小松輝久准教授が日仏海洋学会賞を受賞
更新日:2020年01月28日
海洋生命科学部門・行動生態計測分野の小松輝久准教授は「藻場の環境と生態および分布に関する研究」により,2010年10月19日,日仏海洋学会から日仏海洋学会賞を受賞されました.
受賞理由
藻場が環境に及ぼす物理的作用に関する研究では,ガラモ場繁茂期の春季には夜間に放射冷却によって密度の増した接岸水がガラモ群落内を密度流となって移動するcascading現象が生じ,藻場による日陰と鉛直混合を妨げる作用により,その流れが長期間持続することを明らかにした.また,繁茂期には夜間cascadingによる密度成層が生じた場合に,呼吸作用による低pH水や低DO水が群落と重なるように分布することを見出した.また,藻場内の流動を計測するため,石膏球の湿重量の減少量から流動を計測する方法を考案し,この方法を用いてガラモが藻場内の流動を弱めていること,また,アマモ場においてもアマモが流れを弱めていることを明らかにした.この流動測定方法は,現在もノリや魚類の養殖場での漁場環境を調べる方法として用いられている.
その後,フランスのニース大学沿岸海洋環境研究室にフランス政府給費留学生として1年間滞在し,地中海に侵入し藻場を形成しはじめた熱帯海藻イチイヅタの成長と生存に及ぼす水温と光の影響についての研究を行った.その結果,地中海型イチイヅタが低温と高温に耐えられる品種であることを明らかにした.帰国後,日本においてイチイヅタが水族館で展示されていたことから江ノ島水族館と協力し,水族館にアンケート調査を行うとともにその危険性について啓蒙した.そして,ある水族館では天然海域に流出し,一次的に夏季に群落を形成し,冬季に消滅していたことを突き止めた.このことを論文に出版したところ,マスコミにより取り上げられ,海洋での外国種侵入問題の重要性を社会的に認知させることに貢献した.
ガラモ場を構成するホンダワラ類は,繁茂期のころ草丈が最大となり,波や流れで基質から剥がされて,一部は岸に打ち上げられるが,その他は浮力があるため沖合へと流出する.天然の種苗に依存するブリ養殖にとって,モジャコ(ブリ稚魚)を流れ藻ごと採集するため流れ藻は不可欠なものとなっており,ブリ産卵場が分布する東シナ海の流れ藻は非常に重要である.2002年から研究船での流れ藻分布調査,中国の研究者と協力したガラモ分布調査,流れ藻の輸送シミュレーション,遺伝子解析など東シナ海の流れ藻の起源を明らかにする多面的な研究を行っている.
さらに近年は,音響測深機,ナローマルチビームソナー,サイドスキャンソナーと地理情報システムとを組み合わせた藻場のマッピング法に関する研究とともに,人工衛星のマルチバンド画像を用いた藻場やサンゴ礁のマッピングを行う研究を行い,それらの研究をチュニジア,タイ,マレ-シア,インドネシアの研究者と協力して国際的に展開し,多大な成果を上げつつある.
小松輝久博士は,沿岸海域生態系で重要な役割を果たす,海草・海藻藻場の重要性に関する主に物理的な視点からの研究を一貫して行ってきた.これらの藻場の環境と生態および分布に関する顕著な研究業績は,日仏海洋学会賞を受賞するに相応しいと評価されました.
日仏海洋学会学会賞受賞者一覧:http://www.sfjo-lamer.org/ml/lamer/20141109/28_3.pdf