東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第5章 研究系と研究センターの活動

5-7 地球表層圏変動研究センター

地球表層圏変動研究センター(以下,本センター)は,2010年4月に海洋研究所と気候システム研究センターが統合して大気海洋研究所が設立された際,両者の研究資産を持ち寄ってシナジーを生み出すメカニズムとして設置された.その目的は,研究系の基礎的研究から創出された斬新なアイデアをもとに,次世代に通ずる観測・実験・解析手法と先端的数値モデルを開発し,過去から未来までの地球表層圏システムの変動機構を探求すること,また,既存の専門分野を超えた連携を通して新たな大気海洋科学を開拓することである.センターの研究課題と研究体制については旧2部局が統合される準備過程から検討され,その結果,古環境変動分野(横山祐典准教授(兼任)),海洋生態系変動分野(羽角博康准教授(兼任)),生物遺伝子変動分野(木暮一啓教授,副センター長),大気海洋系変動分野(中島映至教授,センター長)の4分野体制でスタートした.さらに2011年5月に海洋生態系変動分野准教授として伊藤幸彦が,2011年7月に生物遺伝子変動分野講師として岩崎渉が,2011年10月に大気海洋系変動分野教授として佐藤正樹が着任した.これと並行して文部科学省特別経費事業「地球システム変動の統合的理解――知的連携プラットフォームの構築」が認められ,2010年から6年間実施されることになり,この中で観測・実験による実態把握・検証および高精度モデリングの連携,多分野の知識のモデル化・データベース化,客観的な共通理解を促進するための知的連携プラットフォームの構築を行っている.2012年4月には尾崎和海(古環境変動研究分野),平池友梨(海洋生態変動研究分野),平瀬祥太朗(生物遺伝子変動分野),久保川陽呂鎮(大気海洋計変動分野)の4名の特任研究員が配置され,研究体制が整う予定である.また,事務補佐員として丸山佳織,浅田智世,小泉眞紅,技術補佐員として山田裕子,司馬薫が研究支援を行っている.

地球表層圏変動センターの研究戦略
地球表層圏変動センターの研究戦略

(1)古環境変動分野

本分野では主に古気候の復元と解析,そのモデリングを中心とした古環境にかかわる変動気候の解明を行っている.古気候復元解析のために過去の情報を記録したアーカイブの高精度化学・同位体分析,それと関係した全球モデリングなどが重要な研究課題である.川幡は表層物質循環,横山は表層環境動態を中心に研究を進めている.陸上や大気の古気候情報を記録している地球科学的アーカイブについて,化学分析を行うことで,高精度のデータ抽出と解析を行い,グループ内外の研究者とともにモデルを使った研究も行っている.2012年からは特任研究員として尾崎が加わり,過去の大気組成変化や環境変遷についてのモデリングについても,3名で協力しながら取り組んでいる.

(2)海洋生態系変動分野

本分野では海洋生態系の観測とモデリングの融合を通して,海洋生態系の構造を理解し,海洋生物資源の動態および気候・生態系相互作用を解明することを目指している.海洋資源変動,気候・生態系相互作用,炭素循環とそれに関わる生物活動を精査するプラットフォームとしての新しい海洋生態系モデル構築が最重点研究課題であり,羽角,伊藤,平池が連携して取り組んでいる.羽角,平池は生態系モデル要素としての高解像度海洋循環モデリングおよび低次生産モデリングを,伊藤は所内各分野と連携した観測およびモデリングとの知見の相互フィードバック,モデル要素の結合を進めている.

(3)生物遺伝子変動分野

本分野では生物遺伝子解析技術の急激な発展を背景に,環境・生態系オーミクス(ゲノミクス,トランスクリプトミクス,メタゲノミクス),ゲノム進化解析,バイオインフォマティクスなどに関わる新たな解析手法の開拓,遺伝子情報に基づいた生命と海洋環境との相互作用およびそのダイナミクスの解明を目指して研究を行っている.2011年12月からは木暮を研究代表者,岩崎を主たる共同研究者とするCRESTプロジェクト「超高速遺伝子解析時代の海洋生態系評価手法の創出」が本分野主導のもと,所内の多くの研究分野の協力を得る形で開始され,既存の専門分野を超えた連携による新たな海洋生態系解析手法の開発に取り組んでいる.2012年度は,平瀬のほか吉澤晋,井上健太郎,町山麻子,楊靜佳が本分野の特任研究員として研究を推進する予定である.

(4)大気海洋系変動分野

本分野では大気海洋系の観測と高分解能モデリングを通して,大気海洋系の物理化学構造や変動機構の解明を行っている.中島は大気海洋系に関わる大気化学,雲・エアロゾル相互作用,汚染物質の物質同化に関する研究に取り組み,モデルへの取り込みを試みている.また,国際的プロジェクトとしてUNEP/Atmospheric Brown Project-Asia(大気の褐色雲―アジア)プロジェクト,欧州宇宙機関とJAXA共同のEarthCARE衛星ミッションなどを牽引している.佐藤は大気大循環力学,全球非静力学モデリング,数値スキームの開発や領域モデリング,台風・季節内変動等の熱帯の雲降水システム,雲解像モデルによる気候研究,衛星データと雲解像モデリングの融合研究などを進めている.分野横断的な研究として,高分解能大気海洋結合モデルの開発,海洋微細構造観測・生態系のモデルへの取り込みを進めている.