東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第5章 研究系と研究センターの活動

5-6 国際連携研究センター

1994年6月に海洋科学国際共同研究センターが発足した.海洋物理部門教授の平啓介がセンター長を1997年6月まで兼務した.同センターは企画情報分野(教授1,助教授2)と研究協力分野(教授1,助教授1)から構成されていた.1994年12月,海底堆積部門教授であった平朝彦が企画情報分野教授に,プランクトン部門助教授であった寺崎誠が研究協力分野教授に着任した.1995年10月に北海道大学助教授であった日比谷紀之が企画情報分野助教授に,1997年4月に北海道東海大学教授であった植松光夫が研究協力分野助教授に,1997年4月に海洋生物生理部門助手であった金子豊二が企画情報分野のもう一人の助教授として着任し,教授2助教授3の体制が整った.1998年11月に日比谷が理学系研究科教授へ転出後,2000年4月に海洋保安局水路部企画課補佐官であった道田豊が企画情報分野助教授に着任した.2002年3月に平朝彦は海洋科学技術センターへ転出し,2003年に国際沿岸海洋研究センター教授であった宮崎信之が企画情報分野教授に転任した(2010年3月に定年退職).2003年4月,金子が農学生命科学研究科助教授に転任し,同年4月に寺崎は国際沿岸海洋研究センター教授に転任した.2004年4月に植松が研究協力分野教授に昇格した.2005年1月,蓮本浩志が企画情報分野講師に着任し,2006年3月に定年退職した.2006年4月研究協力分野に朴進牛,企画情報分野に井上広滋がそれぞれ助教授に着任した.2007年11月,道田は国際沿岸海洋研究センター教授に転任した.この間,寺崎(1997年7月~2002年3月),行動生態計測分野教授の塚本勝巳(2002年4月~2006年3月),植松(2006年4月~2010年3月)がセンター長を務めた.

2010年4月の改組により,国際連携研究センターが発足した.本センターは国際企画分野(教授1),国際学術分野(教授1),国際協力分野(教授1)から構成された.また大気海洋研究所准教授3名が分野を特定せずに兼務准教授となった.2010年4月,国際企画分野教授に道田,国際学術分野教授に植松,国際協力分野教授に浮遊生物分野教授であった西田周平が着任した.2010年4月,分子海洋生物学分野准教授の井上,海洋底地球物理学分野准教授の朴,大気システムモデリング分野准教授の今須良一が兼務准教授として着任した.

平朝彦は,国際センター着任後も海洋底科学部門とくに海洋底地質学分野と研究面で緊密な連携を取り,日本南岸ばかりでなく世界的規模で地球史に関する研究を推進した一方,海洋研究所が窓口を務めていた国際深海掘削計画(ODP:Ocean Drilling Program,1985~2003年)の国際的な対応や,国産の深海掘削船を建造して国際深海掘削計画に投入する深海地球ドリリング計画の推進役を務めた.国際センター在任中に修士の学位を取得したのは山口耕生,二宮悟,氏家由利香,平野圭司,Yudi Anantasena,博士の学位を取得したのは大河内直彦,金松敏也,玄相民,朴進午,池原実,阿波根直一,森田澄人,大森琴絵,江口暢久,木元克典,多田井修,浅田昭である.

日比谷は,長期の気候変動をコントロールしている深層海洋大循環の強さや空間パターンを解明する上で不可欠となる鉛直乱流拡散強度のグローバル分布に関する研究を理論と観測の両面から進めた.その結果,元々は大気擾乱や潮汐から海洋に与えられたエネルギーが,強い緯度依存性を持つparametric subharmonic instabilityという内部波の3波共鳴機構によって乱流スケールまでカスケードダウンしていることを突き止め,「強い鉛直乱流拡散(乱流ホットスポット)が緯度20°~30°にある海嶺や海山の近傍に局在している」ことを世界に先駆けて予測するという成果をあげた.

金子は,シロサケやティラピアの鰓には淡水型と海水型の2型の塩類細胞が存在するが,塩類細胞のイオン輸送とその機能調節に関わると考えられるNa,K-ATPaseおよびコルチソル受容体に対する特異的抗体をプローブとして用いることで,塩類細胞のイオン輸送機能とその機構を解明するとともに,塩類細胞の機能的分化の過程を明らかにしてきた.国際センター在任中に修士の学位を取得したのは加藤扶美,服部徹,博士の学位を取得したのは加藤扶美である.

