東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第3章 大気海洋研究所の設立への歩み

3-1 大気海洋研究所の設立

3-1-3 設立準備の本格化

両組織および本学本部の意思の方向性が固まってきたことを受け,西田睦所長および中島映至センター長は,2008年9月に国立大学の附置研究所を担当する文部科学省研究振興局学術機関課を訪ね,両組織が連携・統合の方向で検討を進めていることを改めて報告した.全国共同利用研究所の制度が始まって以来,複数の組織の統合の例はまだ一度もないとのことで,同課は当初こそ慎重な応対であったが,その後,折に触れ準備状況を伝えて意見交換を行う中で,その意義を理解し,建設的なアドバイスや支援をもらえるようになった.

国立大学は法人化して国の直接管理を離れたので,組織の改編も大学で自主的に行える.部局の自主性を重んじる本学では,部局でしっかりと検討したよい計画であれば,大胆な改編であっても十分に実現できる可能性がある.今回の連携・統合案は,そうした法人化という新しい条件を生かしたものであった.法人化以前であれば実現は極めて困難であっただろう.今回の場合,その実現に好都合なさらなる状況の変化があった.それは,全国共同利用研究所制度から共同利用・共同研究拠点制度への転換の動きである[その背景や詳細は➡4―1―1].

上記のように学術機関課が当初,慎重であった理由のひとつは,もともと全国共同利用研究所・センターは各学問分野の研究者コミュニティの要請によって設置されたものであるため,大学が法人化したとはいえ,当該組織や大学の意思のみによって改廃をするというわけにはいかないという,極めて筋の通ったものであった.2008年10月から拠点化への準備に本格的に入ったが,両組織と本学本部で新研究所設立に向けて努力をすることを決定したことを踏まえ,両組織を統合して設立される新研究所を共同利用・共同研究拠点とする申請案を計画した.拠点申請には,研究者コミュニティの支持の証拠がいるとのことであった.そこで,今回の申請計画は,両組織を統合して大気海洋研究所(仮称)を設立するということが前提になっているので,拠点化とあわせて統合に関しても相談し,よければ賛同の意思表明をいただきたいという依頼を関連諸学会に行った.その結果,海洋研究所設立のきっかけとなる建議をした日本海洋学会と日本水産学会,気候システム研究センターと最も関連の深い日本気象学会をはじめ,依頼した関連13学会すべてから賛同を表明する文書を受け取ることができた.日本学術会議の関連委員会や分科会においても新研究所設立計画と拠点化について説明がなされた.また,研究者コミュニティからの委員が加わっている両組織の協議会でも,本件についての報告・説明・議論がなされた.

このように関連研究者コミュニティや文部科学省との情報交換を進めるとともに,両組織では並行して拠点申請および関連する概算要求の準備を鋭意進めた.概算要求案は,両組織および「海洋研究所・気候システム研究センターの連携に関する懇談会」(2008年11月まで)・「海洋研究所・気候システム研究センター連携準備委員会」(2008年12月から,後述)で検討を重ねてきた新研究所の理念や組織案に基づき,次のように策定した.すなわち,新研究所は,研究内容が相補的である両組織が統合することによって,単なる足し算以上の効果を生もうというものである.そのために,活発な化学反応を媒介する場として地球表層圏変動研究センターを設定し,両組織の教員が専任・兼任となるとともに,新たなポストを戦略的に配置する計画である.この計画のための概算要求が,新拠点全体の機能をカバーしつつ,この地球表層圏変動研究センターの活動と組織の充実を重要な柱としてハイライトする形で策定された.この概算要求「地球システム変動の統合的理解―知的連携プラットフォームの構築」は,文部科学省特別経費事業として,要求どおりではないものの,ある程度の経費の配分が認められた.しかし教員ポスト増については,厳しい国家財政を反映して,全く認められなかった.そこで地球表層圏変動研究センターへの学内再配分を求め,教授1の配分を10年時限付きで得た.また総長裁量ポストを総長に求め,6年の時限付きではあるが,教授1および准教授2の配分が認められ,人員増をもって新研究所を立ち上げることができた.

2008年12月,本学研究科長・研究所長合同会議にて,両組織の統合による新研究所設立およびその拠点化について全学的に検討するため,「東京大学海洋研究所・気候システム研究センター統合準備委員会」を設置することが了承された.2009年1月に同委員会(委員長:平尾公彦理事・副学長)が開催された.委員会は学内関連部局の代表者等と両組織の責任者により構成された(山田興一理事,立花政夫人文社会系研究科長・文学部長,保立和夫工学系研究科長・工学部長,住明正サステナビリティ学連携研究機構統括ディレクター,日比谷紀之理学系研究科地球惑星科学専攻教授,古谷研農学生命科学研究科水圏生物科学専攻教授,須貝俊彦新領域創成科学研究科自然環境学専攻教授,歌田久司地震研究所教授,沖大幹生産技術研究所教授,西田睦海洋研究所長,中島映至気候システム研究センター長).委員会では,準備されている大気海洋研究所(仮称)の概念と組織案,拠点申請案と関連する概算要求案,教員採用可能数再配分要求案などの説明に基づいて検討を行い,本学として,この新研究所が海洋研究と気候研究の共同利用・共同研究拠点としてその機能を積極的に果たすよう支援すべきことを確認した.本学では運営費交付金の削減を受けて採用可能数を減らしているが,今回の統合は積極的なものであり,「合理化減」を求めるという見方を当てはめるべきではないことも確認した.さらに,新研究所と共同利用・共同研究拠点形成は本学第2期中期目標・中期計画の当初(2010年4月)から活動を始めるのが望ましく,したがって本学本部と両組織はこれが実現するスケジュールで的確に準備を進めるべきことを指摘した.2009年2月9日,本学役員懇談会は,この統合準備委員会の審議結果を了承し,ここに東京大学として新研究所を設立することが最終的に決定された.