東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第4章 大気海洋研究所の組織と活動

4-2 教育・啓発活動の推進

4-2-5 アウトリーチ活動

1990年代以降,研究活動の一般向け広報が重視されるなか,海洋研究所でも各研究分野等でいわゆるアウトリーチ活動が行われてきた.1996年の国民の休日「海の日」の制定を契機に,より積極的に対応する機運が高まり,1997年7月20日の「海の日」に研究所を挙げて一般公開行事が行われた.太田秀(当時海洋生物生態部門教授)を世話人として,木村龍治,野崎義行,塚本勝巳3教授による講演会と屋内展示が行われ,約200名の来場者を数えた.

その後も不定期のアウトリーチ活動が続いたが,本所設立40周年の年にあたる2002年,再び研究所全体の行事として一般公開が企画された.この年は,本所の多くの教官が協力教員あるいは兼担教員となって大学院新領域創成科学研究科に本格参入して3年目にあたり,同研究科をはじめ理学系研究科,農学生命科学研究科への進学希望者向けに研究説明会(「オープンキャンパス」)が5月に開催され,海洋研究を志す学生に対する広報も本格的に開始した.2002年7月の一般公開では,学生向けに準備した資料等を一般向けに再構成した展示,機器の展示,講演を行い,約200名の入場者があった.その後は,世話部門を持ち回り制として,6月ごろに大学院志望者向けの説明会,7月の海の日前後に一般公開という2つの行事が定着した.本所の柏移転前最終回となった2009年7月の一般公開には,それまでの最多見学者数約700名をはるかに超える1,400名もの来場者があった.

これらに加え本所では,文部科学省女子中高生理系選択支援事業の委託を受け,2007~2008年度に「“海が好き”オーシャンサイエンスで活躍する女性研究者たち」と題して女子中高生向けの企画を実施した.2年間で女子校を中心に8校への出前授業を行ったほか,2008年3月と11月に各2日間,学術研究船白鳳丸の見学会を行った.また,2009年度も白鳳丸を用いた科学教室を海洋アライアンスの支援を受けて実施した.各年50名程度の女子中高生が研究船に乗り,東京湾での海水・微生物・泥の採取と分析などを体験し好評であった.

気候システム研究センターでは,気候研究の成果の発信と啓発のために,センター設立当初から毎年,公開講座を開催した.第1回は「気候システムの謎をさぐる’92」と題して安田講堂にて開催され,約400名が参加した.以降,非常に多くの参加者を得ることができた.また,より身近に市民と対話できるサイエンスカフェを2007年から2009年にかけて8回開催し,その様子は書籍としても出版された(中島映至監修『気候科学の冒険者―温暖化を測るひとびと』技術評論社,2009年).また,センターの見学ツアーを随時受け入れたほか,伊藤忠商事,NTT環境エネルギー研究所,東京海上研究所,三菱総合研究所とともに「気候環境アプリケーション・インキュベーション・コンソーシアム」を形成して,気候研究成果の企業における利用の研究を行うなど,企業連携を含む社会連携を強力に進めてきた.

大気海洋研究所となって初年の2010年,「進学ガイダンス」と名称を変えた大学院志望者向け説明会は,海洋研究所時代の慣例に従い,6月に開催された.また,一般公開は柏キャンパス全体の公開に合わせ,10月29,30日の2日間にわたって行われた.柏キャンパスの一般公開は2日間で5,000人もの人出がある一大イベントで,大気海洋研究所への来場者も2,000人弱を数える.この一般公開には,所内の広報委員会の中の研究交流小委員会が中心となり,広報室,事務部と連携して企画運営にあたっている.また本所は,キャンパス一般公開の際に柏合同イベントとして行われる女子中高生理系進路選択支援事業に参加しており,2011年度には,ラボツアーと化学・生物の2班に分かれた研究活動体験に12名が参加した.

国際沿岸海洋研究センターでも,2002年以降,海の日に一般公開行事を行っている.1回目の2002年7月の一般公開では入場者数約200名だったものが,毎年その数を伸ばして2008年には1,000人を超え,地元の恒例行事として定着した.例年,開場前から近隣在住の小中学生を中心に見学希望者が列をなすにぎわいを見せた.2011年3月の震災により同センターの施設等が大きな被害を受け,それ以後はこの行事を中断せざるを得ない状況となった.早期に復旧して以前のような活気を回復することが望まれる.