東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第4章 大気海洋研究所の組織と活動

4-1 共同利用と国内外共同研究の展開

4-1-2 淡青丸代船建造に向けての努力

初代淡青丸は,1963年の竣工以来,日本の沿岸・内湾域を含む近海域を主な対象とし,全国の研究者から申請された多様かつ独自の発想に基づく研究に対応しつつ,日本をとりまく海域の水産資源,地殻変動,環境変化,海洋汚染など,社会的要請の高い研究にとっても必須の施設として半世紀にわたり活躍してきた.第2代淡青丸は1982年に竣工し,2012年で建造から30年に達するが,一般的な海洋調査・研究船の耐用年数とされる約20年を大きく超えている.このような老朽化への対処はもとより,航続距離,可能航海日数,航海速力等の基本性能のほか,主要観測装備,観測機器等を更新していくことは,上記海域での先端的な研究観測の要請に対応するためには必須である.海洋研究所では第2代淡青丸竣工から15年を経過した1997年から,代船の構想について検討を進めてきた.

最初の検討作業は1997~1999年度にかけ,中田英昭助教授を委員長とし,所内の各研究分野を代表する研究者,淡青丸船長,同機関長,白鳳丸船長,同機関長,観測機器管理室,研究支援職員,および事務部担当者からなる作業部会(以下WG)により行われた.1998年3月に2000トン級代船の概算要求案を策定し,これをもとに1999~2001年度の概算要求(調査費)を提出したが,採択されなかった.その後,西田周平助教授を委員長とする同WGは,2000~2001年度にかけて上記概算要求書の改訂を行い,老朽化の状況,諸設備の先端化(大深度,大型機器,高速,耐荒天,クリーン採水,音響機器,気象観測,海底探査),女性・外国研究者への配慮,研究空間の拡大・改善,環境への配慮,SOLAS条約への対応,漁船登録の変更(「もっぱら漁業に関する調査」から「海洋のあらゆる分野の研究」に)等を骨子とする2002~2003年度の概算要求案を提出したが,採択に至らなかった.

2001年12月,閣議決定された「特殊法人等整理合理化計画」を端緒とする情勢の急展開[➡2―4]に対応して,2002年1月,小池勲夫所長からの要請のもとに,本WGを将来構想委員会のもとに置き,西田周平教授を長とする「研究船の運航形態等を検討するワーキンググループ(以下,WG)」とした.このため,具体的な代船の仕様等に関する策定作業は一次中断した.2003年1月,研究船移管にともなう300日運航を前提とした代船の構想について作業を再開した.2003年4月にかけて第7回~10回のWG会合を開催し,2003年4月に淡青丸代船構想を所長に提出した.この間,2003年3月には研究船の性能・装備・運用に関する情報を得る目的で米国研究船(ハワイ大学,Kilo Moana;オレゴン大学,Wecoma;スクリップス海洋研究所,Roger Revelle,New Horizon)を視察した.

2004年4月,白鳳丸・淡青丸が海洋研究開発機構(以下,機構)に移管された.移管に関する協定書の覚書には「両船の代船は海洋研究開発機構において建造し,その仕様に関しては本所に設置される研究船共同利用運営委員会で審議する」旨明記され,これを受けて同年12月,同委員会のもとに西田周平教授を委員長とする淡青丸代船ワーキンググループ(以下,WG)が設置された.

2005年6月,第1回WG会合を開催し,代船の具体的内容の検討と並行して,内外の意見を集約して,淡青丸の存在意義と位置づけを明確化する必要を確認した.同年11月,上記WGの論議を受け,日本学術会議改組にともなう海洋科学研究連絡委員会の解散に対処し,急遽関係者に呼びかけ,シンポジウム「日本における海洋研究船の現状と将来への提言」を開催した(世話人:谷口旭,徐坦,西田周平).2006年2月,上記シンポジウムでの議論を受け,「日本における海洋研究船の現状と将来への提言に関するワークショップ」を開催した.

同年5月,第2回WGを開催し,淡青丸代船構想の具体化について論議した.淡青丸の使命と他船舶との守備範囲の違いを考慮し,多目的かつ沿岸を主たる対象とする船舶という大枠を確認した.

同年6~7月,第1回~3回拡大WG(企画室と研究分野代表含む)を開催し,淡青丸の具体構想(海域,機能,装備,乗船人員など)を策定した.同年7月,「淡青丸代船構想」最終案を研究船共同利用運営委員会(委員長:本所所長)に提出し,同年8月,委員長から機構に本案が提出された.本案で示された代船の必要性・使命・要目は以下の通りである.

  • 老朽化(24年稼働,船体の腐蝕,主機関の能力低下,諸装備の劣化)→運用に支障
  • 旧式化(主要観測装備,研究室空間,漁船登録,居住・衛生設備)→最先端の研究に対処困難
  • 全国共同利用の主旨・規程に基づく運用
  • 海洋学のあらゆる分野における基礎研究と応用研究に対応
  • 研究の多様性を尊重(小規模・独創的研究)
  • 海洋に関連した諸研究分野の人材育成推進の場
  • 多様な研究基盤や生活習慣にも対応できる設備
  • 排他的経済水域を含む日本の沿岸~近海域およびアジア縁辺海域

同年9月,「白鳳丸・淡青丸研究成果発表会―海學門」のセッション「淡青丸代船への取り組み」で西田WG委員長が代船構想の経緯と具体案を報告した.

