)体制への改組を受けて,改めて検見川キャンパスへの移転計画を詳細化し,所としての移転の決意を示すものであった.1981年に研究実験棟D棟までが完成して延べ床面積が10,880m²になって以降,海洋分子生物学部門,海洋科学国際共同研究センター,海洋環境研究センターが新設されたにもかかわらず,研究実験棟の新設がなかったために,狭隘化が著しかった.A~C棟では,実験機器や標本棚が廊下にあふれていた.プレハブE棟には海洋科学国際共同研究センターの研究室が設けられ,新設された海洋環境研究センターは,中野キャンパス正門東の守衛室を増・改築したF棟・FⅡ棟と称して研究室・実験室とせざるを得ない有様であった.A棟とB棟の間にはプレハブのG~I棟が設置されて,研究室,船舶職員室,講義室,会議室,セミナー室,実験室,海図室などとして使用され,キャンパス内のあちこちに鉄道コンテナが倉庫として置かれていた.中野キャンパスは,研究・教育活動上もまた安全衛生上も過飽和状態であった.

本所が,「東京大学海洋研究所移転計画」を作成して検見川移転の意志を固めたのと前後して,新キャンパスの候補地として生産技術研究所の西千葉実験所(西千葉キャンパス)が持ち上がってきた.2001年に国立研究所の多くが独立行政法人化し,それに続いて国立大学の法人化準備が進行する中で,西千葉キャンパスの有効活用という全学的な視点からの案であった.2000年に物性研究所が柏キャンパスへ移転しており,移転先として柏キャンパスという選択肢もあったが,研究船の定繋港としての千葉港へのアクセスという点から,海洋研究所は西千葉キャンパスを選択した.2003年12月16日に評議会が承認した「検見川・西千葉・柏Ⅱ地区キャンパス再開発・利用計画要綱」では,「西千葉キャンパスについては,既設の生産技術研究所附属千葉実験所を再編し,同キャンパス内に海洋研究所を移転する」とされた.具体的には西千葉キャンパスのほぼ中央部に,共用・高層棟用地,その東と西に低層実験棟用地を配置する計画であった.「検見川・西千葉・柏Ⅱ地区キャンパス再開発・利用計画概要」(2004年2月)では,本所が部局として要望する面積は基準面積19,900m²,総合研究・実験棟22,300m²,全体で31,900m²となっていた.