道田は,海洋表層の流速場の構造とその変動に関する研究を進めた.北太平洋亜寒帯循環の表層海流場の変動について漂流ブイのデータ解析によって研究したほか,特に沿岸域では,駿河湾,大槌湾,釜石湾,さらにはタイランド湾などを対象として,沿岸域における渦拡散係数の観測による評価や大槌湾の循環の季節変化など海洋物理学分野の研究に加え,流れ藻の集積機構など海洋生物と海流場の関係に関する研究を行った.さらに,2007年の海洋基本法の成立以後は,海洋情報管理に関する調査研究などを行った.この間に修士の学位を取得したのは館岡篤志,稲田真一,青柳大志,瀧本良太,石神健二,浅野啓輔,中嶋理人,井口千鶴,井上朋也である.

宮崎は,海洋科学国際共同研究センターに転任した2003年以降は,それまでの有害化学物質の海洋生物への影響等に関する研究に加えて,日本独自の手法によって国際的に海洋科学を主導する方向を目指した.こうして着手したのが,国立極地研究所の内藤靖彦教授らと行った「バイオロギング研究」である.国際沿岸海洋研究センターの佐藤克文准教授らと進めたこの研究は,鯨類など水生哺乳類,魚類,鳥類までを対象として,その生態の実態に迫る目覚ましい成果を挙げた.さらに,それら海洋生物の生理メカニズムや海洋環境モニタリングまで視野に入れた新しい科学として成長しつつある.国際センター在任中に修士の学位を取得したのは緑川さやか,渡辺佑基,高田佳岳,青木かがり,岡まゆ子,海老原希美,小糸智子,八木玲子,楢崎友子,召田圭子,香森英宜,青山高幸,辻野拓郎,松村萌,鈴木一平,博士の学位を取得したのは清田雅史,渡辺佑基,青木かがり,岡まゆ子,小糸智子,楢崎友子,シャイズワン・ザミール・ビン・ズルキルフリ,菊池夢美,河津静花である.

蓮本は,観測研究企画室で得られた長年の海洋観測作業や技術について『海洋観測マニュアル』として集大成し刊行したほか,CTDシステムと併用可能な蛍光式溶存酸素センサーを開発した.

西田は日本学術振興会拠点大学交流事業「沿岸海洋学」(2001~2010年)のプロジェクトコーディネータを宮崎教授から引き継ぎ,東南アジア・東アジアの沿岸海洋学に関する沿岸5カ国(インドネシア,マレーシア,フィリピン,タイ,ベトナム)と日本との多国間研究・教育事業を推進し,その成果の取りまとめに尽力した.また国際協力プロジェクト「海洋生物センサス」(Census of Marine Life:CoML)のフィールドプロジェクトである「全海洋動物プランクトンセンサス」(Census of Marine Zooplankton:CMarZ)の共同代表として,全世界の動物プランクトンの多様性に関する知見の拡充,整備に努めた.2011年からは,新たに採択された日本学術振興会のアジア研究教育拠点事業「東南アジアにおける沿岸海洋学の研究教育ネットワーク構築」(2011~2015年)のコーディネータとして上記「沿岸海洋学」プロジェクトで整備されたネットワークをさらに拡充すべく活動を続けている.本分野着任以前から継続している動物プランクトンの多様性に関する研究では,漂泳生態系の重要群であるCalanus属から従来未知の外分泌腺を発見し,その構造を明らかにした.また,2001年になって新たに黒海からの出現が報告されているカイアシ類の形態を精査した結果,本種が東アジア海域の固有種であることを明らかにし,バラスト水による人為的移入の可能性を指摘した.

井上は,海洋の様々な環境条件に対する生物の適応の分子メカニズムの研究を行った.具体的には,深海の熱水噴出域に生息する貝類の硫化水素無毒化機構,南極海の生態系を支えるナンキョクオキアミの環境塩分変動に対する適応機構,および東南アジアの汽水域に生息するメダカ近縁種の環境塩分変動や汚染物質に対する応答の研究に取り組んだ.ナンキョクオキアミの研究はオーストラリア南極局との共同研究である.また,メダカ近縁種の研究は東南アジア5カ国の研究者との共同研究であり,現地調査や各種セミナーを通じて現地の研究者の育成に貢献した.国際センター在任中に修士の学位を取得したのは藤ノ木優である.