同年10月,上記シンポジウムおよびワークショップの議論を踏まえ,「わが国における海洋研究船のあり方に関する提言(案)」をまとめ,意見依頼文とともに関係する約80の大学学部・学科,学協会等へ発送した.提言の趣旨は,(1)本所,機構,水産系大学の使命と独自性の尊重,(2)これら3つの運用システム相互の有機的連携のためのシステム(連絡会)の提案,(3)文部科学省および研究教育コミュニティの使命の明確化であった.同年12月,上記提言案への意見のとりまとめを試みたが,不調に終わった.

2007年6月,文部科学省はわが国が保有すべき海洋研究船とその運用の具体的改善方策についての同省科学技術・学術審議会海洋開発分科会海洋研究船委員会による検討結果を「海洋研究船委員会とりまとめ」として公表した(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu5/reports/08021401.htm).この報告の中で,淡青丸の老朽化と沿岸域・近海を主たる航海対象とした海洋研究船の整備を最優先で行うことが強調されている.また,整備すべき海洋研究船の性能・装備についても上記「淡青丸代船構想」で提案された要目がその骨子となっている.

2009年度,機構は淡青丸代船として,次世代沿岸研究船建造の予算要求を提出したが,予算化には至らなかった.同年12月,研究船共同利用運営委員会に,研究船の基本的仕様の策定と予算獲得のための関連情報の収集・整理・提供を目的として,西田周平教授を長とする淡青丸代船建造計画作業グループ(以下「代船計画WG」)を設置し,2009年12月~2010年3月にかけ,3回の幹事会と委員からの意見聴取により「淡青丸代船構想」の再検討を進めた.

このような状況のもと,2011年3月11日に東日本大震災が発生した.震災被害への対応と中・長期的復興のための大規模な予算再編措置がとられたが,海洋関連施策に関わる2011年度第三次補正予算の中で「東北海洋生態系調査研究船」として,淡青丸後継船(以下「後継船」)建造のための予算が認められた.また,この後継船は,震災域の生態系調査を当面の主要なミッションとするものの,淡青丸と同様,学術研究船としてすべての航海を共同利用・共同研究の枠組みのもとで運航していくこととされている.ただし,母港を東北地方に置くこと,またそのミッションにふさわしい新たな船名をつけることがその条件とされた.

これを受けて,代船計画WGは「淡青丸代船構想」を基に機構との調整・協議を経て船主要求事項を作成した.船主要求事項は機構の磯﨑芳男海洋工学センター長を委員長とする「技術提案審査委員会」による承認を経て2011年10月に技術提案公募とともに公告された.同年11月,同委員会による応募提案のヒアリングと審査を経て三菱重工による建造が決定した.

2011年12月,後継船の仕様策定のため,機構は花輪公雄東北大学大学院教授を委員長とし,過半数が研究船共同利用運営委員会委員で構成される「海洋研究船建造準備委員会」(以下「準備委員会」)を組織した.また,準備委員会のもとに仕様の詳細を検討するため,西田周平教授を長とし,淡青丸代船建造計画作業グループを中心メンバーとするワーキンググループ(以下「準備WG」)を設置した.準備WGにはさらに3つのサブグループを置き,それぞれ観測機器(観測機器,音響機器,ウインチ等の関連装置:16名),船体(船体,電気,艤装等:10名),諸室(居室,研究室,倉庫等:8名)を中心に検討を進めた.2011年12月~2012年1月に計6回(ほぼ各回2日間)の会合に基づき仕様書案を策定し準備委員会に提出した.

準備委員会ではこの案に基づき建造契約仕様書(案)を決定した.2012年2月に三菱重工と造船契約が締結された.同年4月,機構は谷口旭東京農業大学教授を委員長とし,過半数が研究船共同利用運営委員会委員で構成される「海洋研究船建造委員会」を組織し,後継船が建造契約仕様書に基づき適切に建造されることを確認することとなった.同委員会のもとに主として準備WG委員からなるワーキンググループを置き,造船所から提示される詳細仕様について,専門的・技術的な観点から検討・調整を進める予定である.

最後に,後継船建造を後押ししたと思われる最近の動きのひとつに,日本学術会議「科学者委員会・学術の大型研究計画検討分科会」が策定した「大型施設計画・大規模研究計画のマスタープラン」が挙げられる.このマスタープランは2010年3月に初めて公表されたが,その策定の段階では様々な分野の学会コミュニティの意見が必ずしも十分反映されず,2010年版では学術会議の地球惑星科学委員会がまとめた5計画の中に海洋科学に関する項目がほとんど含まれていなかった.この事態を重く見た日本学術会議SCOR分科会(委員長:池田元美北海道大学名誉教授)と日本海洋学会の有志は急遽,仙台,柏,福岡の3カ所で懇談会を開催し,海洋コミュニティとしての対応を協議した.その後の活動を経て,2011年夏に地球惑星科学委員会から提出された改訂版には「海洋環境保全を担う統合観測システムの開発と構築」と題した,淡青丸の代船を含む計画が盛り込まれた.この代船計画は直接的には実現しなかったものの,海洋コミュニティからの沿岸近海用の観測研究船建造の要請は今回の後継船建造を強く後押ししたと思われる.マスタープランに関する活動は現在,日本海洋学会の将来構想委員会に引き継がれており,今後も同委員会と連携しながら,次の重要課題である白鳳丸代船を実現させていく必要がある.