東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第4章 大気海洋研究所の組織と活動

4-1 共同利用と国内外共同研究の展開

4-1-4 共同利用共同研究推進センターの活動

海洋研究所の柏キャンパスへの移転[➡2―6]に際しては,共通実験施設の設計,機器更新に関わる作業,ならびに移転作業の実務の多くを,共同利用共同研究推進センター(以下,推進センター)[➡3―2―5]に属する技術系職員が中心となって行った.特に,電子顕微鏡施設,RI実験施設,飼育実験施設など,大型設備の移設を伴う移転は,通常の研究室の移転に先駆けて開始された.移転後は,新しい共通実験施設の運用を軌道に乗せ,ユーザーへの指導・トレーニングにもかなりの時間を割いてきた.中野キャンパスでは施設ごとに独自の運用がなされていたが,柏キャンパスでは共通実験施設の管理・運用を一括して陸上研究推進室を中心に行うこととし,限られた人数で多くの共通実験施設を運用するための努力をしている.

そのような中,移転後約1年の2011年3月11日に発生した東日本大震災により国際沿岸海洋研究センター(以下,沿岸センター)は壊滅的な損害を受けてその機能はほぼ完全に麻痺し,沿岸研究推進室も実質的に活動停止状態におちいった.しかし5月には建物の一部に電気が入り,8月には1.8トンの船舶「グランメーユ」が進水し,利用可能になった.その後も少しずつ施設利用の範囲が広がり,震災後の海域調査の拠点となりつつある.本室は沿岸センターの復旧作業を行いながら,こうした外来研究員に対応するサービスを続けている.柏キャンパスでも,地震によりクリーン実験施設の共通機器に甚大な被害を受けた.震災による計画停電への対応,非常電源装置の維持管理,さらには東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う放射能測定など,災害復旧に対して推進センターのメンバーは中心的な役割を担ってきた.放射能測定については,震災後1カ月間は研究棟の屋上にて土日を含めて毎日複数回測定を行い,大気海洋研究所としてデータを蓄積してきた.また,白鳳丸や淡青丸も震災対応研究航海[➡4―3―3]を数多く行い,研究航海企画センターや観測研究推進室がその対応にあたってきた.

震災により研究航海の延期等が生じたものの,観測研究推進室メンバーは2010年には1人当たり平均88日間,2011年には平均64日間の乗船を行い,観測作業や研究支援を行ってきた.2011年には淡青丸後継船の建造も決定し[➡4―1―2],今後観測作業や船上での研究支援の要望はますます増えると考えられる.観測機器については,限られた人数で多岐にわたるすべての機器を管理することが困難であるため,観測機器のうち使用頻度と共通性がそれほど高くないもの(全体の4割程度)の管理を関係の深い研究分野に委託することで負担を軽減している.また,学術研究船の運航を担当する海洋研究開発機構と実務者レベルの会合を定期的に開催することで,研究航海の円滑な実施をはかっている.こうした努力の結果,2011年4月の淡青丸運航の外部委託化を大きな問題なく乗り切ることができた.

柏キャンパスの共通実験施設利用の登録者は2011年度には300名を超え,沿岸センターでも「東北マリンサイエンス拠点形成事業」[➡6―10]の開始によって外来研究員の数が今後大きく増えることが予想される.日常の研究支援活動以外にも,年間10件を超える見学や一般公開への対応も積極的に行っている.柏キャンパスに移転後は中学校や高等学校の見学が急増しているほか,本学エグゼクティブマネージメントプログラムや新任職員研修をはじめとする学内外からの見学・研修への対応も増えており,観測機器・飼育実験施設・電子顕微鏡施設・クリーン実験施設などは,見学や研修の主要なルートとなっている.

以上の通り,推進センターに期待される業務はますます増加している.各室では,室員らが定期的な会合を持って情報交換を行うとともに,相互の役割や解決すべき問題などについて議論を行い,そのサービスを向上させるように努力している.また,運営費交付金が減少する中で,本所は共同利用に関わる経費については例外的に予算を維持し続けてきた.しかしながら,機器類には高額なものが相当数あり,推進センターの経常予算規模ではなかなか対応できないことも事実である.それらの更新をいかに適切に行いながら高精度の観測データ収集を保証していくかは今後の大きな課題である.また教員や事務職員と同様,技術系職員についても定員削減が着々と進められている状況下では,十分な人的資源をすべての室と設備とに投入していくことは難しい.

2010年4月の発足に先だって,技術専門員の盛田孝一(沿岸研究推進室)と石丸君江(陸上研究推進室)が2008年3月に,原政子(陸上研究推進室)が2010年3月に定年等により退職した.沿岸センターでは2009年4月に平野昌明が盛田の後任に採用され,2011年10月に新たな特任専門職員として矢口明夫が採用された.観測研究推進室では2011年4月に竹内誠が,陸上研究推進室では小川展弘(2012年4月着任予定)が技術職員として採用され,若い力と新しい技術を推進センターに吹き込んだ.しかしながら,今後は職員の定年退職に伴う新規採用がただちに行われるとは限らず,共同利用の質を落とさずにいかに適切な人的配置を行っていくかについても検討が必要である.さらに長期的な視点から,世代間のバランスをうまく維持しながら技術を継承していくことが重要である.