寺崎は,浮遊生物学分野において,開発した開閉式多層プランクトン採集システム(VMPS)を深海曳航体に取り付け,動物プランクトンの定量採集に成功した.また,主にタイ湾,南シナ海を中心に仕事を進めている全球海洋観測システム(Global Ocean Observing System: GOOS)のSE(東南アジア)GOOSとの連携をはかり,西太平洋温帯域と熱帯域の生物生産,生態系汚染に関する比較共同研究を行った.南シナ海の珊瑚礁で,そこに生息する各種海洋生物の生物生産を明らかにし,採集方法の比較検定を行った.海水中のアンモニアをリアルタイムで検出する現場型自動連続計測装置を試作し,ブイとの一体化による海洋計測システムの実用化を計った.日本海の広範囲では冬季,夏秋季の動物プランクトン生物量,カイアシ類生物量,毛顎類生物量の水平分布,鉛直分布およびキタヤムシの摂餌生態を明らかにした.2001年度日仏海洋学会学会賞を受賞した.博士の学位取得者は,T. B. Johnsonである.

植松は,大気海洋化学を中心に研究に取組み,研究代表者として戦略的基礎研究推進事業「海洋大気エアロゾル組成の変動と影響予測(VMAP)」(1998~2003年)において海洋観測手段のひとつとしての「無人大気海洋観測艇」を開発,海洋大気観測とモデル化を進め,新世紀重点研究創生プラン(RR2002)「太平洋における炭素循環モデルの高度化(BIOCARBON)」(2005~2007年)で船上での渦相関法測定を進化させた.特定領域研究「海洋表層・大気下層間の物質循環リンケージ(W-PASS)」(2006~2010年)では船舶搭載用海洋大気観測システムを開発し,海洋大気組成の時空間変動を捉え,新しい境界領域研究分野を確立した.2004年度日本地球化学会賞,2009年度日本海洋学会賞,PICES 2011 Science Board Best Presentation Awardなどを受賞している.教育面では,修士号取得者は,笹川基樹,松葉亮子,神宮花江,宇井剛史,宇山悠紀子,早野輝朗,遠藤真紀,岩本洋子,近藤雅輝,吉田健太郎,井口秀憲,真野佑輝,目黒亜衣,博士号取得者は笹川基樹,大木淳之,中村篤博,岩本洋子である.

朴は,付加体の成長や海溝型巨大地震発生メカニズムの研究において南海トラフをフィールドとして,研究を取組んできた.3次元反射法地震探査データを用いた南海トラフ沈み込み帯の高精度地殻構造イメージングを行い,巨大地震断層の3次元構造と物性変化を明らかにしてきた.3次元反射法地震探査データと統合国際深海掘削計画(Integrated Ocean Drilling Program: IODP)データとの統合解析を行い,南海トラフ巨大地震断層に沿った物性の空間変化の解明に取組んでいる.

これまでにポスドクや外国人研究員として松本潔,皆川昌幸,宮田佳樹,成田祥,服部裕史,Frank Griessbaum,Dileep Kumar Maripi,古谷浩志,Nur Dian Suari,Richard Arimoto,Manmohan Sarin,近藤文義,William L. Millerが在籍した.

その他,過去に国際センターの事務や技術系職員として福井弘子,金原富子,木下千鶴,鈴木聖子,新井ますみ,有馬加代子,太田一岳,鈴木隆生,城口直子,古賀文野,関根里美,堂本真友子,洲濱美穗,西本路子,日下部郁美が支援してくれた.現在は成田祥,小林奈緒美,小林真純が研究支援を行っている.

2011年度の在籍者は以下の通りである.

〈国際企画分野〉D2:[新]井口千鶴,M1:[新]小家琢摩

〈国際学術分野〉D3:[農]鄭進永(韓国),D2:[農]スジャリー・ブリークル(タイ),M1:[理]河田綾,中山寛康,森本大介,研究所研究生:飯村真有,研究実習生:村島淑子,特任研究員:近藤文義,古谷浩志

〈国際協力分野〉D3:[農]町田真通,D2:[農]佐野雅美,守屋光泰,D1:[農]ノブレザダ・メアリー・マー・パドヒノグ(フィリピン),特任研究員:宮本洋臣